【青いランドセル】 |
「お父さんの好きな色が良い。」 そう言って、年長の幼稚園児は店の陳列棚から青いランドセルを取り出して背負ってみようとしました。 時は令和。男の子用でも、すでに黒ではないランドセルも決して珍しくなくなっていました。 「本当にこれで良いのかい?」 「うん。お父さんが好きなやつが良いの。」 私は少し戸惑いました。6年間使うものですから、やっぱり自分が欲しいと思った色にしてほしかったのです。 「君が好きなやつを選んで良いんだよ?」 「ううん、お父さんが好きな色と一緒のやつが良いの。お父さんが好きな青と。」 彼は毎日リビングのガラス越しに、私が青い作業着で仕事をしている姿を見ています。冷蔵庫も車もコンピュータも電気で動いていることを教えると、電気を気にするようになりました。 あるとき、電池は電気を溜めておくことができるんだよと教えました。すると目を丸くして、えらく電池を気に入ったようでした。 それから何日かして、デジタル表示の体重計が動かなくなっていました。原因を調べてみると、電池が丸ごと無くなっていました。どうやら使えるようになってきたドライバーで家中の電池を抜き取っているようです。部屋の隅にあったクリアケースの中には色々な大きさの電池が収集されていました。少し困ったことですが、もうしばらく目をつぶっておきましょう。青いランドセルを背負って春から小学生になる、未来のエンジニアのために。 |
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