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タンデムシート取り付け部雌ねじのねじ山破損に対するヘリサート加工による修理について


【整備車両】

GSX400R (GK71B) GSX-R Ⅰ型  1984年式  (参考)走行距離:約21,500km


【不具合の症状】

タンデムシートが完全に固定されずにぐらついている状態でした。


【点検結果】

2箇所ある取り付けボルト雌ねじの内、左側のねじ穴の溝が崩れてボロボロになっていて、

ボルトを締め付けても雌ねじがねじ切れていて締めつけトルクが全くかからない状態になっていました。



図1 、ねじ山の破損したタンデムシート取り付け雌ねじ部

図1は溝の崩れている破損した雌ねじの様子です。

画像中央の"垂線d"が破損したねじ山部分です。この車両は上部から少し深い部分からねじ山が切ってあります。


【整備内容】

軽度のねじ山の破損の場合は溝をタップで切り直すことにより修正出来ますが、

すでにボルトが雌ねじをねじ切ってしまっていること、母材がアルミ合金であることを考慮し、

ステンレスの溝を新たに挿入する方法を取りました。


図2、オーバーサイズの専用タップによる下地作り

図2は元のねじ穴より大きなサイズの専用タップで下地を作っている様子です。


図3、挿入するねじ溝とオーバーサイズにあけた雌ねじ

図3はオーバーサイズに修正された雌ねじに挿入する新しいステンレスの溝
と雌ねじの様子です。

ステンレスの溝は専用のインサート工具で雌ねじに挿入します。


図4、ステンレスのねじ溝を挿入した雌ねじ部

図4は修正したオーバーサイズの雌ねじに元のサイズのステンレスの溝を挿入した様子です。


図5 、ヘリサート加工した雌ねじに規定トルクで締め付けたタンデムシート取り付けボルト

図5はヘリサート加工を行った雌ねじにボルトを規定トルクで締め付けた様子です。

本来タンデムシートを外す際には左右のボルトを外す必要があり、その頻度は左右同じ程度ですが、

右側の雌ねじはほとんど損傷が見られなかったので、この事例では左側のみ加工しました。



【考察】

「ヘリサート」は株式会社ツガミががアメリカREFAC社との契約のもとインサートの商標として使用していたものですが、

一般的にはねじ山を一回り大きく開け直し、そこに元のサイズの強度のある溝を埋め直す加工をさします。

ヘリサート"helisert"(helical coil wire screw thread insert)加工を行うことにより、

脆弱な母材に強度のあるねじ穴を設けることが可能になります。

この事例ではタンデムシート取り付け部左側のねじ山がボロボロに崩れていてねじが締まり切らずに、

穴をねじ切ってしまいどんなに右にねじ込んでも空回りするだけで締めつけトルクがかからない状態になっていました。

ねじ穴はアルミフレームに直にあけられているので、その様な箇所は締め、緩めを繰り返すとねじ山が崩れてきます。

やはり破損している個所の修理はもとより、タンクの取り付け穴等、比較的ボルトの締め緩めの頻度の多い個所、

それと左右対になっている個所は、片側が損傷している場合はもう片方も同程度になっている場合があるので、

その場合は破損する前に予めヘリサート加工しておくことが望ましいといえます。





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