トップページ故障や不具合の修理事例【二輪自動車】 車体関係の故障、不具合、修理、整備の事例 (事例:51~60)


事例:S‐59

ダンパクッションの破損によるシートの違和感について


【整備車両】

 GSX1300RY (GW71A) "HAYABUSA" 隼 (ハヤブサ)  年式:2000年  参考走行距離:約22,400km


【不具合の状態】

 乗車するとシートの座り心地に違和感がありました.


【点検結果】

 この車両は大手量販店から購入されたものですが,シートに違和感がある為,メガスピードにて改めて点検したところ,

ダンパの役割をするクッションゴムが千切れていることを確認しました.



図1.1 破損・脱落しているダンパクッションゴム

 図1.1はシートを裏返した様子です.

Aで示した部分には本来あるべきゴムが千切れてなくなっていました.

これにより,ブラケットが確実に保持されずにわずかな違和感を生じていたと推測することができます.



図1.2 破損しているクッション

 図1.2は破損しているクッションの様子です.

全4か所中3か所でこの様な状態になっていることを考えると,

繰り返し荷重による疲労とゴムそのものの劣化が積み重なり破損した結果であるといえます.



【整備内容】

 千切れているダンパ機能を担うクッションを新品に交換するとともに,

錆びていたスペーサやブラケットも合わせて新品に交換しました.



図2.1 新品のダンパクッション廻り

 図2.1は新品のブラケットに新品のダンパクッションを取り付け,雌ねじの新品のスペーサを取り付けた様子です.

これにより斜めの力が加わってもガタつくことなくスムーズに変形し,

ライダーの姿勢保持及びコントロールにシートが滑らかに追随することができるようになりました.



図2.2 シートに取り付けられたダンパクッション

 図2.2はダンパクッション廻りをシート本体に取り付けた様子です.

変色していたシートワッシャ及び雌ねじの位置保持の為のプレート,そしてナットも新品に交換し,

車体に固定される部分の機能回復を図りました.



図2.3 新品に交換された各部のダンパラバー及びスポンジ

 図2.3はダンパラバーとクッションも,ダンパクッションの整備と同時に新品に交換した様子です.

cushion A はスポンジですが,取り付けられていた古い物は亀裂が入っていた為,

この機会に新品に交換しました.

また cushion B はゴムのダンパであり,変形して潰れていた為,同じく新品に交換しました.

これにより車体からの振動がシートに伝達される部分の防振部品はすべて新品に交換され,

快適な走行が楽しめるようになりました.



図2.4 整備の完了した美しいシート廻り

 図2.4は整備の完了したシート廻りの様子です.

シート表皮や内部のスポンジの状態そのものは非常に良好であることから,

クリーニングの実施で美しさを十分に取り戻すことができました.

艶やかな外観と一致した美しいシートが装着されることにより,外からの眺めもまた魅力的なものになりました.

それはシートの裏側の防振ダンパが新品になっているという機能的な観点からも,

例えシートの裏側が見えなくても,整備されたその状態を知っているという安心感が,

所有する満足に直接影響を及ぼしているといえます.



【考察】

 この車両は極上美車ということで購入されたものですが,

確かに外装を見る限りは上ものであるということができます.

しかしカウルを取り外せばオイル漏れが発生していたり,カムシャフトのオイルパイプは脱落していたり,

リヤフェンダが脱落していたりと,様々な不具合を内在していました.

この事例に見られるシートにしても,裏返して見れば,4つあるクッションダンパの内,3か所が破損して千切れていました.

発売が2000年であることを考えれば10年以上経過した車両であるといえ,

ゴム類はすべて劣化していると考えても差し支えないレベルであり,例え外装が極上でも,

中古車は全部の消耗品が交換時期ととらえ,

特に機関や中身は細かなところからしっかり点検整備していく必要があります.


 この事例ではシート裏側のダンパの役割を果たすゴムが千切れていました.

これによる違和感は,かなり繊細なものであり,そのまま乗っていても気づかないライダーが少なくないといえるレベルです.

しかし,300km/hオーバーの実力を秘めた車両に乗るのであれば,

やはりライダーが身を預ける一番重要なシートはきちんと機能していることが望ましいといえ,

例え外装がピカピカの極上でもシートの裏側のゴムがほとんど千切れて無くなっていることを知れば,

ガッカリするのも当然です.


 シートの修理というと,とかくシートの張り替え等に目が行ってしまいがちですが,

この事例からも明らかなように,実際には使用や経年により機能的が低下するのはむしろ樹脂部品であり,

特に防振ダンパ機能を司る部品の状態は定期的に点検する必要があります.


 発売から10年以上経過した中古車に極上という語彙をあてはめることは非常に難しいといえ,

額面通り受け取ることを避け,不具合は見えないところで内在していると予め覚悟を決めておく器量が必要です.

極上美車なる中古車など初めから存在しないのです.

あるとすれば,それは優れた整備技術者が膨大な時間と費用を投資して整備の施された車両のことを指すのです.





Copyright © MEGA-speed. All rights reserved.