【考察】
今回の不具合では異常なハンドリングと同時にブレーキ時にステムがゴツンとなる症状も発生していました.これはトップブリッジの締め付けボルトが緩んでいたのが原因であると断定できます.緩んだ原因の特定は難しいと言えますが,ひとつの推測として,過去に人為的に緩めてステムナットの調整をし,その後締め忘れた可能性が考えられます.それ程緩みが大きくガタツキが発生していました.
ステアリングが直進状態で固定されたバイクに乗ったことのある方であれば分かると思いますが,ステアリングが直進に固定された状態では轍や段差に差し掛かってもステアリングが固定されている為に微調整ができず,車体の挙動が不安定でライダーの意図しない方に勝手に動き,非常に気持ちの悪いものです.またステアリングを曲げようとすると,ある程度力をかけなければ直進状態から抜け出せず,無理な力をかけたことにより,勢いがついてステアリングを切り過ぎる状態になります.そしてそれを補正しようとしてまた直進状態に落っこちる(この車両の場合スチールボールが打痕にはまる)と,そこから抜け出そうとして不用意な力をかけなければならず,まったく意図した操作をすることができません.したがって,この様な状態は早急に是正しなければならず,そうでなければ楽しいはずのライディングが苦痛になりかねません.いえいえ,本当です.ハンドル操作がおかしいバイクに乗ればすぐに体感できます.特にこの車両の様に軽量級のバイクであれば尚更ハンドリングの不具合が体感しやすいと言えます.逆に言えば,それ程に,何気なく自然に行っているハンドル操作の素晴らしさを再発見することができるともとらえることができます.
問題は,ステムベアリングを交換するのであれば,その整備料で同じ中古車を購入することができるという点です.特に原付の場合,中古車価格はもとより,新車価格も安価な為,作業工程の多い整備を実施すれば,費用的に買い替えができるお見積もりになる場合が少なくありません.しかし,発売から数十年経過している絶版車であれば,中古車を買い直しても,結局は同じような不具合を内在している場合が多く,同じことの繰り返しになる可能性が高いと言えます.いわゆる
“持病” と称されるその車種特有の不具合であれば,他の中古車も高い確率で発生しています.つまり,その車種に乗るのであれば,どこかで不具合を修理しない限り,満足のいく状態で乗ることはできないのです.
私はバイクに関して,特に自分のバイクに対しては神経質なので,不具合が発生すればすぐに直し,常に最良と判断できる状態にしておきます.なぜなら人がバイクに元気に乗れる時間など限られているからです.そうであれば,乗ったときは気持ちの良い状態で楽しみたい,そう思っています.
大人は皆忙しいものです.ひと月に何回バイクに乗れますか.え,何ですって? 2か月に一度ですって? 忙しそうですね.それなら考えてもみて下さい,バイクに乗れるのは1年で6回です.たった6回しか乗れないのであれば,やはり毎回充実した良質のライディングを楽しみたいものです.その為にはやはりきちんと不具合は整備しておくことが大切です.
今回の事例の不具合の原因は,ステアリングを直進状態で長年保管されていたことによると推測されます.そしてそれはおそらくセンタースタンドを立てた状態で保管されていたからではないかと考えます.というのも,サイドスタンドでの停車の場合,ステアリングがスタンド側すなわち左に切れた状態になる場合が多く,例え完全に左に切れていなくても,多少の動きが許されるからです.しかしセンタースタンドでの保管の場合,そのほとんどがステアリングを直進状態にしており,ステアリングを切って保管する状況は見た目からもあまり考えられません.統計調査をしたことはありませんが,上記理由により,センタースタンドのある車両の方がステムベアリングの打痕という不具合を発生させている個体が多いと推測されます.
何らかの不具合がすでに発生していた場合は極力整備した方が楽しいバイクライフを送れるのは当然ですが,古い車両のステムベアリングは例え不具合を発生させていなくても,グリスがなくなっているものが多く,一度ステムベアリングを交換しておくことが,素直なハンドリング操作が得られる近道であることは間違いありません.
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