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事例:E-223

スロットルケーブル中間連結部の破損により戻りの悪くなったスロットル操作について

【整備車両】 
 R1-Z (3XC) 3XC1  推定年式:1991年  参考走行距離:15,200 km
【不具合の状態】 
 スロットルの戻りが悪い状態でした.
【点検結果】 
 この車両はメガスピードで整備を承る前に他店でヘッドガスケットおよびピストンリングを交換したとされるものです.当社で点検したところリザーバタンクには全く冷却水が入っておらず,ラジエータにもキャップ口元付近は冷却水が無い状態でした
※1 これではオーバーヒートに陥る危険性があります.その他各部に異常が見られましたが,今回の事例では,戻りの悪いスロットルについて記載します.

図1.1 補修されているスロットルワイヤアジャスト部
 図1.1は1番シリンダキャブレータに取り付けられているスロットルワイヤアジャスト部の様子です.赤の楕円で囲んだ部位は本来ラバーで防護されていますが,すでに崩壊していてテーピングで処理されていました.この様な応急措置がされている場合は,それをしなければならないほど部品全体が消耗している可能性が非常に高い為,ワイヤ全体を点検しなければなりません.
 また黄色の四角で囲んだ部位は燃料コックと燃料ホースの接続部分ですが,コックの出口が車体内側に曲がっていました.新品では燃料コックから鉛直下方に取り付け口が出ていることから,おそらくタンクの脱着を繰り返す間に曲げられてしまったものであると推測されます.

図1.2 防護ゴムの破損している2番キャブレータ側スロットルアジャスト部
 図1.2は2番シリンダのキャブレータに取り付けられているスロットルワイヤアジャスト部の様子です.黄色の楕円で囲んだ部分は,1番と同様に防護ゴムが破けて脱落しかかっていました.こちらはテープ等で補修されていませんでした.

図1.3 結束バンドが取り付けられているスロットルワイヤ連結部
 図1.3はグリップ側から伸びてきたスロットルワイヤをキャブレータとポンプ側およびYPVSモータ側に分岐する為の接続部の様子です.黄色の楕円で囲んだ部位に結束バンドが取り付けられていました.メガスピードで整備を承る車両のうち,この様に処理されているバイクは概ねその部位が破損している ※2 為,今回もその可能性があると判断しました.

図1.4 連結部の破損しているスロットルワイヤ
 図1.4は取り外したスロットルワイヤの結束バンドの取り付けられていた部位の様子です.残念ながら予想を裏切ることなく,大きく破損していました.この状態ではスロットルを操作するたびに動く為,遊びが変化するだけでなく,角度がついた時に大きな抵抗となり,スロットルの戻りが遅くなる直接の原因になります.いくら結束バンドで締めたとしても,樹脂が破損してしまっている場合は何の意味もなさないのです.

【整備内容】
 
 破損状況からスロットルケーブルASSYを交換する必要がありましたが,すでにメーカー純正部品が絶版であることから,社外品で対応しました.
図2.1 新品のスロットルケーブル連結部
 図2.1は社外品の新品のスロットルケーブルASSYの連結部の様子です.これにより本来のスロットル操作が可能になりました.

図2.2 車体に取り付けられたスロットルケーブルASSY
 図2.2はスロットルケーブルASSYを車体に取り付けた様子です.取り回しを現物に合わせながら設置し,取り付け状態が良好であることを確認しました.

図2.3 キャブレータに取り付けられた新品のスロットルケーブルASSY
 図2.3は1番キャブレータに取り付けられた新品のスロットルケーブルASSYの様子です.2番も同様に取り付け,非常にスロットル操作がスムーズになったことを確認して整備を完了ました.実際の試運転においても期待通りの操作感を得ることができました.

【考察】 
 樹脂部品というものは,新品であれば粘りがありますが,20年も経過すれば硬化すると同時に脆くなり,触っただけで破損する場合すらあります.この事例の様に,グリップ側からのワイヤの軸受けになって負荷を受けている部分が樹脂であれば,むしろ破損していて当然と考えなければなりません.特に古い車両を包括的に整備する場合,キャブレータのオーバーホール【overhaul】を実施するのであれば,可能な限りスロットルワイヤも同時に交換する理由はここにあります.なぜならいくら吹け上がりが良くなったとしても,それを操作する部位でロスが生じていては,エンジンの性能を味わい切れないからです.
 スロットルケーブルは交換すれば操作を含めレスポンスが良くなるので実感しやすい部位でもあると言えます.そして例のごとく,ケーブルがダメになる頃にはメーカー絶版になっている場合が少なくない為,特に社外品がない車両の場合,車両が古く整備履歴が不明であれば,とにかく新しくしておきたい部位であると言えます.


※1 空になったリザーバタンクとラジエータ内の冷却水不足によるオーバーヒートの危険性について
※2 スロットルケーブル保持部の破損や経年劣化により重くなったスロットルグリップについて





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