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ジョイントシール及びハウジングの損傷による液漏れがもたらす油圧機構の不具合について


【整備車両】

RG400EW (HK31A) RG400Γ(ガンマ)Ⅰ型  1985年式  〈推定〉走行距離:約21,500km


【不具合の症状】

ブレーキレバーがスカスカで、ほとんど握り切っても十分に油圧がかからない状態でした。


【点検結果】

この車両は、お客様があるオートバイ販売店からエンジン実働その他特に問題なしという現状販売で購入されたものでした。

即日不具合が発見された為、すみやかにメガスピードで整備を承り、入庫されました。

ブレーキは問題ないという販売店側の説明で購入されたものですが、

販売店で購入された時にはすでにブレーキレバーはスカスカだったということでした。

実際にメガスピードに持ち込まれる際、ブレーキを握ると、車両の押し歩き程度の速度を制動する性能はありました。

しかし、誰が操作しても明らかに危険と感じるほど、フロントブレーキレバーの握り込み量が多い状態でした。

つまり、何も知らずにブレーキをかけた場合、意図していた停止ラインより空走距離がのびて、

かなりの違和感と恐怖感を覚えます。



油圧が正常にかからない原因は多々ありますが、まずは基本である外観の目視点検から始めました。

メガスピードでお預かりして数日後に点検を開始しましたが、

入庫された時点ではなかった液体が、フロントホイールに垂れていました。

そして右側キャリパからブレーキフルードが漏れ出しているのを確認しました。

フロントフォークがオイル漏れを発生している場合にもフロントホイールにオイルが垂れる場合がありますが、

この液体は見た目は透明で水の様にさらさらしていたので、

おそらくキャリパから漏れ出したブレーキフルードであると推測できます。



図1はブレーキフルードの漏れている右側フロントブレーキキャリパの様子です。


図1、液漏れの発生している右側フロントブレーキキャリパ

各部分が腐蝕していて状態が悪く、全体的にブレーキフルードまみれになっていて、

この状態では液漏れの発生箇所が特定できず、

原因を特定する為にキャリパを分解しました。

その結果、まず第一にダストシールが入っていないことが分かりました。

知識や技術のない人が整備された結果ダストシールが欠損しているのか、

レースに参加した際にフリクション減少を狙い故意に取り外されたものかは判断できませんが、

いずれにしろ公道を走行する場合は、ダストシールは装着されるべきであるといえます。



図2は2分割のキャリパの油路をつなぐジョイントシールを斜め上及び真横から撮影した様子です。

上側の画像から、合わせ面が劣化したブレーキフルードの固まりが堆積していることが分かります。




図2、潰れているキャリパジョイントシール

下の画像の中央部の膨らんでいる厚みが使用前のシールの厚みです。

使用により、合わせ面に挟まれた部分が潰れていることが目視で確認できます。




図3、アルミの腐食が発生し、表面が荒れているシールハウジング

図3はジョイントシールハウジングの様子です。

画像は劣化したブレーキフルードの堆積物等を洗浄して撮影したものですが、

素材そのものがアルミの腐食により表面が荒れていました。


【整備内容】

ジョイントシールは潰れていて密封性能が低下していると判断できるので、

ピストンシール及びダストシールと合わせて新品に交換することにしました。



図4は新品のジョイントシールの様子です。

使用されたジョイントシールは潰れた部分がへこんでいますが、新品の表面は均一になっています。


図4、新品のジョイントシール

新品のシールの厚みは約2,14mm、使用後の古いシールは約1,76mmなので、

その差0,38mmの厚みすなわち張りの分、古いものは新品に比べてシール能力が損なわれていたといえます。



図5は荒れていたジョイントシールハウジング及びキャリパ合わせ面を修正研磨した様子です。


図5、修正研磨されたジョイントシールハウジング及びキャリパ合わせ面

シールの密着を良くする為にハウジングの荒れた面を研磨し鏡面仕上げを行いました。

またそれにより極めてわずかな寸法ですが、ハウジングの深さが増した分、キャリパ合わせ面全体を研磨し、

修正研磨により深くなったジョイントシールハウジングの高さをプラスマイナスゼロとしシール性を確保しました




