事例:S‐13
スピードメーターギヤジョイントの破損によるスピードメーターの不具合について |
【整備車両】
NSR250RJ (MC18) 推定:1988年式 参考走行距離:9,900km |
【不具合の症状】
スピードメーターの針が一定に定まらずにふらふら振れていて、最終的に0km/hの位置から動かなくなりました. |
【点検結果】
スピードメーターの針が動かなくなる原因は,スピードメーターそのものの故障,ケーブルの損傷,
そしてケーブルを回転させる動力の3点を考えることができます.
まずはケーブルを単体で回転させてメーターが動くことを確認し,この2点は問題ないと判断しました.
次にカウンタシャフトからケーブルへの動力を90度変換しているギヤジョイントASSYの状態を点検しました.
図1.1は取り外したギヤジョイントASSYの様子です。
樹脂のジョイントとそれにはめ込まれるシャフト部がなめていて確実に接合されていないことが確認できました.
図1.2は樹脂ジョイントとカウンタシャフトとの接合部の様子です.
多少の摩耗はあるものの,大きな破損は確認できませんでした.
図1.3は樹脂ジョイントがはめ込まれるカウンタシャフトの様子です.
表面に薄い錆の層がみられるものの,傷や損傷等はありませんでした.
図1.4 スピードメータギヤとジョイントのはめ込み部(オス側) |
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図1.4は樹脂ジョイントにはめ込まれるギヤシャフト廻りの様子です.
シャフトやシールに損傷はありませんでしたが,シールにはジョイントの一部と見られる削られた樹脂が散在していました.
図1.5 破損しているジョイントとメーターギヤの接合部 |
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図1.5は樹脂ジョイント部のギヤシャフトがはめ込まれる部分の様子です.
ギヤシャフトがはめ込まれる部分がなめられていて,本来長方形のハウジングが円形に近い状態に変形していました.
スピードメーターの針が振れ始めたときは,
シャフトとジョイントが不十分ながらも噛み合っていて動力を伝達していたものの,
完全にシャフトがハウジングをなめてしまった時点でカウンタシャフトからの動力が伝達されず,
指針が0km/hのままになっていたものと推測できます. |
【整備内容】
樹脂ジョイントは修正不能と判断し新品に交換することで対応しました.
図2.1は新品の樹脂ジョイントの様子です.
比較することにより,取り外した古いジョイントがいかにシャフトによってえぐられてしまったかが分かります.
図2.2 点検清掃したスピードメータギヤジョイント接合部 |
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図2.2はギヤシャフト廻りを点検清掃した様子です.
シャフトに目立つ傷や摩耗はなく,シールの状態も良好だったのでギヤシャフトASSYは再使用しました.
図2.3 スピードメーターギヤにはめ込まれた新品のジョイント |
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図2.3は点検清掃の完了したシャフトを新品のジョイントにはめ込んだ様子です.
新品のジョイントのはめ込み部はシャフトの寸法よりかなり狭く,
一度はめ込めば容易に抜けない構造になっています.
図2.4 点検清掃したカウンタシャフトとジョイントの接合部 |
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図2.4はカウンタシャフトの錆を取り,傷の有無等を点検した様子です.
やはりギヤシャフトと同様に,はめ込み部は強度の低い樹脂ジョイントの方が削れていて,
カウンタシャフトの金属部は特に摩耗していませんでした.
図2.5 点検整備の完了したスピードメータギヤジョインASSY外観 |
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図2.5は点検整備の完了したスピードメーターギヤジョイントASSY廻りの外観です.
組み付けてから試運転を行い,動作に問題ないことを確認して整備を完了しました. |
【考察】
二輪自動車のスピードメーターギヤは,機械式の場合はフロントホイールから回転を取り出すものが主流ですが,
MC18はギヤの回転をカウンタシャフト端から取り出しています.
ギヤとカウンタシャフトはともに硬い金属ですが,それを連結しているジョイントは強度の低い樹脂です.
この事例ではギヤの納まる樹脂側のハウジングがえぐれて,
最終的にジョイントの動力がギヤに伝わらず,スピードメーターが動かなくなりました.
MC18ではこの部分が破損してメーターが動かなくなる事例が少なくありません.
部品の強度からすれば金属に対して樹脂が壊れるのは当然ですが,
単に軽量化やコスト削減のみで樹脂と設計されたというよりは,
金属と金属の接合部の緩衝材として設計されたのかもしれません.
しかし,いずれにしろ力が加わる部分は一番強度の弱い個所から疲労し破損していくので,
やはり樹脂部は消耗品と考えて,定期的に点検しておくことが求められます. |
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