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事例:D-54

取り付け不良によるフタの浮き上がった密封式バッテリについて

【整備車両】 
  RG400EW (HK31A) RG400Γ(ガンマ) 1型  年式:1985年  参考走行距離:約15,200 km
【不具合の状態】 
 バッテリのフタが浮き上がっていて,周囲に白い粉が散乱していまいた.
【点検結果】 
 この車両は他店から購入されたものですが,燃料漏れが直らない
※1 ということで,メガスピードで整備を承ったものです.走行中にフロントブレーキが利きっぱなしになる ※2 等の不具合がありましたが,今回の事例では密封式バッテリについて記載します.

図1.1 フタの外れかけた密封式バッテリ
 図1.1はフタの外れかけているバッテリの様子です.最初にこれを見たときは己の目を疑いました.というのも,他店の整備者がバッテリを新品に交換したと言っていたからです.一体全体何が起こっていたのか.この業者はバッテリのフタすら最後まで締められないのか?と思ったのには理由があります.それはオーバーホールしたとされるフロントフォークの突き出し量が左右で全然違っていたり,走っていたはずのキャブレータのフロートバルブが錆を挟んで開きっぱなしになっていたり,燃料タンクのホースを途中で縛っていたり,様々な驚きを目の当たりにしていたからです.
 まず考えておかなければいけないことは,このバッテリのフタは,基本的に一度取り付けたら外してはいけないことです.もし外して入れ直せば一定の確率で液漏れを起こします.
 この様な状態に陥った原因を挙げると,

➀ 他店で新品にした際に,バッテリのフタを最後まで閉めなかった.
② 他店で新品にした際にフタをする作業に失敗して,一度やり直した結果,フタが緩くなり充電時に発生する内部圧力により持ち上がった.
③ 通販等で他店が購入した際に,すでにフタがこの様な状態になっていたものをそのまま取り付けた.
④ 通販等で他店が購入したバッテリそのものが不良で,正しく取り付けたにもかかわらずフタが持ち上がった.

というようなことが考えられます.この車両の各部の不具合および整備不良を考慮すれば,➀と②が濃厚であるとしても致し方ないところです.新品にしたとされるバッテリのマイナス端子取り付け部がねじの締め過ぎにより破損しているのを見れば,より一層➀と②が疑われます.
ひとまずバッテリのフタを当社で再度閉めて試運転後に判断することにしました.

図1.2 再度フタの持ち上がった密封式バッテリ
 図1.2は約90km程試運転して再び確認したバッテリの様子です.バッテリとほぼ面一までフタを閉めましたが,図の様に2mm程度浮き上がっていました.これは充電による内部圧力に耐えられず,フタが持ち上がったものであると推測されます.
 次に,推測された結果を検証する為に,電圧の点検を行いました.それは車体側の充電電圧が異常に高く,過充電してバッテリ内部のフタが持ち上がったのではないかという疑念を払拭する為です.実際にバッテリからハーネスを作製してエンジンをかけて,おおむね14.5Vの充電電圧で正常に充電していることを確認しました.これによりレギュレータの故障等による過充電によりバッテリのフタが持ち上がったのではないかという判断は消去することができました.更に確実なものにする為,バッテリを取り外して単体で密封式バッテリ対応充電器で充電したところ,バッテリのフタが持ち上がることを確認しました.
 以上の結果により,バッテリのフタが何らかの原因でダメになったことにより,充電時の内部圧力に耐えられず,フタが持ち上がったものであると判断しました.図1.1で白い粉が噴き出ているように,バッテリは希硫酸の液体が封入されている為,万が一フタが外れた場合は非常に危険です.

図1.3 マイナス端子接続部の曲がった密封式バッテリ
 図1.3は不具合のあるバッテリを取り外した様子です.赤色の楕円で囲んだ部分はマイナス端子取り付け部ですが,右回りにねじれていることが分かります.

図1.4 破損しているマイナス端子取り付け部
 図1.4はねじれたマイナス端子接続部の様子です.黄色の楕円で囲んだ部分は亀裂の発生している個所です.真上から見ると全体が右回りにねじれていることから,他店でバッテリを取り付けた際に,ねじを締め過ぎたことにより破損したと考えられます.この状態を見れば,フタの不具合もおそらく作業者が何らかの整備不良を起こした結果であると結びつけても異論はありません.
 もしバッテリのせいにするのであれば,新品でもフタに不具合があり,更に端子がねじれて亀裂が入っていた,と言えるかもしれませんが,いくらノーブランドの輸入品であったとしても,私はその2つが同時に発生している可能性は極めて低いと考えます.

図1.5 端子取り付け部に固着しているナット
 図1.5は端子取り付け部に固着しているナットの様子です.一番上に持ち上がったまま固まっていました.これはねじを締めるときに締め過ぎて端子固定部が変形した時に固着したものであると考えらえます.


【整備内容】
 充電するとフタが浮き上がる現象の再現性が高いことから,バッテリを再使用せず,正規の新品に交換しました.

