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【戦闘機のプラモデル】


 5歳の頃、父に戦闘機のプラモデルを買ってもらったことがありました。その頃は仕事で日曜しか一緒に過ごせなかったため、おみやげに買ってきてくれたものでした。

 小さな私はさっそく父に組み立てをせがみました。早く遊びたかったのです。しかし父は丁寧に作業する為、全く進みませんでした。次の休みに少し形になってきたのが最後の記憶です。それから幾日も経ち、やがてプラモデルの存在は忘れ去られていきました。その後行方不明になったことを考えると、戦闘機は母に未完成のまま『分別』されてしまったのだと思います。

 子どもにとってはプラモデルのバリとか、合わせ目だとか、あるいはデカールの位置だとか、そんなことはどうでも良いのです。雑でも何でもいいからとにかく早く作ってほしかった。そしてそれで遊びたかったのです。しかし父はそれを許しませんでした。

 大人になった今、修理や整備でふと戦闘機のプラモデルを思い出す時があります。オイル漏れにしても、キャブレータの不具合にしても、確かな整備技術者が丁寧に仕事をすれば、それなりに時間がかかるのです。時間がかかるということは人件費すなわち工賃も比例して増加するということです。もちろん雑でも良いから早く直してほしいという方もいらっしゃるでしょう。あるいは、最低限で良いからとにかく安くやってくれという方もいらっしゃるでしょう。しかし安請け合いの突貫工事は必ずボロがでます。交換すべき部品を再使用したり、本来あるべき工程を省けばまともな仕事ができるわけがありません。

 それがどれくらい無理なことかというと、『味はそこそこで良いから300円でフランス料理を作ってくれ』と言われているのと同じくらい無理なことです。もしそれを実施するのであれば、表の駐車場の雑草を引っこ抜いてきてオードブルを作るしかありません。幸いメガスピードのお客様は皆よき理解者であり、礼儀正しい方ばかりなので安心して『フルコース』をお出しすることができます。

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 あの時のプラモデルは完成しなかったけれど、父には父のやり方があったのだと、今なら分かる気がするのです。





(引用図)
   ・『MIKOYAN MIG29 FULCRUM』 G-18 1:72 UNASSEMBLED MODEL KIT, フジミ模型株式会社






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