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事例:D-64

プラグキャップの抵抗増大による点火不良がもたらすプラグのカブリについて

【整備車両】 
 RG500EW (HM31A) RG500Γ(ガンマ) 1型  年式:1985年  参考走行距離: ― 
 
【不具合の状態】 
 走行可能ですがプラグにカブリが発生する状態でした.
【点検結果】 
 この車両は7年程度の長期保管により不動に陥ったため,メガスピードにて再生のご依頼を承ったものです.各部の不具合の改善により走行可能になりましたが,プラグがカブって燃焼しないシリンダが発生する症状が出ていました.入庫時のお客様への聞き取りにより,乗らなくなる前に1気筒爆発していない感じがしたという情報を得ていたことから,当時の症状が再現されたと判断し,故障診断を開始しました.

図1.1 完全にかぶっている4番プラグ
 図1.1 はエンジン始動時に燃焼しないシリンダのプラグを取り外した様子です.4番シリンダが燃焼していませんでしたが,その前は3番シリンダとランダムにカブリが発生していました.エンジンの圧縮が良好であることや燃料系統は整備してあること及びカブリのランダム性から点火系統に異常があると判断しました.

図1.2 点火信号の点検
 図1.2 は各気筒の点火信号を点検している様子です.点火信号の有無からCDI本体には異常がないことを確認しました.また点火時期に狂いがないと判断しました.

図1.3 錆びているプラグキャップ端子
 図1.3 は4番シリンダのプラグキャップの様子です.内部の端子にかなりの錆が発生していることを確認しました.

図1.4 プラグキャップの抵抗値測定
 図1.4 はプラグキャップ単体の抵抗値を測定している様子です.31.42kΩと新品の3倍以上あることが分かりました.これではいくら高い電圧をかけても満足に電流を流すことが難しいと言えます.


【整備内容】
 プラグキャップ及びイグニションコイルを4気筒すべて新品に交換しました.またアーシングを同時に実施しました.

図2.1 新品のプラグキャップの抵抗測定
 図2.1 は新品のプラグキャップの抵抗値を測定した様子です.新品は約9,4kΩですから,異常とされる取り外したキャップの抵抗値がいかに大きいかが分かります.

図2.2 新品のイグニションコイルとプラグキャップ
 図2.2 は新品のイグニションコイルとプラグキャップの様子です.キャップがダメになる頃にはコイルもダメになる為,一方に不具合が発生していた場合は同時にセットで新品にします.

図2.3 新品のプラグキャップ端子
 図2.3 は新品のプラグキャップの端子の様子です.抵抗値が正常に戻ったことに加え,広がっていた端子がリフレッシュされたことにより,スパークプラグに固く確実にはめ込むことが可能になりました.

図2.4 車体に取り付けられた新品のイグニションコイル
 図2.4 は新品のイグニションコイルとプラグキャップを車体に取り付けた様子です.これにより確実な点火が約束されました.またプラグからバッテリマイナス端子間の抵抗が0.3Ωあったため,アースケーブルを2か所取り付けました.

図2.5 理想的に美しく焼けているプラグ
 図2.5 は整備後に約 50 km 程度試運転してから取り外した4番シリンダのプラグの様子です.概ね4気筒とも図の様に理想的に焼けている状態でした.図1.1 のびしょびしょで煤だらけのプラグとは全く別物の様に見えます.イグニションコイルとプラグキャップを新品にしただけでここまで変化するのです.もっともそれはエンジンの圧縮が良好なのと燃料系統をオーバーホールしてあることが前提となっていますが,イグニションコイルやプラグキャップの抵抗による火花の減衰や機能の重要性を改めて認識させられた事例であると言えます.


【考察】 
 この事例から言えるのは,目視で点火プラグから火が出ているという点検方法は,出ているのが正常な火花なのか,それとも燃焼できるギリギリのエネルギーしかない火花なのか,全く切り分けができないということです.もっと強く言うのであれば,火が出ていたとしても,それが強力な火花でなければ何の意味もないということです.

 実際にこの事例でも4気筒火花が発生している状態でした.そして十分に力強い加速をしていました.それにも関わらず,取り外したプラグは4気筒すべてカブッた状態でした.しかし燃調は一切変更せずイグニションコイルとプラグキャップを新品にすることにより,カブッていたプラグをここまで理想的に焼き切れるまでに変化させることができます.それほど【良い火花】は重要なのです.

 ここで陥りやすいのはカブリは燃料が濃い為だと決めつけることです.今回の事例においても,もし燃料が濃いと誤診していれば,どんなに燃料を薄くしていってもカブリは直らず,泥沼に陥ることになります.もちろん確かにカブリは燃料が濃過ぎても発生しますが,本当に燃料が濃いのが原因なのか,それ以外に原因があるのかは,燃料系統以外をすべてベストにしてから判断しなければなりません.というのも,特に2ストは燃料を薄くして行くほど焼き付きの危険性が増大していく為,判断をより慎重に下す必要があるからです.そしてその判断に確信を持たせるには,一つ一つ理論的に原因を消去していくより他はないのです.







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