トップページ故障や不具合の修理事例【二輪自動車】 エンジン関係の故障、不具合、修理、整備の事例 (事例:241~250)


事例:E-244

2サイクルオイルの変質硬化によるエンジン焼き付きの危険性について

【整備車両】 
 RG250EW (GJ21A) RG250Γ(ガンマ) 1型  推定年式:1983年  参考走行距離:約13,900km
【不具合の状態】 
 オイルタンク内部の2サイクルエンジンオイルが変質して硬化していました.
【点検結果】 
 この車両はお客様が他店で購入された当初から7,000回転以上の高回転がスムーズに吹け上がらない ※1 という症状が発生していたということで,メガスピードにて故障診断およびその整備を承ったものです.今回の事例では,2サイクルエンジンオイルの不具合について記載します.

図1.1 タンク出口でぶら下がったままの状態の2サイクルオイル
 図1.1 はオイルタンクのオイル吐出口にぶら下がっている2サイクルオイルの様子です.ゼリー状に硬化している為,この状態でしばらく出口を塞いでいました 通常オイルホースを取り外すと,2サイクルオイルは勢い良く出てきます.

図1.2 落下せずにぶら下がったまま伸びる2サイクルオイル
 図1.2 は出口からぶら下がったまま鉛直下方に伸び続けている2サイクルオイルの様子です.ホースを取り外してからこの状態になるまでに,少なくとも1分程度は時間を要していました.そしてその後数秒は次のオイルが出てきませんでした.

図1.3 ゼリー状に硬化した2サイクルオイルと推測される物質
 図2.2 はオイルタンクの底に溜まっていた2サイクルオイルと推測される物質です。ゼリーを少し硬くした感じの物質でした.おそらく2サイクルエンジンオイルが何らかの原因で変質,硬化したものであると考えられます.見た目はとてもフルーティで,ちょうどマスカットの果肉入りゼリーのような美味しそうな感じでした.
 しかし,これがもし細いオイルタンクのパイプに詰まれば,オイルの供給が断絶され,エンジンに重大な損傷を発生させる可能性があります.実際にホースを取り外したときは,これらのゼリーの一粒が詰まっていました.そもそもオイルと言っても,この物質が本当にオイルなのか,そしてオイルだったとしても,メーカーが製造時に謳った性能を保持しているのかは疑問です.


 少なくともお客様がある程度の距離を当社に自走で来られていることから,ゼリーは下に沈んでいて,上澄みのオイルが潤滑していたと考えられます.そして当社で不具合確認の試運転を50km程度実施しているときも同様だったと考えられます.しかし,ホースを外してこのような状態になっていることを見ると,あともう少し試運転していたら,大変なことになっていたかもしれません.ましてやシリンダもピストンもない,修理するのが困難な,いわば極力焼き付かせてはならない車種です.
 今回の事例では改めて試運転のリスクを認識しました.他店で納車整備されているものですが,この件でますます自分で見ていないものは信用できなくなりました.メガスピードHPの熱心な読者の皆様であれば,この様な事例ばかり目にしていれば,私が自分で見ていないものに対して頑なになるのも無理はないことだと理解していただけるはずです.


【整備内容】
 オイル廻り一式洗浄・点検・整備することでオイルラインのクリーン化を図り,同時にポンプの状態も測定して性能を確認しました.

図2.1 洗浄されたオイルタンク
 図2.1はオイルタンクを取り外して内部を洗浄した様子です.オイル注ぎ口とオイルレベルスイッチそしてオイル吐出口の3点から内部を洗浄し,クリーンな状態にしました.またタンク外観も汚れていた為,可能な限り洗浄しました.

図2.2 整備の完了したオイルタンク
 図2.2 は配線被覆のむき出しになったオイルレベルスイッチを新品に交換し,入れこぼしたオイルの受け皿とそのホースを洗浄したタンクに取り付けた様子です.これでタンク側の状態は万全になりました.

