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事例:S‐6

スフェリカルベアリング抜けどめ部の摩耗によるヘッドランプのガタつきについて


【整備車両】

 GSX400R (GK71B) GSX-R 1型  1984年式  〈推定〉走行距離:約21,500km


【不具合の症状】

 左側のヘッドランプの取り付け状態にガタつきが発生していました。


【点検結果】

 左側のヘッドライトにガタつきが発生していた為,取り外し固定部分を点検したところ,

スフェリカルベアリング(球状軸受け)のヘッドランプとの固定箇所2箇所のうち1箇所が摩耗し擦り減っていました.



図1.1 摩耗したスフェリカルベアリングの抜けどめ部

 図1.1は擦り減ったスフェリカルベアリングの様子です.

黄色の四角で囲んだ部分が摩耗してなくなっていました.

通常ベアリングはブラケットに2箇所の爪で固定されていますが摩耗していた分だけクリアランスが増えた結果,

逆側の爪のある方が取り付け部から外れる方向に逃げて潜ってしまい,

ヘッドランプが固定されずにガタつきが生じていました.



図1.2 爪が逃げて潜ったことにより傾いたスフェリカルベアリング

 図1.2は作為的に指でベアリングを押して傾き度合いを確認している様子です.

角度θの傾きがそのままヘッドライトのぐらつく最大幅となり,

これでは走行中に振動による照射のずれが生じても無理のないことです.



図1.3 スフェリカルベアリング取り付け部ストッパの亀裂

 
図1.3はブラケットからベアリングを取り外して詳細に分析している様子です.

黄色四角で囲んだ部分に亀裂が発生していることが分かります.

この亀裂が直接ヘッドランプのガタつきに影響している可能性は少ないと考えられますが,

亀裂が進行しストッパ部が折損した場合はランプがガタつく要因になります.

これらの検証結果より,今回の事例におけるヘッドライトのガタつきの大きな原因は,

スフェリカルベアリング抜け止め部の摩耗であると判断することができます.



【整備内容】

 スフェリカルベアリングは樹脂製であり,それゆえ消耗品と位置付けられることから,

破損した場合には新品に交換する必要があります.



図2.1 新品のスフェリカルベアリングのランプへの取り付け状態

 図2.1は新品のスフェリカルベアリングをブラケットに取り付けた様子です.

また右側のライトにはガタつき等の不具合の症状は出ていないものの,

亀裂が発生していた為,近い将来ガタつきが発生すると判断し,予防的な措置として新品に交換しておきました.



図2.2 ヘッドランプ固定状態の点検

 図2.2はヘッドランプをハウジングに取り付け、軸をスフェリカルベアリングに圧入し,

外装を整えた状態で最終的にヘッドランプの固定具合を確認している様子です.

最終的に光軸を調整し,走行に置いて不具合の発生が再現されないことを確認して整備を完了しました.



【考察】

 GSX400R (GK71B) のヘッドランプに使用されているスフェリカルベアリングは樹脂なので,

経年の劣化による割れや破損,使用による摩耗が起こりやすい部品といえます.

この事例では左側のみヘッドランプのガタつきが発生し,右側はまだ大丈夫でしたが,

点検した結果は右側も症状を発生するには至らないものの,軸受け部に亀裂が発生していました.

やはり対になっていたり同じ部品の使用されている同じ機関は,

部品の状態も同じように劣化・疲労・摩耗している可能性が高いといえ,

片側にしか症状が出ていなくても,もう一方も必ず合わせて点検整備しておくことが求められます.

普段整備する機会の多い場所ではありませんが,古い車両ではこの樹脂ベアリングが破損して,

ヘッドランプにガタつきが発生しているものが少なくありません.

部品の強度や耐久性から考えても、数年に一度は予防的に交換しておくことが望ましいといえます.





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