5歳の頃、何度か父と自転車に乗る練習をしたことがあります。その頃住んでいた家の前には、近くの神社まで続く細い小道がありました。車もほとんど通らない場所だったので、よくそこで練習していました。
その日も補助輪を外した自転車にまたがりながら、周りの人から聞いたことを思い出して父に話してみました。
「ねえ、曲がる時って自転車を斜めにするんでしょ?」
良く知ってるね、と褒められるはずでした。でも実際は、
「まだ真っ直ぐも乗れないのに曲がることなんか考えるんじゃないよ。とにかく漕いでみろ。」
でした。がっかりしながらも1時間くらい練習しましたが、結局その日は補助輪なしで乗ることができませんでした。ペダルを漕ごうとするとバランスを崩してすぐに転びそうになるので、怖くて足を地面から離せなくなっていました。
それからしばらくは一人で乗る練習をしていました。しかしいくら慎重に練習しても、なかなか乗れるようにはなりませんでした。このままでは進まないと思っていたある日、もう転んでもいいからとにかくやってみようと、思い切ってペダルを漕いでみました。するとどうでしょう。最初はフラフラしていても、漕げば漕ぐほど安定してぐんぐん自転車が進むではありませんか。どうして倒れないのかなんて小さい子供の頭では分からなくても、体でそれを感じていました。そしてその日以来、補助輪なしで自転車に乗ることができるようになりました。失敗しても良いからとにかく思い切ってやってみる。四の五の考える前にまずはやってみる。自転車はその大切さを教えてくれた気がします。
大人になって理屈でがんじがらめになってしまった今、頭で考えてもうまくいかずに壁にぶつかったとき、自転車の練習を思い出します。そしてとにかく手を動かして実際にやってみるのです。すると、おかしなくらい簡単に物事が進むことが、本当にあるのです。とにかくやってみろ、と。
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