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【ある夕暮れの営業】



 その日の夕暮れにRG400Γのキャブレータを分解していると、ガラスサッシをコンコンッと小さくノックする音がしました。見ると背広を着た中年の男性が黒いバッグを片手に立っていました。営業マンでした。電光看板の広告で月々数万円のプランがあるというのです。
 私は静かに、今は必要ないとお伝えしました。しかし営業マンもすぐには帰ろうとしませんでした。きっと1件でも多く契約をとらなければならないのでしょう。とても疲れた顔をしていました。しばらく営業マンは説明を続けていましたが、その都度私はお断りしました。

「一番安い、特別格安プランで月々10,000円からのものがありますが、どうでしょうか。」
 相手はとうとう10,000円まで下げてきました。私はしばらくうつむいていました。どうやったら嫌な思いをさせずに帰っていただけるかだけを考えていました。

「10,000円でもダメなんですか?」
 しびれを切らした営業マンは小馬鹿にした様に続けました。それがいよいよ私をイライラさせました。
「必要ないことにかけるお金はありません。もし月に10,000円使うのなら、その分で毎月子どもらとレストランに行きたい。」
 ゆっくりそう言うと、あんなにしつこかった営業マンの力が緩み、崩れる様に帰っていきました。その時の顔は少し悲しそうでした。
『あの人にも子どもがいたのかもしれない。少し言い過ぎたかな・・・』

 その日は何だか胸につかえ物がある様な感じがして、中々眠ることができませんでした。






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