図6、分解整備が完了し、液漏れの解消したキャリパ

図6は分解整備を完了し、車体に組み付けブレーキフルードを注入したキャリパの様子です。

ボデー本体は塗装が剥げていたので再塗装し、錆びていたボルト類を新品に交換しました。

引きずりを起こさずに正常に油圧がかかりようになると同時に、

フロントブレーキレバーの握りしろの適正化や操作フィーリングが向上し、安心して走行できるようになりました。


【考察】

今回の修理では、右キャリパからのブレーキフルードの漏れにより、

リザーバタンク内のブレーキフルードの残量が減ったことによる、

油圧系統への空気の混入や実質的な液不足が原因でした。

そしてこの事例ではピストン及びピストンシールも新品に交換した為、

ジョイントシール及びシールハウジングの密着不良による液漏れのみが原因であると判断することはできません。

しかし、結果的に液漏れが直ったことから、シール及びハウジングが原因に含まれている可能性があります。

ブレーキキャリパをオーバーホールするということは、

単にキャリパを清掃し、シリンダ内径の測定やピストン外径の測定、シール交換をすることではありません。

オーバーホールとは分解整備、精密検査です。

やはりシリンダ内径の状態が思わしくなければ可能な限り修正研磨しなければなりません。

またこの事例のようにジョイントシールハウジングの状態が良くなければ、

できる限り修正しなければなりません。

この事例ではジョイントシールハウジングの面を出す為に平面研磨を行い、それにより合わせ面からの深さが増した分、

左右のキャリパ合わせ面を研磨しハウジングの深さをもとの寸法よりマイクロ単位で僅かに浅く修正しました。

これはハウジングの深さを僅かに浅くすることにより、シールの潰れしろを多く見積もり、

密着度の向上を図る為です。



この車両はメガスピードで保管した数日間でフロントホイールに滴り落ちるほど液漏れが発生しました。

通常、漏れが始まる場合はじわじわ発生する場合が少なくありません。

まして、油圧をかけていない状態で数日間にこれほど液漏れが起こるのは異常といえます。

このことを説明するには、この車両はもともとブレーキフルードが漏れていて、

販売直前に販売店が少なくなったブレーキフルードをマスターシリンダに補充し、

そのまま販売されていたという見方を否定できません。

それを裏付けるように、キャリパの腐食状態から茶褐色に濁ったブレーキ液が入っていてもおかしくない状態でしたが、

漏れ出ているのはほとんど完全に透き通った透明の新しいと推測されるブレーキフルードでした。



このキャリパにはダストシールが入っていませんでしたが、

フリクションを減らす為に故意に取り外されていることがあります。

ですが一般公道を走行する場合は、わずかなフリクションを減らすより、

内部にゴミや異物が侵入することを防ぐ方がはるかにメリットがあります。

もしダストシールがなければ、ゴミや異物はピストン外周を傷つけ、錆の発生源になったり、シールの寿命を低下させます。

したがって、一般公道を走行する際にはダストシールはきとんと取り付けられていることが求められます。

入庫時の車両の状態から、特別サーキットで使用されたような外観、形跡はなく、

ブレーキキャリパも長期間整備された形跡がないので、

故意にダストシールが抜かれたというよりは、過去にその場しのぎでいい加減に整備された可能性を排除できません。

いずれにしろ、ブレーキは安全にかかわる最優先整備機関であることにはかわりなく、

正しい知識や技術でしかるべき整備が行われる必要があります。



メガスピードではブレーキ廻りの整備にはエンジン同様、それ以上に力を入れています。

車両が意図した通りに正常に止まることは、安全性はもとより楽しいライディングに直接結び付きます。

その効果、結果はエンジンの出力を上げた場合よりはるかに実感できる場合が少なくありません。

やはり制動装置は包括的に点検整備されることが効果的です。

そして可能な限り、不具合が発生する前に定期的に整備されることが求められます。

メガスピードではその為の定期的な点検整備はもちろんのこと、

ブレーキがスカスカになってしまった、あるいは押し歩きできないほど固着した車両の整備も随時承っております。





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