事例:D‐20
バッテリ液の付着によるバッテリケースの腐食について |
【整備車両】
GSX250RCH (GJ72A) GSX-R250 推定年式:1987年 (参考)走行距離:約18,100km |
【不具合の状態】
バッテリケースが著しく腐食していました. |
【点検結果】
この車両は各所点検整備のご依頼を承りメガスピードに入庫されたものです.
レギュレータの交換を行う為にバッテリケースを取り外そうとしたところ,
ケース底部が腐食していて塗装が剥がれ,表面に錆が発生していました.
図1.1はバッテリケース下部の様子と,そこに取り付けられているレギュレータの様子です.
バッテリケース下部が腐食していることが分かります.
図1.2は取り外したバッテリケース下部の様子です.
全体的に腐食が見られましたが,特にバッテリケース下部とエアベントホース配管部沿いが著しく腐食していました.
これらのことから,腐食の主な原因はバッテリからこぼれた希硫酸やその蒸気であると推測できます. |
【整備内容】
腐食をそのままにした場合,薄い鉄板そのものが崩れかねない状態であると判断し,
その進行を食い止める為に錆の除去及び塗装を行いました.
図2.1 錆や腐食を除去し塗装されたバッテリケース |
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図2.1は塗装したバッテリケースの様子です.
サンドブラストにより錆や腐食を除去した上で耐熱性のある塗料を使用し全体を塗装を行いました.
これにより錆の進行を防ぐだけでなく,見た目の美しさも取り戻すことができました.
図2.2 バッテリケース下部に取り付けられた新品のレギュレータ・レクチファイヤASSY |
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図2.2はバッテリケースに新品のレギュレータ・レクチファイヤASSYを取り付けた様子です.
取り付けねじにも腐食が見られた為,合わせて新品に交換しました.
図2.3は車体に取り付けたバッテリケース及びレギュレータ・レクチファイヤASSYの様子です.
バッテリは再使用可能な為,減少していたバッテリ液を補充・充電しました.
図2.4は整備の完了したバッテリケース廻りの様子です.
ケース取り付けボルトも同時に新品に交換し,歪んでいたワッシャも新品に交換しました.
またバッテリバンドは全体的に亀裂や劣化が見られた為,
硬化していたエアベントホースも含めてこの機会に新品に交換しました.
車体上部からの視点ではバッテリケースの見える範囲はわずかですが,
錆や腐食で赤く変色していた部分がすべて美しい黒にかわることによる視覚的効果は,
驚く程大きいといっても過言ではありません.
新品に交換されたボルトの頭の光沢や,新品のバッテリバンドの清潔さ等,
総合的に見て非常にさっぱり仕上がっていることを確認し,整備を完了しました. |
【考察】
バッテリケースにはレギュレータASSYやスタータマグネットスイッチ,ヒューズ,リヤブレーキリザーバタンク等,
色々なものが取り付けられている為,複雑な形状になっています.
肉厚そのものも薄く,錆や腐食が発生した場合,放置すればやがて破損に至ります.
バッテリケースは車両発売当時の価格で¥1800-で最終価格が¥2,900-です.
塗装等のコストを考えると新品に交換した方がはるかに低価格ですが,
部品がすでにメーカー絶版であり,もし一から新品を製作する場合,
複雑な形状はそのまま製造コストに結び付く為現実的な選択から外れてくる可能性があります.
今回の事例では腐食していたのが塗装と金属表面のみであったので,
錆取りを行い,再塗装により防錆性能を確保するとともに,外観を美しくすることができました.
部品を一から設計製作するコストを考えれば,投資しても現在のものを長持ちさせる為に塗装する価値があるといえます.
またバッテリケース下部やその周辺が著しく腐食していた場合は,
レギュレータの故障による発電電流のバッテリへの過充電が発生している場合が少なくありません.
その場合,この車両の様に開放型のバッテリでは,
過充電により沸騰したバッテリ液が外部に漏れ出し,周囲を腐食させます.
取り外したバッテリは液の減少が6セル中2セルで確認された為補充を行いましたが,
メガスピードに修理で入庫されるまである程度の走行実績があることや,
ウインカが割れる等の過充電の症状は特に見受けられないことから,
過充電による液漏れではなく,長年の使用による微量の液漏れ等が積み重なり,
徐々にケースを腐食していったものである可能性が高いといえます.
二輪自動車のバッテリケースは,そのスペースの問題等から色々なものが取り付けられていることが少なくありません.
それらの状態の点検もさることながら,やはり経年とともに腐食していくのはやむを得ず,
塗装の剥がれや錆の発生,腐食等が見つかれば迅速に防錆再塗装されることが望ましいといえ,
バッテリケースが美しくなれば,それだけで所有する喜びも増してくるものです.
そしてその際には過充電になっていないか,電気系統を含めた包括的な点検整備が求められるといえます. |
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