事例:S-82
トルクロッドの不適切なボルトによるナット脱落の危険性について |
【整備車両】
RG400EW-2W (HK31A) RG400Γ(ガンマ) 2型 年式:1988年 走行距離:約56,000km |
【不具合の状態】
トルクロッドとキャリパブラケットを接続するボルトからナットが脱落する危険性がありました. |
【点検結果】
この車両はオイルチェックバルブの衰損によりエンジン始動不動に陥った ※1 為,
メガスピードにて点検・分解整備を実施したものです。
今回の事例ではその他の点検時に整備したトルクロッドの取り付けボルトについて記載します.
図1.1 セルフロック部までボルトのはまっていないナット |
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図1.1はトルクロッドとキャリパブラケットの接続部の様子です.
ボルトの長さが不適切であり,短い為ナットのセルフロック部がねじ溝にはまっていない状態でした.
これではナットが脱落する可能性があり,ボルトの脱落,ブラケットの取り付け位置のずれ,
そしてリヤブレーキの制動不能と不具合が連鎖する危険性が考えられます.
図1.2 取り外した短いボルト(上)と新品のボルト |
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図1.2は取り外した古いボルトと新品のボルトの長さを比較した様子です.
新品の方が数ミリねじ溝が長いことが分かります.
本来あるはずのこの差により,取り外したボルトではきちんとナットのロック部まで締めることができなかったと判断できます.
発売が1980年代中後半であることを考えれば,
そこからどの段階でボルトが入れ替わってしまったのかは推測できませんが,
少なくともナットを締めた時点でボルトの長さが足りないという異常に気付かなければなりません.
あるいは気づいていたものの,ボルトを紛失した為あり合わせのもので間に合わせてしまった可能性も高いといえます.
理由はどうあれ,この状態ではナットが脱落する可能性が高く,
特に機能がブレーキであるという点からも,迅速に整備される必要があります. |
【整備内容】
走行距離がすでに5万キロを超えていることから,ボルトだけでなく,
その軸受けに入るスペーサ及びセルフロックナットも同時に新品に交換しました.
図2.1 新品のボルト,スペーサ,セルフロックナット |
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図2.1は左から新品のボルト,軸受けに入るスペーサ,そしてセルフロックナットの様子です.
特にナットは新品に交換することにより,セルフロック部の爪がねじ溝に強力に噛み込み,
脱落防止性能が向上しました.
図2.2はブラケットの軸受けとオイルシール及びその周囲を点検洗浄した様子です.
走行距離は5万キロ超ですが,機能的にあまり動く部位でない為,
内部の銅の軸受けの状態が良好であることを確認しました.
図2.3 正規の寸法で締められたセルフロックナット |
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図2.3は新品のカラーを軸受けに入れ,
新品のボルト及びセルフロックナットを使用してトルクリンクロッドを締め付けた様子です.
ロック部が正確にねじ溝に入り込むことにより,ナットの脱落防止を確実なものとしました.
図1.1と比べれば容易に分かることですが,見た目が非常に美しくなり,性能の回復以上の効果をもたらしたとえいます. |
【考察】
トルクロッドとキャリパブラケットを締め付けるボルトに対し,
キャッスルナットを用いた割りピンで外れ止めを行うものと,
セルフロックナットを用いたものと,大きく分けて2つに分類することができます.
この車両ではセルフロックナットが設定されていますが,
今回の事例では,ボルトの長さが不適切で短い為,
末端がセルフロックナットのロック部分の爪まで届いていない状態でした.
どのような経緯でこの様な状況になったかは不明ですが,
エンジンが2サイクルであることの加えてブレーキの度に力が加わる部位であることから,
走行に応じてナットが緩み脱落する可能性が排除できません.
やはりブレーキに関する部位であることを考慮すれば,不適切なものは迅速に是正する必要があります.
※1 オイルチェックバルブの衰損により短期間で2サイクルオイルで満たされたフロートチャンバについて
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