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『ネプロスの10mm』


 もう随分昔の、そう、分解したり組み立てたりするのが楽しくなってきた頃のことです。その頃はホームセンターで売っているホビーセットという様な、安価で簡易な工具を使っていました。

 その日もいつものようにリビングのテーブルに新聞を敷いて、当時乗っていたCBRのキャブレータを分解していました。2階までカチャカチャ音が聞こえていたのかもしれません。しばらくすると部屋で休んでいた父が降りてきました。
 「これ使ってみな。」
 父はおもむろに10mmのメガネをズボンのポケットから取り出しました。私は言われるままにその工具を手に取ると、ハッとしました。握った瞬間に今までの工具とは質が違うことに気づいたのです。
 「工具には色々な種類があるんだよ。良い物は良くできてる。それあげるから。他のサイズも一式ある。日本中どこに行ってもそれなら恥ずかしくない、立派な工具だ。」

 ネプロスを握ったのはそれが初めてでした。今まで取るのに苦労したすき間の狭い部位にあるナットを、まるで自分の腕が上がったかの様に、簡単に取り外すことができるようになりました。ネプロスは肉が薄くできていたのです。当時の私にはそれがとんでもないお宝に思えました。

 それ以来、様々な工具を使いながら、その良し悪しで自分に合った工具をそろえてきました。何年も経過していく過程でスナップオンが工具箱のスペースに幅を利かせる中、今なおコンビネーションレンチにネプロスを好んで使っているのは、こんなわけなんです。






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