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事例:E-203

キャブレータボデー外観の洗浄研磨について

【整備車両】 
 RG400EW-2W (HK31A) RG400Γ(ガンマ) 2型  年式:1987年  参考走行距離:約23,500 〔km〕
【不具合の状態】 
 1番と3番シリンダが燃焼不良を起こし,加速性能が悪化した状態でした.
【点検結果】 
 この車両はメガスピードで不具合の整備を承る直前に,他店でキャブレータのオーバーホールが実施されたということですが,部品の組み間違え等の不適切な作業が実施されていた為,すべてやり直したものです.ここではその際に気になったキャブレータボデー外観について記載します.

図1.1 白い粉状の物質が付着しているキャブレータボデーおよび燃料パイプ
 図1.1は当社に入庫する直前に他店でオーバーホールされたとされるキャブレータボデーの様子です.確かに長年放置した様なガム状物質や極度の錆・腐食はありませんでした.しかし,黄色の楕円で示した燃料パイプとボデー外観をはじめ,表面に粉状の白い物質が付着した状態でした.
この白い粉の様なものは,アルミニウム合金特有の経年による劣化がもたらす場合と,キャブレータ洗浄剤を使用した後に流し切れなかった洗浄剤により形成される場合があります.
 また内部ではメインジェットシートおよびニードルジェットホルダ取付部に腐敗したガソリン等で生成されたと推測されるゴミが付着していました
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【整備内容】
 
 スロットルストップスクリュに入るべきOリングとシートワッシャがエアスクリュに取り付けられていたり,様々な不具合が内在していましたが,今回の事例ではキャブレータボデーを点検する為に可能な限り清掃・洗浄し,性能の回復と同時に部品が持っている本来の美しさの復活を図りました.

図2.1 清掃洗浄されたキャブレータボデー
 図2.1は粉を吹いていたボデーの細部を清掃洗浄した様子です.
表面を洗浄することによりゴミや付着物を除去し,わずかに表面を研磨することにより,外観の美しさを取り戻すと同時に,細かい亀裂や損傷の有無を点検しました.また再使用されていたオイルチェックバルブニップルを取り外し,オーバーサイズに設計製作したものを圧入し直しました.


【考察】 
 部品を整備する時,その材質そのものに問題が発生していないかを厳密に確認する必要があります.特にキャブレータの様な精密な機械であり且つ鋳物という構造上割れや亀裂が生じるものについては,尚一層その状態を点検する作業が重要です.一見外観の美しさのみに着目して磨いている様に思える作業でも,実際には亀裂や損傷,劣化の具合等を点検しているという重要な目的が含まれているのです.

 この車両はメガスピードに入庫される直前に他店でオーバーホールされたということですが,確かに穴の詰まりはありませんでした.しかし図1.1の状態で終わらせるのと,図2.1の状態までボデーを美しくするのでは,百歩譲って仮に性能が同じであったとしても,汚い部品で構成された車両に乗るのは気分的に問題があります.

 オーバーホールとは何か.【overhaul】 の直接的な日本語訳は“精密検査”です.精密検査する為には分解しなければならないので,分解整備・精密検査とも言えます.そして精密に検査する為には,部品の素材そのものをゴミや汚れ等を除去して剥き出しの状態にもって行って初めて取りかかれると言えます.つまり,可能な限り汚れを除去することがオーバーホールという語句の前提条件になるわけです.その意味において,この事例ではどうでしょうか.図1.1の状態では白い粉がボデーやパイプに付着していて,その下がどうなっているか点検ができません.つまりこの状態ではオーバーホールしたとは言えないのです.もし白い粉の下に亀裂が発生していたら,そしてそこから燃料が漏れ出したとしたら,どうなるでしょう.それは車両火災につながります.

 大切なのは,精密に部品表面を点検する為に表面の状態を綺麗にしておかなければならないということです.それに付随した外観の美しさが取り戻されるという現象は,結果的にそうであって,本来それそのものが目的ではありません.しかし,私はそれが点検と同等の目的であっても良いと考えます.部品は美しいに越したことはないのです.


※1 メインジェットシートおよびニードルジェットホルダ取付部に付着した堆積物について





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