タイヤの空気圧不足とホイールに発生した錆との関連性及び錆とパンクの関連性について |
【整備車両】
SE50MSJ (AF19) DJ.1RR 推定年式:1988年 参考走行距離:約8,800km |
【不具合の状態】
タイヤ交換の際にビードを落とすと、リムの全周に著しい錆が発生していました。 |
【点検結果】
図1はビードを落とした状態から確認できるリヤホイールリムの錆の様子です。
ホイール側面はそれ程錆が見られないものの、リム部は錆が酷く、塊になっている箇所もありました。
図2はタイヤとチューブを外しホイール単体にしたリムの錆の様子です。
錆は全周に発生していました。
図3は錆の付着したチューブの様子です。
リムの錆がチューブに張り付き、チューブが硬くなっていました。
また錆は手ではがすとボロボロ崩れ落ちるくらい厚い層になっていて、錆そのものもかなり硬くなっていました。 |
【整備内容】
ホイールのリム部は全周が錆びていたので、その進行を防ぎホイールを守る為、
そして錆の塊が少しでもチューブを傷つける要素を減らす為に錆取り、塗装を行いました。
塗料は塗膜強度のある2液ウレタンを使用し、走行時の飛石等による損傷の回避を狙いました。
図4は塗装されたホイールリム部の様子です。
ホイールの肉厚は1mm程度でしたが、錆の腐食がかなり進んでいたので、
錆の取り過ぎによる穴あきを防ぐ為に、慎重に可能な限りの錆取りを行い塗装しました。
図5はホイールの左右の側面を塗装した様子です。
側面にはリム部の様な著しい錆はありませんでしたが、溶接個所や、隅等ところどころ錆が発生していたので、
腐食が進行しない様に、錆取り、塗装を行いました。
これにより錆の発生していたホイールは見た目も美しくなりました。
図6は塗装したホイールに新品のチューブ、タイヤを組み付け、車体に取り付けた様子です。 |
【考察】
原動機付自転車の場合、コストからホイールは鉄鋼で製造されたものがかなりの割合を占めます。
きちんと手入れをされていれば問題ありませんが、傷がつくとその部分の塗装がはがれ、
内部の金属が露出し、大気の水分と反応して錆が発生します。
錆は成長すればボロボロ崩れてホイールを蝕みます。
側面であれば目視で分かりますが、リム部はビードを落として点検しないと状態が分かりません。
今回の事例ではお客様からのタイヤ交換のご依頼で、作業工程の中でリムの錆を発見しました。
ホイールは前後両方のリムが同様に錆びていました。
それはホイールが前後とも同じ時期に装着され、同じ環境を過ごしたことを示しています。
そしてこれだけの錆が発生するにはかなりの年月水分のある状態が続いたものだと考えられます。
ホイールリム部以外には車体に著しい錆は見られなかったので、例えば次の様な状況が考えられます。
過去のある時期のオーナーは使用中にほとんど空気圧を点検することがなかった。
それゆえ、常に空気のない状態で走行していて、タイヤとリムにすき間ができていた。
オーナーは通勤通学に使用していたので雨の日も乗っていた。
そして雨水は前後のタイヤの内側に流れ込み、ホイールを腐蝕させていった。
保管は屋根つきの場所だったので、それ以外の金属部は大きく腐蝕しなかった。
これは推測の環境の一例ですがこの様な事があったのではないかと考えれます。
ここでのポイントはやはり空気圧の管理、調整です。
安全に走行する為であることはもとより、雨水を侵入させない為にも、
タイヤとリムを密着させることが必要で、それは適切な空気圧を保つことにより維持されます。
日常の空気圧点検はライダーにとって最重要点検項目の一つといっても過言ではないのです。
この事例でのホイールの錆の原因が、
空気圧不足によるタイヤとリムの密着不足に起因する雨水の侵入と断定することはできません。
あくまで結果から推測する原因の一つの要素に過ぎません。
しかし適正な空気圧があれば、内圧によりチューブとタイヤが張り、
タイヤの内側に水が侵入する可能性は極端に下がります。
この車両は過去1年くらいの間にパンクが2,3回程度あるということでした。
それはたまたま走行中に釘を踏んでしまったといった偶然が重なったことかもしれません。
しかし、ホイールの錆は酷いかたまりになるとチューブと擦れてゴムを傷つける場合があります。
ですので今回はホイールの錆による劣化を防ぐ他、パンクの原因にならないように可能な限り錆をとり、
塗装して表面をなめらかに仕上げました。
ホイールが鋼鉄の場合、傷により必ず錆が発生します。
それを防ぐ為には、その都度タッチアップ等を施し、防錆対策を行わなければなりません。
また、ホイール側面が錆びていなくても、この事例の様にリムが錆びている可能性があります。
やはり鋼鉄製のホイールはタイヤ交換の際には必ず普段見えないリムの錆の状態を点検し、
必要であれば防錆の為にも塗装されることが望ましいといえます。 |
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