過走行による金属疲労がもたらすリンクロッド取り付け部の亀裂について |
【整備車両】
RGV250J (VJ21A) RGV250Γ(ガンマ) 推定年式:1988年 参考走行距離:約11,500km |
【不具合の状態】
リヤサスペンションが抜けている印象を受けました. |
【点検結果】
この車両は個人売買で入手されたお客様が,現場に車両を引き取りに行かれ,
そのままその足でメガスピードにて点検整備のご依頼をされたものです.
まず車両を屋内に移動した際,リヤシートを押し下げた感触から,
リヤサスペンションがオイル漏れによりいわゆる抜けている印象を受けました.
その他キックペダルからのオイル漏れやシリンダからの排気漏れ等が見られましたが,
それらの修理を行う前に車両外観の目視点検を実施した際に,
フレーム側のリヤサスペンションのリンクロッド取り付け部に亀裂が生じていることを発見しました.
図1.1 亀裂の生じているリヤサスペンションリンクロッド取り付け部(車体右側) |
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図1.1はリヤサスペンション下部を車体右側から見た様子です.
黄色の四角Aで囲んだ部分はリヤサスペンションのリンクロッドがフレームにボルト締めされている箇所ですが,
亀裂が入り,脱落しかかっている状態でした.
図1,2 脱落しかけているリンクロッド取り付け部ナット側 |
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図1.2は図1.1の黄色の四角Aで囲んだ部分を拡大した様子です.
亀裂の状態から大きな衝撃を受けて瞬間的に千切れたものではなく,
徐々に亀裂が成長していったものであると推測することができます.
図1.3は図1.1の黄色い四角Aで囲んだ部分を車両左上部から撮影した様子です.
亀裂がほぼ末端まで進み,大きく開口していることが分かります.
また亀裂の発生部が上部であることから,
リンクロッドの負荷がフレームに影響して損傷が進んでいったものであると考えられます.
図1,4 亀裂の生じているリヤサスペンションリンクロッド取り付け部(車体左側) |
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図1.4は車両左側からリヤサスペンション下部リンクロッド部を見た様子です.
黄色の四角Cで囲んだ部分は図1.1の黄色の四角Aで囲んだ部分の正反対の位置にあたります.
右側と同様に左側もフレームに破損が生じています.
図1,5 脱落しかけているリンクロッド取り付け部ボルト側 |
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図1.5は図1.4の黄色い四角Cで囲んだ部分を拡大した様子です.
リンクロッド締め付けボルトがリンクの動きと同じ車両後方に向いていることから,
繰り返し荷重による金属疲労により,ボルト上部が破損して千切れてしまったと考えられます.
図1.6は図1.4の黄色い四角Cを車両右上から見た様子です.
上部のフレームが完全に千切れていて,ボルトが脱落しかかっていることが分かります.
両側のリンク保持部フレームが亀裂により破損している為,
リヤサスペンションリンクそのものが半分浮いている状態になり,
このことからシートを押し下げた時にリヤサスペンションが抜けている印象を受けたものであるといえます. |
【整備内容】
今回のリンクロッド取り付け部フレームの亀裂をお客様にご連絡させていただいたところ,溶接等の修正は行わず,
別の車両に乗り換えるという選択肢を選ばれた為,メガスピードでは点検のみ承りました. |
【考察】
いわゆるレーサーレプリカの場合,車両のフレームはアルミ合金であることがほとんどであり,
過度な金属疲労が蓄積すればやがて一番強度の低い部分や溶接個所から破損が生じます.
フレーム側が破損した場合,例えそれが1箇所であっても,フレーム全体に負荷がかかっていたと考えるのが自然であり,
近い将来次に強度の低い部分に破損が生じる可能性が極めて高いといえます.
この事例では大きな事故による部品の破損等が見られないことから,
車両の使用による金属疲労の蓄積がリヤサスペンションリンクロッドの取り付け部に顕在化し,
破損したものであると判断できます.
確かに部分的に溶接等で補修は十分可能であるといえますが,それにより修正部分の強度が回復した場合,
現在までに疲労が蓄積している次に弱っている部分にしわ寄せがくることは目に見えています.
世界に一台しかない車両であれば,フレームを補強補修しながら乗り続けることも選択肢に含まれるといえますが,
代替可能であれば,やはり疲労の蓄積を考慮して別の車両を探した方が良い,
と判断せざるを得ない場合が少なくありません.
フレームに亀裂,損傷が発生する程度の過走行であれば,
エンジンやその他の機関も同様に疲弊していることは言うまでもなく,すべてを修理しながら維持するコストを考えれば,
最終的には乗り換えという選択をせざるを得ないのも無理はありません.
この車両の走行距離はメーター表示で約10,000km程度ですが,
全体的な消耗具合やオイル漏れ,排気漏れ,その他チェーンスライダーの極度の摩耗や千切れ等から判断すれば,
数万km程度でもおかしくはなく,逆に荒い過酷な使用状態でそれくらい走行しなければ,
リヤサスペンションリンクロッド取り付け部に亀裂が発生することはないといえます.
このことは実際には中古車のメーター表示はあてにならず,
最終的には整備技術者がその車両の状態を読み取る能力の有無による部分が大きいことを示しています.
メガスピードでは様々な故障車両を事例としてとりあげ多角的に分析することにより,
個々の車両において最善の修理,整備方法でサービスさせていただけるよう日々研鑚を重ねております. |
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