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事例:109

スロットルケーブル保持部の破損や経年劣化により重くなったスロットルグリップについて


【整備車両】

RG400EW‐W (HK31A) RG400Γ(ガンマ) Ⅰ型  年式:1986年  参考走行距離:約12,200km


【不具合の状態】

スロットルの引きが著しく重く,戻りも渋い為エンジンフィールが低下した状態でした.


【点検結果】

 この車両はお客様のご依頼により,重くなったスロットルの改善のご希望を承りメガスピードに入庫されたものです.

その他にも
ハンドルスイッチが共回りしていたり ※1 リヤブレーキランプスイッチの配線が熔損していたり ※2

破損したクラッチレリーズ部からミッションオイルが漏れ出していたり
※3

ウォータポンプからミッションオイルが漏れ出していたり
※4 ,様々な不具合が発生していました.

ここではスロットルに関して記載します.



図1.1 非常に動きの重くなっているスロットルグリップ

 図1.1.は通常の状態より非常に動きの重くなっているスロットルグリップの様子です.

もともとRG400Γのスロットルグリップは,ワイヤ一本でキャブレータ4つと,

オイルポンプ1つの合計5本のワイヤを引く構造になっている為,ある程度の重さがあります.

しかし症状の確認を行ったところ,通常よりはるかにスロットルグリップの握りが重くなっていることが分かりました.

なぜそう判断することができるかというと,

メガスピードではオイル廻りの整備一式に加え,キャブレータのオーバーホール【overhaul】及び,

スロットルワイヤの新品交換を同時に整備する機会が非常に多い為に,

整備技術者である私自身がRG400Γのスロットルの最良の状態を常に把握しているからです.



図1.2 スロットルグリップに取り付けられているワイヤ

 図1.2はスロットルグリップからのワイヤがキャブレータ及びオイルポンプの5本に分岐する部分の様子です.

分岐点の樹脂ケースが割れていて,赤いタイラップでワイヤが脱落しないように結束されていました.

しかしケーブル保持部が割れていることにより,ケースに対してケーブルがかなり傾いていることが分かり,

これがケーブル内部のワイヤの抵抗になっていると考えられます.



図1.3 ケーブル保持部の破損している分岐ケース

 図1.3は分岐ケースとケーブルの様子です.

赤い四角Aで囲んだ部分がケーブル保持部であり,角度にして約180°丁度で破損していることが分かります.

これはスロットルグリップ側のケーブルの曲げに対する反力がケースにかかり,

経年劣化等により破損したものであると推測でき,ケーブルが曲がったまま変形していることからも,

かなりの長期間無理な取り回しで使用されていた可能性が否定できません.


【整備内容】

 スロットルワイヤはグリップ側がオイルポンプとキャブレータの合計5本を引く為,

使用により個々の内部抵抗が少し増えても,トータルではスロットルグリップの捻りが重くなります.

今回の事例では破損した樹脂部の状態や各部からおそらく発売当時のものであると推測され,

この機会に新品に交換しました.



図2.1 新品のスロットルワイヤ及びスロットルグリップ

 図2.1は新品のスロットルワイヤを新品のスロットルグリップに取り付けた様子です.

やはりスロットルワイヤが消耗する頃はグリップも同等に経年劣化しているといえ,

部品が樹脂であることから同時に交換されることが望ましいといえます.



図2,2 特殊強化スプリング(下)と取り外した古いスプリング

 図2.2はスロットルワイヤリターンスプリングで,特殊強化スプリング(下)と取り外した古いスプリングを比較した様子です.

ピストンバルブ式のキャブレータの場合,

スロットルグリップの戻りはピストンバルブに取り付けるリターンスプリングに一存されます.

オイルポンプレバーのリターンスプリングの力も無視することはできませんが,

やはりピストンバルブのリターンスプリングを主眼に捉える必要があります.

スロットルワイヤとスロットルグリップに合わせてリターンスプリングも同時に新品に交換しておきたい部品であるものの,

すでに純正部品が絶版であることから,メガスピードでは特殊強化スプリングを使用しています.

このスプリングを装着した場合,非常にスロットルグリップの戻りが鋭くなり,

純正ではとても味わえない俊敏なレスポンスが約束されます.

特殊強化スプリングと純正スプリングの比較は表1の通りです.




a 取り外した純正スプリング 特殊強化スプリング
左巻き 左巻き
巻き方向
巻き数 13 17
自由長 100mm 100mm
線径 0,68mm 0,80mm
外径 15,0mm 14,7mm
ピッチ 8,72mm 5,75mm
表1.1 純正スプリングと特殊強化スプリングの比較

 表1.1において,薄い赤で示したセルの数値は
純正に対して特殊強化スプリングの変更点です.

自由長は同じで巻き数が約1,3倍になることにより,ピッチが35%縮まっています.

また外径がわずかに小さくなるものの,線径が約1,2倍になることにより,強力なバネ力を発揮していることが分かります.

この強いバネ力により,スロットルの鋭い戻りを実現します.

材質やバネレートは内部機密情報により非公表とさせていただきますが,

非常に優れた性能を示していることは,実際に走行すれば一目瞭然です.



図2.3 スロットルバルブに取り付けられた特殊強化スプリング

 図2.3は特殊強化スプリングに新品のリングを取り付けスロットルバルブに組み付けた様子です.

スプリングの抜け止めとしてのリングも経年により劣化していた為,同時に新品に交換することにより信頼性を向上させ,

実際にキャブレータに取り付け鋭いスロットルレスポンスが得られたことを確認して整備を完了しました.


考察】

 RG500/400Γ (HM31A/HK31A) は構造的に一本のスロットルワイヤでキャブレータ4つとオイルポンプを引いている為,

標準状態である程度の重さがあります.

そしてワイヤが経年劣化しているものは,内部抵抗が増え,引いているワイヤの数だけ負荷が増し,

非常にスロットルグリップの操作が重くなっている車両が多々見られます.

発売が1980年代半ばということを考えれば,当然であり,引きが重くなるということを裏返せば戻りも悪くなるということであり,

エンジンレスポンスとして吹け上がりと回転の落ち込みの両方をスポイルし,

本来の性能とはかけ離れた状態になります.

スロットルを捻るすなわちワイヤを引くことに関しては,ワイヤ及びグリップを新品に交換すれば改善されますが,

戻りに関しては,発売当時のスプリングでは役不足であるといえ,何らかの対処が必要になります.

メガスピードでは特殊強化スプリングを使用することにより,素早い戻りによる俊敏なスロットルレスポンスを実現しています.

確かに特殊強化スプリングによりわずかにスロットルを引く力が増しますが,

常に特殊強化スプリングによる最適な戻りの力が働いている為,全く問題にならず,むしろ節度ある操作感が好印象を与え,

より一層スロットルレスポンスが向上したことが確実に実感できます.


 特にスロットルは,車両を前進させる時には必ず操作する一番頻度の高い部位であり,

やはり少なくとも発売から20年以上経過している車両に関しては,

絶版になる前にスロットルワイヤを交換しておくことが望ましいといえ,

同時にリターンスプリングも精密に検査し,衰損していれば対策を行う必要があります.

それを実施するか否かがこの先楽しいバイクライフが送れるかどうかの大きな分岐点であることは間違いありません.






※1 “位置決めピンの抜けによるハンドルスイッチの共回りについて”

※2 “排気チャンバとの接触によるリヤブレーキのストップランプスイッチ配線被覆の熔解について”

※3 “転倒によるレリーズシャフトオイルシール部の破損がもたらすミッションオイル漏れについて”

※4 “インペラシャフトの段付き摩耗によるミッションオイル漏れについて”






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