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事例:D‐13

オイルレベルスイッチ配線の損傷と短絡による車両火災の危険性について


【整備車両】

 RG250EW
(GJ21A) RG250Γ(ガンマ) 1型  推定年式:1983年  参考走行距離:約18,600km


【不具合の症状】

 オイルレベルスイッチから出ている配線と車体側から出ている配線の接続部が損傷していました。

【点検結果】

 この車両は個人売買で購入されたお客様のご依頼を承りメガスピードで様々な点検整備を行ったものです。

オイルポンプの吐出量測定やオイルホースの交換,

オイルタンクの点検洗浄等オイル廻り一式の整備のご依頼を承り,

各部を点検していると,オイルレベルスイッチの配線が損傷していることを確認しました。



図1.1 新車当時からのものと推測される古いオイルレベルスイッチ

 図1.1は取り外した古いオイルレベルスイッチの様子です。

点検するとスイッチ本体は感度が鈍くなっているものの,性能レベルは使用可能である範囲でした。

しかし図の黄色で囲んだ部分に配線の損傷が見られました。




図1.2 配線被覆から露出した銅線

 図1.2は図1,1の黄色い部分を90度ずらした位置から撮影したものを拡大した様子です。

黄色い四角Aで囲んだ部分と黄色い四角Bで囲んだ部分は配線の被覆が破れ,

内部の銅線が剥き出しになっています。

それぞれの距離は1mmもなく,いつ接触してもおかしくない状態でした。

Aの配線はアース,Bの配線は電源ですが,

BにはイグニションONの状態で常に電源電圧がかかっているので,

万が一AとBの配線の破損して外部に露出している銅線部が接触すれば短絡による火花が発生し,

非常に危険な状態に陥ります。

GJ21A型の場合,燃料タンクの真下に2サイクルエンジンオイルタンクが設置されており,

その上にオイルレベルスイッチが取り付けられる構造になっています。

燃料に極めて近い位置で短絡が発生すれば,それは車両火災を引き起こす直接の原因になります。




図1.3 被覆が破れて露出している車体側の銅線

 図1.3はオイルレベルスイッチに接続される,車体側メーンハーネスから出ている配線の様子です。

絶縁テープが巻かれていたので,念の為はがして内部を確認したところ,

青/白の電源側も黒/白のアース側もともに被覆がやぶれて銅線が露出していました。

特に電源側の銅線は目視で撚り線の7割近くがすでに断線していました。

やはりこれもオイルレベルスイッチ側から出ている配線と同様に,

万が一短絡すれば車両火災に直接つながる原因になります。




図1.4 脱落した電源側ギボシ部

 図1.4は露出した銅線の状態を確認する為に向きを数回変更した段階で脱落した電源側配線の様子です。

これは銅線が様々な向きに動かされた結果ひずみが進行し破断点に至って切断されたものであるといえます。

指で数回向きを変更しただけでこの様な状態に陥ってしまったので,

メガスピードでの点検で不具合が発見されずこのまま乗り続けていたら非常に危険であったといえます。

絶縁テープが巻かれていたのは過去に整備した人が,

配線の損傷に気付いて一時的に絶縁を図ったものであると推測できます。

しかしメガスピードで点検した段階ですでにビニールテープの接着剤が溶けてシール性能が低下しており,

半分ほどけた状態になっていたので抜本的に修理される必要があると判断しました。




図1.5 電源電圧の確認

 図1.5は電源側のイグニションONによる電圧測定の様子です。

エンジン停止状態において約11,2Vの電源電圧が脱落したギボシ根元にかかっていることを確認しました。

機能としては正常でもこのままでは使用不可能であるといえます。




【整備内容】

 オイルレベルスイッチ根元の配線と,車体メーンハーネス側からの損傷した配線を修理する必要があり,

この2点を解消する為に整備を行いました。



図2.1 新品のオイルレベルスイッチ

 図2.1は新品のオイルレベルスイッチの様子です。

取り外した古いオイルレベルスイッチは根元の被覆が破れていた為,その修理が必要となりますが,

整備している段階で新品の供給が確認できたので,

価格と信頼性を考え新品を取り寄せました。

取り外した古いスイッチは感度が鈍っていたことも含めて,

古いオイルレベルスイッチを修理する場合より,費用と結果の両面でそれを上回ると判断した為です。



図2.2 新品のオイルレベルスイッチ配線取り出し部

 図2.2は新品のオイルレベルスイッチの配線取り出し部の様子です。

新品の状態では根元から完全に絶縁されており,尚且つ配線に柔軟性があり,それでいてしっかりしていることが分かります.



