左側スイングアームベアリングの固着と右側ベアリングハウジングに発生した亀裂について |
【整備車両】
GSX1300RY (GW71A) Hayabusa 隼 ハヤブサ 年式:2000年 参考走行距離:23,000km |
|
【点検結果】
この車両はエンジン内部を含め各部を分解整備したものですが,リヤスイングアーム廻りが残っていた為,継続検査(車検)の際に定期点検と同時に整備することとなりました. |
図1.1はスイングアーム廻りを点検整備する為に取り外した様子です.2000年モデルですが各部を手入れしている為非常に美しい状態を維持しています. |
図1.2は車体から取り外したスイングアームの様子です.チェーンスライダーやピボット廻りが汚れていることが確認できます. |
図1.3 亀裂の発生している右側ピボット部のハウジング |
|
図1.3は右側ピボット部の様子です.精密に点検する為に洗浄すると,ベアリングハウジングに亀裂が発生していることが確認できました. |
図1.4は右側ピボット部からベアリングおよびカラーを取り外した様子です.ハウジング内側は端部から1mm程度しか亀裂が進行していませんでした. |
図1.5はチェーンスライダーおよびダストシールを取り外した左側ピボット部の様子です.カラーとベアリングの間に強固な泥と錆の混合物が詰まっていました.この状態で力を加えても全くベアリングが動く気配がありませんでした. |
図1.6はカラーを取り外したベアリングの様子です.著しい錆が発生していて微動だにしない状態でした.油圧プレスを使用すれば抜き取ることは可能ですが,ここまで固着していると,抜き取り時にハウジングが破損する可能性が非常に高いと言えます.したがってこの時点で右側ピボット部の亀裂を含め,当該スイングアームを再使用することは不可能であると判断しました.
というのも,亀裂の発生した部位を溶接して直したとしても,200km/hで巡航できる車体に乗っていて,「修復歴有り」では気分的に不安になるからです. |
図1.7は取り外したカラーの様子です.ベアリング内側の錆がそのままカラーに固着していました.この部品を抜き取る際にすでにスイングアームが破損しそうなぐらい張り付いていました. |
|
【整備内容】
在庫していた中古のスイングアームを使用し,ベアリング等はすべて新品に交換しました. |
図2.1は中古のスイングアーム右側ピボット部を洗浄した様子です.汚れを可能な限り除去し,亀裂や損傷が発生していないことを確認しました. |
図2.2は点検洗浄された右側ピボット部の様子です.左側と同様にハウジングの内側・外側ともに良好な状態を確認しました. |
図2.3はハウジングにベアリングを圧入した様子です.錆の発生を防止する為,入念にグリスアップしてあります. |
図2.4は新品のベアリング・カラーの様子です.この状態を見れば,取り外したカラーがいかに劣悪な状態であったかが良く理解できます. |
図2.5はベアリングにカラーを挿入した様子です.これもベアリングと同様に錆の発生を防止する為,入念にグリスアップしました. |
図2.6 ピボット部に取り付けられた新品のダストシール |
|
図2.7はピボット部に新品のダストシールを取り付けた様子です.シールが新品に交換されることにより,内部からグリスの流出を防ぎ,外部から泥やゴミ,異物侵入を防止する性能の回復が見込めます. |
図2.8は新品のタイヤラベルをスイングアームの所定の位置に貼り付けた様子です.この中古のスイングアームはラベルがはがれていたため,周囲を洗浄して新品のラベルを手配しました.実際に見れば容易に感じることができますが,このラベルがないとスイングアームがのっぺらぼうの様に見え,非常に強い違和感を覚えます.やはりスイングアームを整備した際には,このラベルを意識しておくことが大切であり,その有無によって車両全体のイメージが変化するということを認識しておく必要があります. |
図2.9は車体にスイングアームを取り付けた様子です.クッション等可動部のベアリングをすべて新品に交換したことにより,スムーズなストロークが約束されます. |
図2,10はスイングアームに新品に交換したタイヤを取り付けて整備の完了したリヤ廻りの様子です.これにより安心して高速走行することができるようになりました. |
|
【考察】
スイングアームの脱着は,エンジンの脱着以上に行われる頻度が低い部位ではないかと感じます.そして長期間手入れされていない車両の場合,この事例の様にベアリングが錆びて固着し,スイングアームピボット部の破損へとつながる恐れがあります.何もそれはオフロード走行される車両だけでなく,この車両の様な高速クルーザーにも等しく発生することは,当事例が証明しています.しかもこの車両は新車時から完全屋内保管であることを付け加えておかねばなりません.
今回の事例では左側ピボット部のベアリングに付着した水分がベアリングを錆びさせ,ベアリングが機能を失い,それにより逆サイドへ負荷がかかり,右側ピボット部に亀裂が発生したのではないかと推測されます.おそらく新車時から一度もスイングアーム廻りは整備されていないと考えられます.特にこの車両の様に高速走行されるものであれば,なお一層フレーム類の状態は気にしておく必要があります.例えば亀裂は徐々に進みますが,ある一定の時点で大きく崩壊します.その時に車体の挙動にどう影響するのか.もし高速クルージングしているときにそれが起きたらどうなるのか.市街地を40km/h程度で走っているときとは全く状況が違います.わずかなブレや姿勢の乱れが命取りになります.それゆえ小さな不安の要素でも,確実に除去しておく必要があります.
今回の事例において,スイングアームを溶接により修正したとしても,たまたま一番弱った部分に亀裂が発生しただけに過ぎず,疲労は各部に残っていると考えるのが自然です.したがって,今回は修復せず,良質の中古部品を使用し,ベアリング類はすべて新品に交換することで対応しました.
世界を驚かせたGSX1300R・Hayabusa.しかしハヤブサといえども規制前の初期モデルの発売が1999年頃であることを考えれば,もはや十分に古い車両であると言えます.したがって,GW71A型に乗っているのであれば一度は各部のベアリングを点検しておく必要があり,特に素性の分からない中古車を購入してこれから乗る場合であれば尚のこと,そのままいきなりハイスピードクルージングをする前に,一度リフレッシュしておくことが望ましいと言えます. |
|
|
|