事例:S‐33
ねじ部の緩みによるブレーキパイプジョイント部からのフルード漏れについて |
【整備車両】
ZX400-D2 (ZX400D) GPZ400R 年式1984年 参考走行距離:16,400km |
【不具合の状態】
左側のブレーキパイプからブレーキフルードが漏れていました。 |
【点検結果】
ブレーキフルードが漏れ出していたのは,ブレーキパイプの連結部でした。
図1 ブレーキフルードが漏れ出している上部ジョイント |
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図1は上部のジョイントからブレーキフルードが漏れ出している様子です。
図2 ブレーキフルードの漏れ出している下部ジョイント |
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図2はブレーキジョイント下部のねじ部からブレーキフルードが漏れ出している様子です。
この状態ではやがてマスターシリンダ内部のブレーキフルードがなくなり油圧がかからなくなるだけでなく,
エアが混入して制動装置そのものが機能しなくなるおそれがあります。 |
【整備内容】
ブレーキフルードがブレーキ系統のいわゆる繋ぎ目から漏れ出す場合,
その締め付けが緩んでいる,あるいは規定トルクに達していない場合が少なくありません。
したがって,まず増し締めすることから整備を行いました。
図3 漏れ出していたジョイントアダプタの位置の記録 |
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図3は漏れ出している状態でのジョイントの位置を記録した様子です。
これにより,規定トルクで締め付けた場合にどの程度ねじが回るかを判断します。
図4 トルクレンチで規定トルクに締め付けられているアダプタ |
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図4はトルクレンチを使用して規定トルクで締め付けている様子です。
増し締めするにあたり,規定トルクに達するまでにねじが回ったので,
ジョイントが緩んでいたと考えられます。
図5 規定トルクで締め付けられたジョイントの回転角 |
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図5は規定トルクで締め付けたジョイントの様子です。
印の位置の差異Lが増し締めの際に規定トルクに達する為に移動した回転角になります。
図のように,長さLだけ締め付ける必要があるほど現状で緩みが生じていたといえます。
上部のジョイントも同様に規定トルクで増し締めした際に,長さLと同じくらい締め込みが必要でした。
このことから,ジョイントの緩みがブレーキフルードの漏れた原因であったと考えられます。
左側がこの様な状態に陥っていたので,右側もトルクレンチで規定トルクで増し締めしたところ,
同じように,長さLと同じくらい更に締め込みが必要でした。
図6は整備完了し,50km程試運転したブレーキジョイント部の様子です。
完全に漏れが止まったことから,
やはりブレーキフルードの漏れはジョイント部のねじの緩みが原因であったと結論付けられます。 |
【考察】
この車両は他店で購入された直後にメガスピードに持ち込まれ,点検整備を承ったものです。
法定定期点検に基づきブレーキ外観を点検していると左側のブレーキパイプから,
フルードが漏れ出していることに気がつきました。
増し締めにより,更に締め込むことにより規定トルクに達したので,
ジョイントの締め付けは規定トルクよりも緩く締まっていたことになります。
その背景には,経年や使用によるねじの緩みや,過去に整備した者がトルクレンチを使用せずに勘で締め付けた,
ということが考えられますが,現段階で過去をさかのぼり原因を特定することは不可能です。
どちらにしても,ねじが規定トルクに達していなかったことがブレーキフルードの漏れる原因であり,
増し締めにより規定トルクに締め付けられて漏れが止まったという結果に至ります。
今回の事例では増し締めにより症状が改善されましたが,もしそれでも直らない場合は,
各部を分解整備する必要があります。
ブレーキは最重要機関であり,わずかな漏れでも必ず不具合を発生させるに至ります。
やはりブレーキ廻りの不具合を発見した場合は,可能な限り迅速に修理される必要があり,
また長期に渡り点検整備されていない車両であれば,一度まとめて包括的に整備されることが望ましいといえます。 |
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