事例:S‐23
動力伝達部の摩耗によるスピードメーターギヤの動作不良について |
【整備車両】
RG400EW (HK31A) RG400Γ(ガンマ) 1型 年式:1985年 参考走行距離:約16,500km |
【不具合の状態】
スピードメーターの針が動きませんでした. |
【点検結果】
スピードメーターの針が動かない原因として大きく3つに分けることができます.
まずメーター本体及びメーターにケーブルを接続するギヤ部の破損,次にメーターケーブルの破損,
そしてホイールの回転をケーブルに伝えるギヤの破損です.
この事例では、メーター及びメーターのギヤ,ケーブルはすでに新品に交換されていたので,
残りのスピードメーターギヤの不具合から点検しました.
図1.1はスピードメータギヤ内部のドライブプレートの様子です.
赤の四角で囲んだA及びBはドリブンギヤに接続される溝に噛み合っている部分です.
Aの爪の左側部分とBの爪の右側部分が破損しているのが分かります.
これは図1.1の場合,車両が前進するとプレートがホイールに駆動され,
反時計回りする際にドリブンギヤに伝わる動力の一番大きな負荷の部分であり,
繰り返しの作用により摩耗,破損したものであるといえます.
図1.2は図1.1のAの爪を拡大した様子です.
四角い黄色で囲んだCは階段状に打痕があり徐々に摩耗していたことが分かります.
一番上の段差が最後に擦り減った部分であると考えられます.
図1.3は図1.1のBの爪を拡大した様子です.
四角い黄色で囲んだDは図1.2のCとは違い,摩耗は2段階で滑り出していることが分かります.
これはAの爪の摩耗が最終的に限界に達した段階で,Aの爪で受け持っていた負荷が一気にBの爪にかかり,
そのまま急激に破損した為,2段階ですべり出したのではないかと推測できます.
つまりAの爪が段階的に摩耗している間はBの爪で残りの負荷を支え,
Aの爪が完全に滑った瞬間にAの側のドライブプレートが浮き,
それにともないBの側も浮き始め,Bの爪は上部のみ受けに接触し,
その面積では負荷を支え切れずに破損したと考えれらます.
メーターギヤを取り外し,組み立てられたまま手で動作を確認した段階で,
ケーブル側のギヤが動いていなかったので,どこかで滑っていることは確認できました.
図1.2,図1.3の黄色い矢印で示した傷はドライブプレートが滑って空回りした際に,
ドリブンギヤプレートの爪の受けに引っかかれてできた傷であると判断できます.
そしてその深さから走行中に一気に滑り出し、メーターが動かなくなったと推測できます.
また爪の受けとなるドリブン側のハウジングに目立つ摩耗がないことから,
爪側の材料強度が低かったといえます. |
【整備内容】
ドライブプレートの爪の損傷は修復しても耐久性の維持が難しいと判断し,スピードメーターギヤASSYで交換しました.
図2.1は新品のスピードメーターギヤASSYを分解し,ドライブプレートを取り外した様子です.
新品と比較すると取り外したプレートがいかに摩耗していたかが分かります.
爪の厚さは新品で約1,58mmとなっています.
図2.2はメーターギヤのハウジングにドライブプレートを取り付けた様子です.
赤の四角で囲んだAはホイールの動力を伝達する爪が受けに組み付いた様子です.
しっかり噛み合っていて,抜け止めを取り付ける前でも手動でケーブル側のギヤが回転することを確認できました.
図2.3 車体に組み付けられた新品のスピードメーターギヤASSY |
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図2.4はスピードメーターギヤASSYを車体に組み付けた様子です.
継続検査におけるスピードメーターのテストを問題なく通過し,
実際の走行でもスムーズにスピードメーターが稼働するのを確認して整備を完了しました. |
【考察】
この事例ではスピードメーターの針が動かない原因は,
ホイールから動力を受けそれを90度変換してケーブルに出力する,
スピードメーターギヤASSYのドライブプレートの摩耗、破損でした.
この部品の不具合によりスピードメーターが動かなくなる事例は多くはありません.
しかし,例え動力伝達部が金属でできていても,長年の使用により接触部は必ず摩耗してきます.
ましてこの事例の原因であるドライブプレートとドリブンの噛み合う爪の厚みは約1,58mmしかなく,
少し摩耗すればそれが“ガタ”になり,軸方向にずれれば爪と受けの接触面積が減り,
少ない面積に力がかかる為にさらに摩耗しガタが増え,限界を超えて急速に滑り出します.
ドライブプレートはクリップ等の抜け止めにより固定されている為,
そして部品がASSYで供給されていることが少なくない為,分解して点検する機会は多くありません.
しかし長年使用された車両のそれは多少なりとも摩耗している可能性があります.
スピードメーターが動かなくなるとスピードの出し過ぎといった法令違反はもとより,
周囲の交通と自分の関係を把握しづらくなり,ひいては重大な事故につながる危険性もあります.
やはりフロントタイヤを外す機会があれば,メーターギヤの動きの点検,
あるいは必要に応じて分解整備を同時にしておくことが求められるといえます. |
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