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事例:E-213

紛失していたトラップとその再設置について

【整備車両】 
 RG400EW-2W (HK31A) RG400Γ(ガンマ) 2型  年式:1987年  参考走行距離:約23,500km
【不具合の状態】 
 吹け上がりが悪く,走行中に1番と3番サイレンサから黒くなったオイルが大量に噴き出す状態でした.
【点検結果】 
 この車両は他店で購入された直後にメガスピードにて不具合の修理を承ったものです.先方でキャブレータのオーバーホールを実施したということですが,
スロットルストップスクリュのOリングが取り付けられていない
※1 等,状況や主要部の点検結果から不十分であると判断し,当社で細部までオーバーホール【overhaul】(分解整備・精密検査)し直しました. ここでは紛失していたトラップについて記載します.

図1.1 トラップのないエアパイプジョイント
 図1.1はエアパイプを取り外してジョイントの内部を確認した様子です.本来あるはずのトラップが入っていませんでした.


【整備内容】
 トラップそのものがまだ部品供給ありの状態であったことから新品を取り付けることにしました.

図2.1 新品のトラップ
 図2.1は新品のトラップの様子です.エアフィルターに比べて目が粗いことが分かります.

図2.2 エアパイプジョイントに取り付けられた新品のトラップ
 図2.2は新品のトラップをエアパイプジョイントに取り付けた様子です.

図2.3 整備の完了したエアパイプとジョイント
 図2.3はトラップの取り付けられたジョイントにエアパイプをつなげた様子です.トラップが設置されたことによりクランプ部の強度が上がることは十分に把握できるレベルです.


【考察】 
 トラップ【trap】という部品名から考えれば,いわば網で異物を捕獲するということが連想されます.しかし順番としてエアフィルターのスポンジを通過した空気がトラップを抜けキャブレータに導かれる為,エアフィルターの目の細かさとトラップの網の目の細かさを比較すれば,エアフィルターの方が吸入空気の通過条件が厳しいことから,実際にエアフィルターを通過した空気の中にトラップで引っ掛かるような異物が混入している可能性はほとんどないと考えて良いと判断できます.
 2型400Γの発売が1987年頃であることから,今となってはなぜトラップがこの様な位置に設置されているのか,その設計上の意図を設計者から汲み取るのは非常に難しいと言えます.
仮に濾過性能を考慮したものでなければ,思いつくのは,エアフィルター側が金属バンドで内側から広げる処置を施していることを考えれば,エアパイプ側のクランプでエアパイプを締め付ける時の変形に対する樹脂部品の形状保持の為に金属を使用したのではないかと言うことです.
 どのような意図で作られたとしても,私はまずは当時の設計者の意思を尊重する整備を心がけています.もちろん現在国土交通省で公開されている数々のリコール内容を吟味すれば必ずしも商品発売当時の設計が優れているとは限りません.しかしメーカーの技術者がその当時,コストと要求の狭間で生み出した設計であれば,ひとまずそれを尊重すべきであると私は考えています.
 トラップは巷ではいわゆる“茶漉し”と呼ばれていて,エアフィルター上部にある蓋でいわゆる“豚鼻”と呼ばれているものと並んでユーザーに取り外されていることが少なくありません.しかし取り外したことにより,吸気効率が何%向上して,その為に必要な燃料は何グラムで,それにより何馬力向上するから,それに対する熱量増加分に対する冷却効率まできちんと数値で計算できているのか,非常に疑問に思います。
 確かにバイクはあれこれいじるのも大きな楽しみの一つでしょう.しかし一番大切なのはオイル廻りも含めて燃料系統を正確に整備すればその様な小細工をしなくても,十分に強力な加速力が得られるということです.その事が完全に無視されて各部がカスタムと称してグチャグチャにいじられた調子の悪い400Γが増えてきていることは大きな問題であると言わざるを得ないのは非常に残念なことです.


※1 スロットルストップスクリュのOリングがエアスクリュに誤使用された影響について





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