事例:E‐91
【整備車両】
GSX1300RY (GW71A) "HAYABUSA" 隼 (ハヤブサ) 年式:2000年 参考走行距離:約22,400km |
【点検結果】
エアクリーナエレメントを点検する為に燃料タンクを持ち上げたところ,
取り付けボルト5か所のうち1か所に違うものが使用されていました.
図1.1はエアクリーナエレメント上部の様子です.
黄色の四角Aで囲んだボルトが他のものと違う形状をしていました.
図1.2 正規の純正ボルト(左)と取り外したボルト |
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図1.2は正規の純正のボルト(左)と取り外したボルトを比較した様子です.
正規のボルトはねじ溝よりも径の大きいいわゆるスペーサとなる部分が設計されていて,
エレメントカバーのボルト取り付け部のハウジングに収まることにより位置ずれを防止しています.
それに対して取りはずしたボルトは,ねじ頭までねじ径がストレートにのびており,
このまま使用した場合,ハウジングとのすき間ができてガタつきが発生します.
今回取り付け時にはワッシャがエレメントカバーに押し付けられていた為,
位置のずれは確認できませんでしたが,本来はボルトの頭と締め付け物による保持のみならず,
ねじの外径とハウジングとの適正な結合と合わせて保持されるべきであるといえます.
図1.3 エレメントカバー取り付けボルトのハウジング |
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図1.3はエレメントカバー取り付けボルトの収まるハウジングの様子です.
この内径にボルトの最外部の径が設計されており,丁度合わさることによって位置を決めます.
今回の事例では位置が定まらずに自由な状態でしたが,
接触面の摩擦が大きかった為ことや,他のボルト4つが確実に締め付けられていたことにより,
大きな位置ずれは発生していませんでした. |
【整備内容】
エアクリーナ取り付け性能を考えると,ボルトが一つだけ形状の違うものがついていても,
他の4か所が確実に締め付けられていれば,法定速度域では全く影響がないといえます.
しかし,300km/h以上の走行状態においては,各部のわずかな狂いが不具合の発生源となる為,
可能な限り良好な状態にしておく必要があります.
図2.1は正規のスズキ純正ボルト使用しエアクリーナエレメントを取り付けた様子です.
がたつき等がなく,正しく取り付けられたのを確認して整備を完了しました. |
【考察】
なるほど全5か所のうち1か所のボルトの形状が多少違うことは,
締め付けという点において,ほとんど影響がないといえます.
しかし,設計者の意図を汲み取れば,ハウジングに適合する段付きのボルトが使用されていることを,
整備技術者は受け取らなければなりません.
もちろん見た目もやはり5つ頭がそろっていた方が美しいといえます.
私は良く“見た目の美しさ”という表現を使用します.
確かにそれは金属の光沢や塗装も含みますが,一番は機能美を意味しています.
つまり理路整然とした規律の中にも美しさが存在していて,
それらは無駄がなく,必要最低限の部品で構成されているにもかかわらず,最大限の仕事をする様に期待されています.
メガスピードではその様な美意識を大切にしています.
例えばこの事例のボルトにしても,ある程度は適当なボルトでも代用可能でしょう.
しかし,この車両は300km/hを超える車速が可能であり,ラム圧を狙った外気取り入れ口やそのラインを考えれば,
その状態において約83,3m/秒の風の中を突き進みながら吸入される空気がエアクリーナに吹き込み,
内部に上昇した圧力が発生してもエアクリーナの蓋がずれないことが求められ,
それを実現する為には,やはり専用に設計されたボルトが使用されるべきであるといえます.
メーカーの販売製品に無駄な部品はないといっても過言ではありません.
なぜなら無駄なものをつけ足せば必ず生産コストが発生するからです.
設計された部品の機能もまた同様であり,無駄なものはありません.
したがって,例えばボルトを紛失してしまっても,可能な限り正規のもので対応することが望ましいといえ,
この事例においても,なぜエアクリーナに段付きボルトを使用しているか,一歩立ち止まって考える必要があります.
メガスピードでは純正の形状や純正部品,そして純正の取り回しを大切にしています.
部品のひとつひとつに役割が与えられているのと同様に,その最小単位であるボルトの一つ一つにも設計意図があります.
やはりそれらを最大限に生かせる整備技術や,
正規の部品でないものの取り付けや違和感を瞬時に見極める能力が求められるといえます. |
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