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事例:D‐32

斜めにねじ込まれたスクリュにより無理に固定されたヘッドライトについて


【整備車両】

 RG400EW-2W (HK31A) RG400Γ(ガンマ) 2型  年式:1987年  実走行距離:約1,200km


【不具合の状態】

点検整備の為にアッパーカウルを取り外すと,ヘッドライトの固定スクリュが脱落していました.


【点検結果】

 
この車両はお客様の長期保管により不動に至り,メガスピードにて再生のご依頼を承ったものです.

ここではヘッドライトのガタつきを修理する為にアッパーカウルを取り外した際に発見した,

驚くべきヘッドライトの固定不良について記載します.



図1.1 ヘッドライトに斜めにねじ込まれているスクリュ

 図1.1はアッパーカウルを取り外した際に確認した不適切なヘッドライト固定スクリュの様子です.

右側のスクリュは上側も下側もともにねじが全く締め付けられていない状態でした.

この車両は,お客様は業者が整備して納車されてから触れていないということなので,

業者がこの様な通常では有り得ないまさに驚愕に値する状態で放置してしまったものであると断定することができます.



図1.2 進行方向側に傾斜して無理にねじ込まれているスクリュ

 図1.2は上側のスクリュをヘッドライト上部から見た様子です.

目視でも容易に分かる程度に角度θだけ曲がってねじ込まれていることが確認できます.

ねじの状態を調べると,ねじ溝が噛み合っていない状態で,締め付け方向には回転しませんでした.

曲がっている角度と固着具合から,業者が曲がったままねじを締めていき,

ねじ溝が合わずに噛み込んだ段階で放置したものであると判断することができます.



図1.3 なめた部位に錆が発生しているスクリュの頭

 図1.3は取り外した曲げてねじ込まれていたスクリュの頭の様子です.

締め付け方向と緩め方向の両側で少しなめた形跡があり,その部位が経年により錆びていることが分かります.

この車両はお客様が新車から所有されているものであり,お客様は一切触れていない部位であることから,

この山をなめたのは業者であること結論付けられ,斜めにねじ込んだのも業者であると判断することができ,

結果的に頭をなめても締めることができずに放置されたものであると推測されます.



図1.4 斜めにねじ込まれていたスクリュの締め付けトルクの測定

 図1.4はボルトを取り外す際にどの程度の力で締め付けられていたかを測定した様子です.

補正値で2.0〔N・m〕であり,M6ねじの標準締め付けトルクの3割程度しか締め付けられていませんでした.

これはねじが斜めに入ってしまいカジリを生じた時点でそれ以上締め付けなかったというよりは,

カジリを生じても尚無理にねじ込み,逆に無理だと分かって戻して放置した可能性が高いと言えるのは,

雌ねじのねじ溝がかなり潰れていたからです.



図1.5 ねじ溝の破損しているクリップナット

 図1.5はねじの取り付け部にあたるクリップナットを取り外した様子です.

形状によりねじ溝が数山しかないにもかかわらず,斜めにねじ込まれたことにより,雌ねじが破損していました.



【整備内容】

 ヘッドライトを正確に固定する為に,まず破損している雌ねじの対応から整備を開始しました.



図2.1 破損したクリップナットねじ山の再生

 図2.1はクリップナットの破損した雌ねじ山を再生している様子です.

クリップナットはヘッドライトAssyに含まれている為単体での部品設定がありません.

したがって,損傷の具合や材質が鉄であることからねじ溝の修正が可能であると判断し,

タップによりねじ溝を再生させることにしました.



図2.2 再生させたねじ山の確認

 図2.2は再生させたクリップナットに新品のスクリュをねじ込み,仕上がりの状態を確認した様子です.

正しく切られたねじ溝は,指でスルスルとほとんど力を入れずに滑らかに回転させることができます.



図2.3 正しく取り付けられたヘッドライト

 図2.3は正確に固定されたヘッドライトの様子です.

正しく固定されることにより,同時に新品に交換したスフェリカルベアリングと相まって,

今後も長期間その性能を発揮することができるようになりました.

取り付けねじ部はアッパーカウルに隠れてしまう為,

今回の事例の様に状態は実際に外してみないと確認できません.

しかし例えカウルの装着により見えなくなっても,

そこは整備されて状態が良好であり,新品のねじとワッシャが光り輝いていると分かっていれば,

乗る側も気分良く走行することが可能になります.

逆にいえば,アッパーカウルを取り外すまでは図1.1の様に,

錆びたねじが斜めに途中までしか取り付けられていなかったわけですから,これ程気分の悪いことはありません.

やはり見えない部位までしっかりと適正な整備が施されてこそ,総合的な性能が維持されるものなのです.



【考察】

 この車両はお客様の長期保管中に不動になったものですが,保管に至る直前に各部を業者が整備したというものです.

様々な部位に驚愕的な整備不良が見受けられましたが,今回の事例もそれと同等以上に衝撃的かつ刺激的で,

非常にスパイシーでパンチの効いた整備不良であるといえます.


 図1.2からも明らかなようにヘッドライトの固定スクリュが斜めにねじ込まれていて,そこで終わりになっていました.

まずやってはならないのが,

  ①斜めにスクリュをねじ込むこと

  ②斜めにねじ込んだにもかかわらずやり直さないこと

  ③そのまま途中でカジリついた部位で放置したこと

  ④放置したままアッパーカウルを取り付けて隠してしまったこと

  ⑤この様な状態を内在しながら何事もなかったかのようにお客様に納車してしまったこと

等があげられ,これは業界そのものの信用を著しく失墜させるばかりでなく,

整備業者としての資質の問題あるいは,仕事を最後までやらずに逃げ出す人間性その他多数の欠陥の集大成といえ,

お客様を愚弄しただけでなく,日々真面目に業務に取り組んでいるものをあざ笑うかのように受け取れます.


 何の業種,どの仕事でも同じですが,やって良いことと悪いこと,そしてやり遂げなければならないことが存在します.

これはコンプライアンスにかかるレベルの手抜きであり,

なぜこの様な事態に陥ったのかを考える価値すらありません.

まずこれは有り得ないだろう,という人為的且つ作為的な光景が実際に存在し,

この様な事例ばかり目にしていると,世の中馬鹿げているとすら思えてきますが,

それでも一筋の光を信じ,先に進まなければなりません.

そしてともにそれを信じてご依頼いただけるお客様お一人お一人に満足していただけるよう,

メガスピードでは日々研鑚を積み重ねていく次第です.





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