図2.3 点検洗浄した蛇腹
 図2.3 は燃料タンクからオイル注ぎ口の蛇腹を取り外して洗浄した様子です.いくらオイルタンクを洗浄して綺麗にしても,その上流にあたるオイル注ぎ口への通路に異物があったのでは何の意味もないことです.したがって,入口からタンク出口までのラインを洗浄にてクリーンな状態にしました.

図2.4 2サイクルオイルポンプの吐出量の測定
 図2.4 はオイル廻りの整備の一環としてオイルポンプを単体で吐出量を測定している様子です.オイルラインが清浄化されたとしても,オイルを圧送する能力が低下していては意味がありません.その能力を確かめるのであれば,やはり単体でオイルポンプの吐出量を測定する以外に方法はないと言えます.
 今回の測定結果では,規定回転数においてレバー全開では1番2番ともに約1,8mlと規定上限で良好でした.またレバー全閉でも規定値上限寄りの性能を保持していました.したがってエンジンが回っている限り,正常にオイルを供給することが約束されることが確認できました.

図2.5 エンジンに取り付けられたオイルポンプ
 図2.5 は点検測定,洗浄の完了したオイルポンプをエンジンに取り付け,新品のオイルホースを新品のクリップで固定した様子です.またスロットルワイヤを新品に交換し,キャブレータ側とのレバー開度を合わせました.

図2.6 オイルホース末端部でのオイルの吐出確認
 図2.6 は,シリンダに接続する,いわばオイルホース末端部から2サイクルオイルが確実に出ていることを確認している様子です.同時にエア抜きも実施し,オイルタンクからホース末端部まで確実に整備されたことを確認しました.
 図の様にオイルと言っても液体ですから,口が直径2mm程度の細いホースでさえ,オイル口からはオイルが自然に垂れてきます.この状態を見れば,図1.1のゼリー状に硬化して出口を塞いでいたものがいかに異常であるかが分かります.

図2.7 シリンダに接続されたオイルホース
 図2.7 はシリンダにオイルホースを接続した様子です.新品のクリップで確実に固定しました.これによりオイルラインはすべての個所で正常になりました.そして実際に一般道と高速の合計150km程度の距離を試運転し,問題ないことを確認して整備を完了しました.


【考察】 
 RG250Γ (GJ21A) 型ではオイルタンクが黒である為,乳白色の樹脂製品に比べてはるかに内部の状態が分かりません.したがって,もし中古で車両を購入されたのであれば,オイルタンクを確認していない限り,例え今まで問題なく走行できても,内部にはオイルホースより大きな異物が潜んでいて,いつそれが詰まるか分からないという危険性が排除できないことを意識しておかなければなりません.

 今回の事例では,オイルタンク内部に劣化したとみられる2サイクルオイルが塊になっていました.他店で購入されたお客様も,まさかオイルタンクの中にこの様な異物が入っているとは思いもしなかったはずです.そして販売店も,おそらく納車整備でオイルタンク内部まで洗浄していなかったと推測されます.単なる納車整備であればコスト的にも面倒臭さからもそこまで実施できないかもしれません.それが5年落ちくらいの車両であれば,それで通用するかもしれませんが,この事例の車両は発売が1983年です.初めてカウルが認可された20世紀のバイクです.それを考えれば,現在までに何かしら発生していると疑って取り組まなければなりません.それゆえ当社の『オイル廻りの整備一式』という整備プランが存在するのです.

 特にシリンダもピストンも絶版であるような車両はエンジンを損傷すると修理が困難なので,尚一層オイル廻りの整備が欠かせず,オイルラインを包括的に見ておけば安心して乗れます.逆にどこかしら不安なまま乗っていたのでは楽しくありませんし,貴重な時間を使って不安に陥っていたのでは何の意味もありません.もしオイルラインのチェックをご希望であれば,当社は全力でサポートさせていただきたいと常に考えております.


※1 高回転および低中回転の空燃比の狂いによるエンジンの吹け上がり不調について





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