事例:S-85
接着剤の経年劣化によるハンドルグリップの回転について |
【整備車両】
RG250EW (GJ21A) RG250Γ(ガンマ) 1型 推定年式:1983年 参考実走行距離:約9,200km |
【不具合の状態】
左ハンドルのグリップが握るたびに回転してしまう状態でした. |
【点検結果】
この車両はお客様のご依頼により,吹け上がりの悪い回転域が存在し ※1 ,
エンジン左下からオイル漏れが発生している ※2 ということで,メガスピードにて各部を点検整備したものです.
今回の事例では同時に整備した左ハンドルグリップについて記載します.
図1.1 回り止め対策されている左ハンドルグリップ |
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図1.1は左ハンドルグリップの左右に金属線が巻かれている様子です.
挟まれている間の部分は容易に手で回ることから,金属線は回り止めの為に取り付けられていたと考えられます.
図1.2は金属線が絞ってある様子です.
分かりやすい様にグリップを回転させて絞り位置を上にして撮影した様子です.
確かに金属線が使用されていることにより,ある程度はグリップの回転が抑え込まれている為,
気をつけて乗ればグリップは回転しなくて済むレベルに落ち着いているといえ,
このままの状態でも問題なく乗れると判断することに大きな異論はありません.
しかし金属線の絞りはどう頑張っても小さなコブになってしまう為,
厳密にいえばそれが引っ掛かりの原因になり怪我をする可能性が発生します.
もちろん素手で乗るのは安全上御法度ですが,
グローブをしたとしても,絞り部に接触すればほつれの要因になります.
特にクラッチレバーを握る際は手のひらを支点にすることからライダーが思っている以上にグリップをねじる力が働きます.
したがって,可能であれば金属線を使用しなくても十分にグリップが固定された状態にしておくことが望ましいといえます.
図1.3は金属線を取り外し,ハンドルグリップを引き抜いた様子です.
容易に抜けることから接着力が極端に低下しているといえ,
実際に内部は接着剤が劣化してボロボロになっていました.
これはグリップが回転してしまった時に接着剤がかき回されて千切れたものであると考えられます.
この状態ではグリップを十分に固定・保持することができません. |
【整備内容】
グリップは使用による劣化と内径の広がり等を考慮して新品に交換しました.
図2.1は劣化していた接着剤の残りかすを除去し,バーの状態を点検した様子です.
表面の汚れやゴミの除去と同時に完全な脱脂が要求されます.
図2.2 接着剤を塗布されたハンドルバーと新品のグリップ |
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図2.2は洗浄・脱脂したハンドルバーと新品のグリップに回り止め用の接着剤を塗布した様子です.
接着剤にも色々な種類がある為,バーの金属とグリップのゴム系素材に適したものを選定する必要があります.
図2.3は新品のハンドルグリップが取り付けられた左ハンドルの様子です.
これに合わせてバーエンドも新品に交換しました.
見た目の美しさを取り戻しただけでなく,グリップに気兼ねなくクラッチ操作が出きる様になったことで,
ライダーにかかっていた操作時のストレスが解消され,
それが操作フィーリングの向上や走行時の安全性の確保につながる,
といったプラスの面も,大いに評価すべきであると考えます. |
【考察】
ハンドル,特に左ハンドルはグリップがねじれている車両が少なくありません.
当然使用による負荷がかかることで多少のねじれは致し方ないと言わざるを得ませんが,
明らかに握って簡単に回転してしまうようでは,グリップの意味が半減していると考えられます.
特にクラッチ操作という大きな力の受けになっている為,
グリップの負荷も相応であり,それに対抗するだけの内部抵抗が必要になります.
この事例の様に古い車両のグリップ内部は,接着剤が劣化してボロボロになっていて,
その為バーとグリップとの接着力が極めて低下していて,
容易にグルグル回る状態になってしまっている場合が多いといえます.
今回はグリップを新品で在庫していた為,純正品で対応することにしました.
しかし例え社外品であったとしても,正確に取り付けられていれば何ら問題の発生する部位ではありません.
大切なのは,グリップとはバイクに乗る限り必ず触れなければならない部位の1つであることを忘れないことです.
そして何か不具合が発生した,あるいはしそうな兆候が見られた場合は,
速やかに是正される必要があるのです.
※1 吹け上がりの引っ掛かりと空燃比の狂いについて
※2 トランスミッションカウンタシャフトからのオイル漏れと無理な整備による弊害について
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