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事例:S-114

使用により疲労・劣化したVベルトの破断による走行不能について

【整備車両】 
 レッツ4 (CA45A) 推定年式 2007年以降  参考走行距離:395 km + メーター1周
【不具合の状態】 
 エンジンは動いているものの,走行中に後輪が駆動しなくなりました.
【点検結果】 
 この車両はお客様によると “使用中にベルトが切れたらしくエンジンがかかるにも関わらず後輪が回らない” ということで,メガスピードにて整備を承ったものです.仮にベルトが切れていたとすると,エンジンをかければケース内部で破断したベルトが暴れて各部に不具合を発生させる可能性がある為,まず左エンジンカバーを外すことから整備を開始しました.

図1.1 千切れてバラバラになっているVベルト
 図1.1はエンジンカバーを取り外したケース内部の様子です.見事にベルトがバラバラに分解されている状態でした.なるほど確かにこれでは走らないわけです. 

図1.2 クラッチプーリー下部に押し込まれたVベルトの一部
 図1.2はクラッチプーリー下部の様子です.プーリーがかきむしったVベルトを後方にかき集める形になっていました.

図1.3 セルモータおよびキックギヤに引っ掛かったVベルトの繊維
 図1.3はセルモータのピニオンギヤやキックギヤに引っ掛かっている,Vベルトを構成していた繊維の様子です.ドライブフェースでかきむしられたベルトが引っ掛かっている状態でした.

図1.4 クラッチプーリーに絡まっているVベルトの繊維
 図1.4はVベルトの繊維がクラッチプーリーに巻き付いている様子です.指で力強く引いても全くびくともしないくらい絡みついていました.

図1.5 何重にも絡まっているVベルトの繊維
 図1.5はクラッチを取り外して状況を確認している様子です.Vベルトからほつれたタコ糸の様な繊維がプーリーに何重にも巻き付いて “ヨーヨー” の様になっていました.

図1.6 寄せ集めたVベルトの断片
 図1.6はエンジン内部から回収したVベルトの断片を集めた様子です.ベルト自体が全体的に劣化していて,一か所破断したのをきっかけにエンジン内部で回されることでギヤ等の突起物に回転しながら当たり続けてバラバラになったと推測されます.


図1.7 破断したベルト構成部品
 図1.7は破断したベルトの主な構成部分です.興味深いのはバラバラになったベルトは単に不規則にちぎれたのではなく,およそ3つの部位に正確に分かれていたことです.まず➀としてベルト波打ち部,次に②として波打ち部の上に位置する薄皮,そして③として繊維です.これらはベルトの製造工程で合成される単品であると考えられます.すると材料そのものが破断したというよりも,むしろ接合部が分離した結果この様な事態に陥ったものであるとも言えます.


【整備内容】
 汚れていたケースを洗浄し,各プーリー等に絡まっていたVベルトの破片を除去し,新品のVベルトに交換しました.

図2.1 洗浄されたエンジンケース
 図2.1はVベルトの削りカスで汚染されていたケース内部を洗浄した様子です.大きな亀裂や損傷等の致命的なダメージはありませんでした.

図2.2 新品のVベルト
 図2.2は新品のVベルトの様子です.スクーターはこのベルトが切れた瞬間に走行不能になる為,定期的に新品に交換しておきたい部品の最たるものです.

図2.3 エンジンに取り付けられた新品のVベルト
 図2.3は新品のVベルトをドライブプーリーおよびクラッチに取り付けた様子です.クラッチはベルトとの接触面を脱脂し,クラッチシュー及びハウジングを修正研磨・脱脂しました.ドライブ側も同様に対処しました.

図2.4 Vベルトの動作確認
 図2.4はエンジンをかけてVベルトの動作を確認している様子です.ケースを閉じる前に各部の動きが問題ないか点検しておく必要があります.取り外したキックギヤの戻りが悪化していた為,同時に整備してキックでも問題なく始動可能になったことを確認してカバーを取り付けました.

図2.5 整備の完了したリヤ廻り
 図2.5は組み立てたリヤ廻りの様子です.実際に試運転を実施し,問題なく走行できることを確認して整備を完了しました.


【考察】 
 この車両はワンオーナーであり,走行距離はメーター1周+395 km程度すなわち約10,400km程でした.このことから10,000km走行した車両すなわちメーターが1周している車両は,過去の整備履歴が不明であれば迷わず切れる前にVベルトは交換しておいた方が良いと言えます.車両の乗り方によっても消耗品の寿命は大きく変わりますが,少なくともVベルトの様に破断すると一気に走行不能に陥る部品は定期的に交換しておくことが必要です.

 原付はノーメンテナンスで乗り潰されるケースが少なくありませんが,出先でベルトが切れるとその日が台無しになり,レッカー費用もかかります.仕事中であれば足止めを喰らった為に発生した損失は,定期点検を実施する費用をはるかに超えるものとなります.したがって,長い目で見れば例え49ccの原付スクーターでも,定期的に点検整備される必要があります.





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