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事例:S‐54

右側の転倒によるブレーキペダルやステップ廻りの曲がりについて


【整備車両】

R1‐Z (3XC) 3XC3  推定年式:1993年  参考走行距離:約19,500km


【不具合の状態】

ブレーキペダルやステップ廻りが転倒により内側に曲がっていました.


【点検結果】

 この車両はお客様のご依頼により,転倒により曲がったと判断されるステップ廻りの修正を承りました.

まずは状態の確認と,曲がりの発生源等を突き止めることから開始しました.



図1.1 内側に入り込んでいるブレーキペダルステップ

 図1.1は車両後方からブレーキペダルステップを見た様子です.

黄色い線Aは床面に対してほぼ垂直に引いたものですが,ステップのブラケット下部が内側に曲がっている為,

リヤブレーキマスターシリンダのプシュロッドが線Aよりも車体側に入り込んでいることが分かります.



図1,2 内側に曲がっているブレーキステップブラケット取り付け部下側

 図1.2はステップブラケットを取り外してフレームの状態を点検した様子です.

ブラケットは上下2点で支持されていますが,ともに内側に曲がりが見らました.



図1,3 曲がり度合いの確認

 図1.3はどの程度ブラケット保持部が内側に曲がっているかを把握する為,

目安になるボルトをねじ溝に取り付けた様子です.

上側下側ともに曲がりが生じており,特に下側が大きく内側に倒れ込んでいることが確認できます.

ブラケットに歪みや曲がり等は発生していないことから,今回のステップ廻りの曲がりは,

その保持部フレームの曲がりによるものであると判断しました.


【整備内容】

 右ステップ廻りを水平にするには,そのブラケット保持部のねじ溝の位置を修正する必要があることから,

まず位置の補正を行いました.



図2.1 修正されたフレーム

 図2.1は修正されたブラケット保持部フレームの様子です.

正しく板金を行うことにより,正確な位置に取り付け溝を移動しました.

確認の為に差し込んだボルトがともに並行であり,且つ車体に対して左右方向で90度付近を示していることが分かります.



図2.2 修正されたフレームの角度測定

 図2.2は修正されたブラケット保持部の上下方向の位置を確認している様子です.

角度計を使用し,2点ともほぼ90度を示していることが分かります.

これにより,上下左右の各方向で正しく位置が割り出され,修正されたことを確認しました.



図2.3 防錆塗装の行われたブラケット保持部

 図2.3は修正したブラケット保持部を錆から守る為に塗装した様子です.

これにより雨天を含めて長期間の使用に耐えられる様になりました.



図2,4 右側ステップに取り付ける新品の各部品

 図2.4は右側ブラケットに取り付けるステップを構成する新品部品の様子です.

今回の整備ではステップ廻りも同時にオーバーホール【overhaul】(分解整備・精密検査)を実施し,

曲がっていたペダルや削れていたゴムとフートレスト,錆びていたスプリング等を新品に交換しました.



図2.5 修正した車体に取り付けられた右側ステップ廻り

 図2.5は曲がっていたブラケット保持部を修正し,分解整備の完了した右側ステップ廻りを取り付けた様子です.

黄色の線Aは床面に対する垂線ですが,ほぼ直角であることや,

リヤマスターシリンダからステップ下部までのラインが一直線で正確に修正されていることが分かります.



図2.6 オーバーホールの完了した右側ステップ廻り

 図2.6はオーバーホールの完了した右側ステップ廻りの様子です.

曲がっていたステップが正確な位置に修正されたことにより,

違和感のないペダル操作や走行時における右足のポジションを得ることができました.


【考察】

 今回の事例では右側の転倒によりステップが内側に曲がっていました.

逆に左側の転倒によりシフトペダルやブラケットが内側に曲がってしまっている車両も多々見かけることがあります.

これは二輪自動車が転倒するという性質から来るものであり,

古い中古車等を見れば,かなりの確率で曲がっていることが分かります.

操作に影響が出る程度でなければ,そのまま乗り続けられている場合が一定の割合で存在し,

特に整備における投資の対象としては後回しにされることが少なくありません.

しかし,シフト側でもブレーキ側でもペダルはライダーが運転する際に必ず操作する場所であることから,

スロットルやブレーキ,クラッチといった手で行う部位と同等に,

不具合が発生していれば迅速に整備しておくべきであるといえます.

それにより足による正確な車両の操作が交通における安全性の確保の向上に寄与することはもちろんのこと,

“曲がり”に対して適応させていたライダーの体が本来の位置に戻されることにより,

それまで発生していた目に見えない疲労感の軽減につながる場合があります.

また正しく整えられた美しい外観を楽しむことにより,所有する喜びが増大することは言うまでもありません.

特にこの事例の様に,ステップを取り外す機会があれば,

ペダルや付属する金属を交換することにより,見違えた様に周囲が輝きます.

特にブレーキスイッチのリターンスプリングは,位置が路面に近いことや,

その材質から発売から10年以上経過している車両では高い割合で錆だらけになっている為,

機能の面のみならず,外観も新品に交換されたものは非常にさっぱりします.


 やはり大切な車両であれば,もし転倒してステップが曲がってしまったり,

あるいはステップの曲がっている中古車両を入手した場合は,一度包括的に点検整備しておくことが望ましいといえます.





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