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事例:D-43

右ハンドルスイッチの消えかけた機能表示と位置決めピンの破損について

【整備車両】 
 RG400EW-2W (HK31A) RG400Γ(ガンマ) 2型  年式:1987年  参考走行距離:約23,500 km
【不具合の状態】 
 位置決めのピンが破損し,右ハンドルスイッチの機能表示文字が退色して消えかけていました.
【点検結果】 
 この車両はメガスピードで不具合の整備を承る直前に他店で整備されたものですが,各部に不具合が見られた為,それぞれについて整備し直しました.ここでは位置決めピンが破損し,表示がほとんど消えかかっていた右ハンドルスイッチについて記載します.

図1.1 表示の消えかかっている右ハンドルスイッチ
 図1.1は右ハンドルスイッチの様子です.きるスイッチではOFFとRUNがほとんど消えかけているのが分かります.またライト部ではON,OFFの表示が著しく薄くなっています.

図1.2 破損している位置決めピン
 図1.2は右ハンドルスイッチを開けた様子です.赤色の楕円で囲んだ部分には本来位置決めのピンがありますが,この右ハンドルスイッチでは完全に削れてなくなっています.

図1.3 根元から削り取られている位置決めピン
 図1.3は右ハンドルスイッチを車体から取り外して確認した様子です.位置決めピンが根元から完全に破損していることが分かります.この状態ではスロットルを全開にした時,更に力をかけると右ハンドルスイッチごとスロットルが更に回ってしまう不具合が発生します.例え小さな力でも何度もスロットルをひねっていると,徐々にハンドルスイッチが回ってしまうことも少なくありません.


【整備内容】
 位置決めピンの破損については,位置決めピンを埋め込む修理方法
※1 もありますが,今回の事例では表示が消えていることにも対応する必要があることから,他車種からの新品を加工して流用することにしました.

図2.1 右ハンドルスイッチの比較
 図2.1は新品の流用スイッチ(左)と400Γのスイッチの様子です.ライティング部はほとんど同じですが,流用側のキルスイッチはプラス制御であるのに対して,400Γの方はマイナス制御になっていることが分かります.

図2.2 端子取り付け位置の比較
 図2.2は流用したスイッチ(左)と400Γのスイッチを比較した様子です.配線が逆になっている為,このままの状態で流用した場合はキルスイッチONの時にエンジンストール,OFFの時にイグニションONとなり,スイッチの操作が表示とは逆になります.



図2.3 配線を移動した端子(上)と基板裏側
 図2.3はキルスイッチの反転を防ぐ為,流用側の配線を400Γの配線に合わせて半田付けし直した様子です.また下の画像は基板裏側の様子です.

図2.4 スイッチ切り替え部構成部品
 図2.4は可動端子部の構成部品の様子です.今回の事例ではこの部分は手直しする必要はありませんでしたが,すでに分解可能な状態にあった為内部を確認しておきました.

図2.5 組み立てられたスイッチ切り替え部
 図2.5は可動端子部を組み立てた様子です.長年使用されて摩耗している400Γの端子と比較して,新品であることからこの先長期間正確に動作することが期待できます.

図2.6 端子の取り付けられたスイッチ切り替え部
 図2.6はスイッチ切り替え部に配線を移動した端子を取り付けた様子です.

図2.7 配線長さの調整
 図2.7はO/Y側の位置を変更して距離が長くなった分,元側から配線を引き伸ばした様子です.

図2.8 配線加工の完了したスイッチ内部
 図2.8は流用の為の配線加工の完了した右ハンドルスイッチの様子です.青色の円で囲んだ部分が位置決めピンです.これにより正確な位相にハンドルスイッチを取り付けることができ,スロットル操作に左右されず位置を保持することが可能になります.

図2.9 コネクタから抜かれた端子
 図2.9は流用側のハンドルスイッチコネクタから4つ中3つの端子を抜いた様子です.灰色以外はすべて400Γの車体側に合わせて配置を変更しました.

図2.10 整然とまとめられた右側配線集合部
 図2.10は接続の完了したコネクタおよびギボシ端子をクランプした様子です.同時に劣化していたクランプやクッションも新品に交換しました ※2 .非常に整然と配線がまとめられていることが分かります.

図2.11 配線加工して移植された新品の右ハンドルスイッチ
 図2.11はスイッチ側およびカプラ側の配線加工の完了した右ハンドルスイッチを車体に取り付けた様子です.図1.1のほとんど色褪せした表示と比較すると,非常に美しいとしか言いようがありません.また機能も新品であることから長期間正確に動作することが期待できます.


【考察】 
 今回の事例では,まず表示が薄れている事に対する何らかの対策が最重要課題でした.次に位置決めピンの破損に対する対策が求められましたが,この2つの条件を同時にクリアする為には新品のハンドルスイッチを使用することが最善であると判断しました.しかしすでに純正部品は絶版である為,他車種からの流用を図りました.
 流用するにあたり部品がそのまま使用できることは稀で,今回の事例でも配線加工が必要になりました.それは大きく分けて,キルスイッチとカプラ側の2つに分類することができます.
 キルスイッチは流用側がプラス制御回路であるのに対し,400Γ側はマイナス制御回路であることから,その対策の配線加工を実施しました.またカプラ側は4か所中3箇所の入れ替えを実施して400Γのメインハーネス側に適合させました.
 ハンドルスイッチは乗るたびに必ず目にする部位ですから,可能な限り美しい状態でありたいものです.例えばいくらバイクの調子が良くても,この事例の様にハンドルスイッチが図1.1の様に完全に表示が色褪せた状態では,見るたびに気分が悪くなります.そして毎回自分を納得させる為の常套句はこうです,“古いバイクだから仕方ない”,と.確かにそれは間違っていません.しかし部品を流用することにより新品の質感で乗り続けることができる場合もあるということを認識しておくことが,特に発売から数十年経過した車両に乗る為には有効であることを忘れてはならないのです.


※1 位置決めピンの折れ込みによるハンドルスイッチの共回りについて
※2 
経年劣化により脆くなった右ハンドルスイッチの配線クランプについて





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