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事例:S‐80

雌ねじ山の破損によるタンクの固定不良について


【整備車両】

 RG400Γ(ガンマ) 2型  年式:1987年  参考走行距離:約1,200km


【不具合の状態】

 燃料タンクを固定するステーの取り付けボルトのうち,左側の雌ねじ山が破損してねじが締め切らない状態でした.


【点検結果】

 この車両は各所分解整備のご依頼を承りメガスピードにて実施したものですが,

今回の事例では破損した燃料タンク固定ステーの雌ねじについて記載します.



図1.1 破損している雌ねじ山

 図1.1は破損している雌ねじ山の様子です.

この状態ではボルトが完全に締まり切る前にねじ山をねじ切ってしまい,ぐるぐる回ってしまう為,

燃料タンクステーを確実に固定することが不可能でした.



図1.2 ねじ切ったアルミニウムの付着している雄ねじ

 図1.2は固定できない部位に取り付けられていたボルトの様子です.

赤矢印Aで示した部分のねじ溝に巻き付いているのは,

ねじ切れた時にむしり取ったフレームのアルミニウムであると考えられます.


【整備内容】

 フレーム側の雌ねじ溝はタップ等で修正するのは難しいレベルに破損していた為,

ヘリサート加工を実施し同時に雄ねじを新品に交換しました.





図2.1 新品の燃料タンク固定ボルト

 図2.1は新品のタンクステー固定ボルトの様子です.

取り外した古いものはねじ切った部位以外にもねじ溝に歪みが見られた為,

新品に交換することにより指でスルスルと回転させることができる様になりました.



図2.2 雌ねじ山のヘリサート修正

 図2.2は雌ねじに新たに埋め込むねじ溝のガイドを切削している様子です.



図2.3 雌ねじ山に正しく挿入されたヘリサート

 図2.3はオーバーサイズに切削したねじ溝に元のサイズのスプリュを埋め込んだ様子です.

材質がステンレスである為,純正のアルミニウムを大きく超える強度を維持することが可能です.



図2.4 規定トルクで締め付けられた燃料タンク固定ステー

 図2.4はヘリサート加工されたねじ溝に,規定トルクにてボルトが正確に締め付けられた燃料ステーの様子です.

燃料タンクにガタつき等の発生がないことを確認して整備を完了しました.



【考察】

 この車両は新車からのワンオーナーであり,

長年眠っていたことから走行距離がわずか1,200km程度しかありませんでした.

しかし燃料タンクステーの取り付けボルトの破損からすると,

その間に修理に出された業者がねじ切ってしまったという結論に至ります.

つまりこれは車両の状態を判断するのに,

走行距離はあくまで参考に過ぎないということを示した事例であると分析することができます.

確かに取り付けステーのボルトの雌ねじはフレームであるアルミニウム合金ですが,

走行距離を考えれば,それほど燃料タンクの脱着される機会は多くないはずで,

結果論として,締め付け過大という整備ミスにより破損したものであると推測することができます.


 特に2サイクルエンジン搭載モデルというような振動の激しい車両では,

部品の取り付けが不十分であるとすぐに振動により緩みが発生します.

しかしだからといって力任せに締め付けては,まさにこの事例の様にねじ溝を破損させてしまうおそれがあります.

確かに燃料タンクの取り付けステーという部位に関して,手で勘で締めれば良いという方もいるでしょう.

しかし,この様な部位であるからこそ,私はあえてトルクレンチで正確にトルク管理することが必要であると考えます.

なぜなら,この部位の破損がメーカーを問わずあまりにも多いからです.

それは過大なトルクによる締め付けが大きな原因の一つであることを示しており,

アルミニウムの雌ねじに対して鉄のボルトという全く違う材料で締め付けるわけですから,

本来より慎重にならなければならない部位であるというのは,明らかなのです.





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