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事例:D-47

ステータコイル配線被覆の破れと取り付けボルトのナメについて

【整備車両】 
 R1-Z (3XC) 3XC1  推定年式:1991年  参考走行距離:約15,200 km
【不具合の状態】 
 充電不良によりウインカーの点滅サイクルが極端に長い状態でした.
【点検結果】 
 この車両はメガスピードで不具合の整備を承る前に他店で整備されたものですが,リザーバタンクに冷却水が全く入っていない等,各部に不具合が見られた為,それぞれについて整備し直しました.ここでは充電不良を起こしていた為,発電系統を点検整備した際に気づいた配線被覆の破れと,頭のナメたステータ取り付けねじについて記載します.

図1.1 破損しているカプラ側の配線被覆
 図1.1はステータから発電された電流やピックアップコイルからの信号を送る配線束の様子です.黄色の円で囲んだ部分が破損していました.白い内部被覆は発電電流がレギュレータに贈られる配線であり,これが損傷していた場合は十分な電流がレギュレータに送られず発電不良を発生させます.

図1.2 破損しているエンジン側の配線被覆
 図1.2は図1.1よりステータ側に近い部位に位置する配線束の様子です.黄色の円で囲んだエンジン下部に接触する部分の被覆が破損して内部の配線が露出していました.

図1.3 取り付けねじの頭の破損しているステータ
 図1.3はフライホイールを取り外し,発電コイルであるステータ本体を確認している様子です.黄色の円で囲んだ部分の取り付けねじが破損していました.

図1.4 緩める方向にナメているねじの頭
 図1.4は図1.3の黄色い円で囲んだボルトの頭を拡大した様子です.緩める方向に大きくえぐれている為,外そうとして失敗した,あるいは破損させたまま何とか取り外せたものの,そのまま再使用して取り付けられたものであると推測されます.
 当該車両がメガスピードに入庫した段階で充電不良に陥っていた
※1 ことを考えると,通常この部分は取り外すことはまずないことから,過去にこの作業が行われた段階ですでに充電不良が発生していて,ステータを取り外して点検しようとした可能性も否定できません.

図1.5 被覆の破損しているステータコイル
 図1.5はステータコイルASSYを取り外した様子です.青い円と楕円で囲んだ部分が配線の損傷していた部位です.その他は大きな損傷等は見られませんでした.

図1.6 外部被覆損傷部の内部配線
 図1.6は外部被覆が破損していた部分の内部の配線を取り出した様子です.溶けた外部被覆が熔着している部分がある程度で,大きな損傷は見られませんでした.また発電電流を送電する白い配線も三相とも異常は見られませんでした.この段階で配線の損傷による発電不良を充電不良の原因から除外することができます.


【整備内容】
 ステータ本体は各部の点検により正常であると判断し,被覆の補修を実施しました.

図2.1 洗浄された配線
 図2.1は細部まで確認する為に洗浄した配線の様子です.発電の三相を始め,それぞれ異常がないことを確認しました.

図2.2 補修されたステータASSYの配線被覆
 図2.2はステータASSYの配線被覆を補修した様子です.ステータ本体のコイルは非常に良好な状態でした.

図2.3 補修された配線束
 図2.3は配線束を補修された配線束の様子です.防水方向にハーフラップで仕上げました.これによりこの先長期間発電に対する配線被覆の損傷の心配から解放されます.

図2.4 新品のボルトで取り付けられたステータコイル
 図2.4はナメていたボルトを新品に交換してステータコイルをエンジンに取り付けた様子です.発電系統は点検の結果,最終的に問題ないと判断して整備を完了しました.


【考察】 
 今回の充電不良は結果的にレギュレータの故障による発電電圧制御の不具合が原因でした.しかしそれが原因といえるのは,ステータコイルやロータ等の発電系統を確実に点検して問題ないと判断したからこそです.単に最初から勘でレギュレータを疑ってそれのみを交換した場合,例え直ったとしても発電系統を確実に見ておかなければ不安は払拭できません.
 R1-Zの様にキャブレータ式燃料供給装置やCDI点火といった点火にも燃料供給にもバッテリに依存しない車両ならまだしも,バッテリ点火や電子制御式燃料噴射装置(インジェクション)モデルであれば,出先で充電不良が発生した場合は帰ってこれなくなります.
 やはり充電不良が発生した場合,発電系統と,発電された電流の電圧制御系統の2つを同時に確実に見ておかなければならず,それが休日の楽しいレジャーになるのか,苦い思い出になるかの明暗を分けることになります.


※1 レギュレータの故障による充電不良がもたらすウインカーの動作不良について





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