図2.1 正規の新品バッテリ
 図2.1は正規のルートで取り寄せたGSユアサの新品のバッテリセットの様子です.例えばamazonでは正規の3分の1程度の値段で台湾製等の輸入品が販売されています.それは正規のバッテリを1つ買う値段で,例え当たり外れがあったとしても,3回輸入品が購入できることを意味しています.もっとも,正規のGSユアサと言えども生産は中国なので輸入品と言えますが,今回正規のルートでバッテリを取り寄せた一番大きな理由は,メガスピードでセットアップできるということです.
 amazon等の通販の場合,毒物及び劇物取締法の規定により法律上バッテリ液を単体で発送できない為,販売業者がバッテリ液を入れた状態でバッテリの発送を行う場合が多く,その場合フタの閉めつけ作業は業者任せになります.バッテリ業者でしょうから間違いがある可能性は低いと考えられますが,万が一のこともあります.そしてもしそれを利用した場合,結局今回の不具合の発生したバッテリの様に,作業が他人任せになっている為,責任の所在があいまいになりかねず,また不具合の発生原因の切り分けが難しくなります.それでは今あるバッテリと同じことの繰り返しになってしまいます.
 そしてもう一つのメリットはメーカーの保証が付くことです.万が一バッテリに不具合が生じても,走行距離と経年の条件に当てはまれば保証されます.それは非常に大きな付加価値であると私は考えます.
 以上のことから,今回は正規のバッテリを使用しました.

図2.2 電解液の注入
 図2.2は電解液を注入している様子です.この作業はやり直しが利かない為,一度で確実に作業を行う必要があります.

図2.3 密封式バッテリのフタの取り付け
 図2.3は十分に液体が浸透してからバッテリのフタを取り付けている様子です.やり直しが利かない上,この作業の良し悪しで液漏れの有無等バッテリの運命が決まる為,特に慎重に実施しなければなりません.メーカーの指示書では注入後20分以上1時間以内に取り付けること,と記載されています.しかしその幅に40分の開きがある為,直接メーカーの担当に問合せ,最適な処置時間を聞き,それに沿った形で進めています.
 私はその40分の開きの中で最適な時間が選択できるだけでも,十分にメガスピードでセットアップする価値があると考えます.要はフタをするのが早過ぎれば電解液が浸透し切れず,遅過ぎれば大気に接触している時間が長くなる為内部に悪影響を及ぼすということです.数年使用すると見込まれるバッテリだからこそ,細部にこだわった整備を施したいものです.

図2.4 セットアップの完了した密封式バッテリ
 図2.4はセットアップの完了した密封式バッテリの様子です.フタはほぼバッテリ本体と面一になっています.

図2.5 車体に取り付けられた新品の密封式バッテリ
 図2.5はバッテリを車体に搭載した様子です.端子も磨き電気的接触を良好にしました.実際にこの状態でバッテリがどのようになるか試運転を実施しました.

図2.6 試運転後の密封式バッテリ
 図2.6は一般国道を40km、高速を20km程試運転し,整備工場に戻って確認したバッテリの様子です.フタは全く動いておらず,上部とほぼ面一を保ったまま正常であることを確認して整備を完了しました.


【考察】 
 最初にバッテリのフタが浮き上がっているのを見たときは驚きました.しかし現象として起きていることに正面から向き合わなければ何も解決しません.今回の事例では他店で新品にしたということですが,バッテリに問題があるというよりも,セットアップの仕方に問題があったのではないかと考えられます.それを強く裏付けるように,バッテリマイナス端子接続部にねじの締め過ぎによるものと推測される破損が見られました.
 バッテリは価格の安価なものから正規のものまで様々な商品があり,通販の普及した今では消費者に与えられた選択肢は多岐にわたります.どれも一長一短です.並行輸入の安価なバッテリでも,その時良ければ良いというのであれば十分に事足りるかもしれません.もし外れを買ってしまっても,価格が安いのですぐに買い換えられる手軽さもあります.しかし今回の事例の要はそこではありません.
 一番の問題は誰がセットアップしたかです.例え通販でなくても,ホームセンターのバッテリはすでに電解液が注入済みの状態で販売されています.したがってその様なものは実際に誰がセットアップしたのかは分かりません.
 今回の事例では明らかに異常事態だったので,私がセットアップできるよう,お客様から正規のバッテリの使用を提案していただけました.整備する側の立場からすると,自分で責任をもって作業できる為,非常にありがたいことです.実際にぬかりなくセットアップし,車体に取り付け,試運転の結果,バッテリに関しては解決することができました.
 『バッテリに電解液を注入してフタをする』 文字にするとこれだけですが,実際には失敗が許されない作業が2回ある為,他の整備作業以上に神経を使って尚一層慎重に行動しなければなりません.ましてや内部の液体は希硫酸ですから,実際には非常に危険なものであるという認識を持つことが重要であると言えます.


※1 フィルターの破れによりフロートバルブに挟まった錆によるキャブレータからの燃料漏れについて
※2 マスターシリンダリターンポートの詰まりによる利きっぱなしになったフロントブレーキについて





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