図2.3 点検洗浄したオイルタンクに取り付けられた新品のオイルレベルスイッチ

 図2.3は取り外して単体で点検洗浄したオイルタンクに新品のオイルレベルスイッチを取り付けた様子です。

GJ21A型のオイルタンクは半透明の樹脂ではなく,

図の様に黒であることや燃料タンクの真下に取り付けられる為内部が全く確認できない状態にあるので,

オイルレベルスイッチは他の2サイクルエンジン搭載モデルよりも尚一層重要であるといえます。




図2.4 オイルレベルスイッチに接続されたギボシと配線及びカプラのセット

 図2.4はオイルレベルスイッチから出ている配線のギボシに対し,

ギボシで接続して配線を延長し,110型2極カプラ雄側を取り付けた様子です。

燃料タンクの脱着のたびにギボシを取り外ししていたのではいずれ近い将来同じ様に損傷する可能性がある為,

ギボシ部は触ることなくそのままでカプラ部で脱着を行える様にしました。




図2.5 ギボシ加工された車体側からの配線

 図2.5は車体側ハーネスから出ている損傷した配線をギボシ加工した様子です。

すべてのギボシはカシメた上に半田を溶かし込み確実に接続しています。




図2.6 車体側からのギボシに配線及びカプラを取り付けた様子

 図2.6は図2.5のギボシに対応したギボシと配線,そして110型2極カプラ雌側を接続した様子です。

これによりオイルレベルスイッチ側からの配線と同様にギボシ部は一切触ることなく,

燃料タンクの脱着の際にはカプラ部で配線を取外し・接続することにより,

容易にオイルレベルスイッチの配線の脱着を可能にしました。




図2.7 カプラで接続されたオイルレベルスイッチ側の配線と車体ハーネス側の配線

 図2.7は車体側のハーネスから延長接続された110型2極カプラに,

オイルレベルスイッチ側から延長接続された110型2極カプラを接続した様子です。

燃料タンク脱着時の作業性を考慮し,オイルレベルスイッチ側のカプラを雄としました。

オイルレベルスイッチに関する配線が延長されたことにより燃料タンクを持ち上げることのできる距離が延び,

よりスムーズに燃料タンクを脱着することが可能になりました。



図2.8 点灯確認したオイルレベルスイッチインジケータ

 図2.8は実際にオイルレベルスイッチの動きに対してインジケータが確実に点灯するか点検した様子です。

オイルレベルスイッチが新品になったことにより,スイッチのON,OFFの反応速度が改善されたことを含め,

各部に異常がないことを確認して整備を完了しました。



【考察】

 燃料タンクを取り外す時には必ずオイルレベルスイッチの配線も外す必要があり,

純正ではその配線の接続部はギボシになっています。

この事例では毎回ギボシを脱着するたびにその付け根が手で保持されることにより,

やがて疲労が蓄積し被覆が破れて内部の銅線が露出したものと推測できます。

内部の銅線も脱着のたびに変形を繰り返し,

疲労が蓄積した結果7割も断線してしまったと考えられます。


 断線によりオイルレベルスイッチが正常に作動しなくなることが,

エンジン焼き付きにつながる原因の可能性のひとつになるということは確かです。

しかしそれ以上に,

電源側の配線とアース側の配線の被覆が破れて内部が剥き出しになった状態は非常に危険であるといえます。

これはエンジンが壊れるというレベルではなく,

短絡が原因で発生した火花がガソリンに引火した場合,車両火災といった大惨事につながる恐れがある為です。

例えヒューズが正常に機能したとしても,あるいは何らかのフェイルセーフ機構が供えられた車両であったとしても,

そして電圧が低く火花が微小であったとしても,

さらには短絡しても火花が出ないであろうと推測できる状態であったとしても,

短絡が発生する様な状況は絶対に避ける必要があります。

短絡による過電流は火花の発生のみならず,

コントロールユニットを始め電装系に重大な損傷を及ぼす可能性が十分にあります。

やはり発売から四半世紀以上経過した車両であれば,

ギボシ等の接続部の腐食等の点検もさることながら,

それらを取り外す時に手で保持されたであろうギボシ付け根部の配線の被覆の状態も,

合わせて確実に点検整備しておく必要があるといえます。





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