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事例:S‐57

転倒により車体外側に曲がったシフトペダル操作時における違和感について


【整備車両】

R1‐Z (3XC) 3XC3  推定年式:1993年  参考走行距離:約19,500km


【不具合の状態】

シフト操作にわずかな違和感が生じていました.


【点検結果】

 この車両は通常使用されていたものですが,様々な箇所を整備する中で,

同時にシフトペダル廻りの不具合も修理しておきたいというお客様の依頼をメガスピードにて承ったものです.

概ね問題なく動作していたシフトペダルですが,厳密にいえば曲がりとねじれが同時に発生している状態でした.



図1.1 外側に曲がっているシフトペダル

 図1.1は車体外側に曲がっているシフトペダルの様子です.

シフトペダルが左右に若干ねじれており,特にゴム部付近は外側に曲がってしまっていることが分かります.

これによりペダル操作時にわずかな違和感が発生していました.



図1,2 削れているブラケット

 図1.2はねじれているシフトペダルを横から見た様子です.

赤い四角Aで囲んだ部分は転倒した際に削れたものであると判断することができ,

外側の向きで力がかかった為にシフトペダルが歪んだ可能性が考えられます.



図1.3 フレームのブラケット保持部

 図1.3はフートレストブラケットを保持するフレーム部の様子です.

大きな歪み等が見られないことや,車体左側のその他の部分に目立つ擦り傷や破損等がないことから,

立ちゴケあるいは徐行程度の極低速時に転倒した際に発生したものであると推測されます.


【整備内容】

 今回の事例ではお客様のご希望により,整備時において供給されている部品はすべて新品に交換する方向で進めました.



図2.1 左ステップ廻りを構成する新品部品

 図2.1は左ステップを構成するすべての部品を検品している様子です.

特に右側のブラケットが絶版であるのに対し,左側すなわちシフトペダル側のブラケットが新品になることにより,

削れていた部分がきれいになるというメリットだけでなく,

少なからず転倒により受けたダメージがなくなるという強度的な安心感も得ることができます.



図2,2 組み立て組み付けの完了した左ステップ廻り

 図2.2は組み立て組み付けの完了した左ステップ廻りの様子です.

まがっていたシフトペダルは新品に交換されたことにより操作時に正しい向きで力が伝達されるようになった為,

わずかに生じていた違和感が解消されました.



図2.3 正規の寸法に戻されたシフトペダル

 図2.3は正規の建てつけが行われたシフトペダルを真上から見た様子です.

図1.1で外側に曲がっていたシフトペダル操作部が図2.3ではシフトシャフトに対し並行に正しく位置していることが分かります.


【考察】

 シフトペダルはブレーキペダルと同様に車両を操作する最も大切な機関であり,

その重要性にもかかわらず,転倒により容易に損傷する部位であるといえます.

今回の事例ではシフトペダルが車体外側に曲がっていました.

周囲の部品状況等から転倒によるものと判断することができ,その程度が比較的軽度である為,

著しく操作が困難になるといった症状は発生していませんでした.

しかし,シフトすなわちギヤチェンジは走行する上でスロットルやブレーキと同じくらいフィーリングに影響を及ぼす為,

決して出力軸回転を増減速するという機能だけで捉えてはなりません.

やはり軽度であっても,より一層快適にライディングを楽しむのであれば,

シフトペダルの曲がりは極力修理される必要があります.


 曲がったシフトペダルは熱を加えて板金することにより修正が可能ですが,

今回の事例ではお客様のご希望により,シフトペダル廻りの構成部品をすべて新品で組み立て直しました.

確かにそれだけのコストをかけるのであれば,社外のバックステップに交換するという選択肢もあります.

しかし基本に忠実になるのであれば,やはり製造時にメーカーが設計した意図や思想,背景を無視することはできません.

例えばこの事例でいえば,サービスマニュアルの商品説明欄に,

いかにしてR1‐Z (3XC) のライディングポジションが設計されたかを,

RZ250RRやTZR (3XV) と比較して詳細に記載されています.

結論はその中間に位置することによるメリット等が説明されていますが,

これらのことを踏まえれば安易に社外のバックステップに交換するという判断が,

いかに短絡的であるかを理解することができるはずです.


 ものごとには必ずその背景や意図があります.

それらを汲み取った上で次のステップに進むのであれば,それは大いなる挑戦であり尊重しなければなりません.

しかしその場合は当然メーカー設計者の思想を意図的に換える行為になることから,

仕様を変更することによる強度計算,メリット,周辺部位の設計に対する影響,

その他関連する知識や技術が設計者以上であることが求められるのは言うまでもなく,

カスタムと称してバランスの崩れた車両を作ることは極力避けなければならない重要なポイントであるといえます.

最も分かりやすい一例を挙げるのであれば,バックステップのみ社外になったところで,

ハンドルポジションはそのままなのかどうなのか,

といったことは直接メーカー技術者の設計意図や目的に影響を及ぼすことからも,

いかにトータルで考えなければならないのかが良く分かるといえます.





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