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事例:E-142

スパークプラグの締め付け不良とエンジン型式MC14Eのプラグホールについて


【整備車両】

 CBR250RRL (MC22)  推定年式:1990年  参考走行距離:約36,900km


【不具合の状態】

 スパークプラグが締め付け不良を起こしていました.


【点検結果】

 この車両はお客様が走行中にエンジンが吹け上がらなくなったということでメガスピードにて点検整備を承ったものです.

まずエンジン本体が焼き付き等で損傷していないかを把握する為,圧縮圧力の測定から実施することにしました.



図1.1 潰れていないプラグガスケット

 図1.1は取り外したスパークプラグの様子です.

画像左が1番シリンダであり,右に4番まで順に並べてあります.

4番プラグのねじ溝やガスケットの下側にエンジンオイルと見られる液体が付着していました.

またすべてのプラグのガスケットが全く圧縮されておらず,締め付け不良を発生させていました.


 確かに締め過ぎはプラグホールのねじ溝の破損につながる恐れがありますが,

締め付け不良も同様に振動による微動の連続負荷により,ねじ溝にダメージを与える為,

正しく取り付けられなければなりません.



図1.2 4番プラグホールのミラーによる目視点検

 図1.2はミラーを使用して4番シリンダプラグホールを目視確認している様子です.

MC22の場合,外側から直接内部を確認することが非常に困難である為,ミラー等を使用して点検する必要があります.

外部から見えない部位に関してお客様が確認できないのは当然のことであり,

それに代わって我々高度な知識や技術をもった整備技術者が存在するのです.

しかしプロフェッショナルであっても,この様にひと工夫あるいはひと手間かけた確認をせず,

“あ~大丈夫だいじょうぶ” などと全く根拠のない言葉で済ませてしまう業者が実際にいることは誠に残念でなりません.

適切なトルクレンチを持っていないといったハード面の不備であれば問題外ですが,

手間のかかることを“やれるか”,“やれないか”,はもはや人間性の問題であり,

まさに職業的な適性が問われる部位の整備事項といえるでしょう.



図1.3 エンジン圧縮圧力の測定

 図1.3は今回の整備の主眼であったエンジン内部の圧縮圧力を測定した様子です.

1番から4番までほぼすべて1,200kPa程度あり,非常に良好であることが確認できました.

メガスピードではCBR250Fから最終型のCBR250RRまでCBR250シリーズの整備を頻繁に行いますが,

修理で入庫される車両のエンジンの多くは900kPa~1,000kPa程度に圧縮が落ち込んでいる例が少なくない為,

この車両についていえば,少なくとも燃焼機関に関してはこれからもまだまだ楽しむことができると判断できます.



【整備内容】

 エンジンの圧縮が問題なくあることから,取り外したスパークプラグを正常に戻すことから整備を開始しました.



図2.1 車体左側から見たシリンダヘッド廻り

 図2.1は車体左側から見たシリンダヘッドカバー付近の様子です.

この状態ですでにラジエータをずらしている為,

MC22の場合この様に非常に狭いすき間からプラグを脱着する必要があることから,

適切なエキステンションやジョイント等を駆使して最終的にトルクレンチを使用することになり,

トルクレンチを使用したプラグの取り付け難易度として2輪では最上位クラスに入ります.

一般工具で適当に締めることは素人でも誰でもできますが,整備技術者は正しいトルクで締め付ける必要があります.



図2.2 規定トルクで締め付けられたプラグガスケット部

 図2.2はトルクレンチにより規定トルクで締め付けられたスパークプラグを取り外した様子です.

ガスケット部が潰れることにより密封性能を引き出していることが分かります.

やはりプラグのガタつきや圧縮漏れ等を防ぐ為にも必ず正しいトルクで締め付ける必要があります.

もし規定トルクで締め付けていて,中々締まらずにねじ切れてしまえば,

そのヘッドのねじ溝はすでに性能を発揮できない状態であり,それが露呈しただけに過ぎません.

その様なエンジンはもはやゴミと同等であり,オーバーホールして再生させるか,あきらめるかのどちらかになるといえます.

懸念すべきはCBR250シリーズでは,

どのエンジンも一番手が届かない3番シリンダヘッドのねじ溝が崩れているケースが少なくないということです.

特に中古で購入されたお客様からシリンダヘッドのオーバーホールのご依頼が当社に多々ある様に,

正しくプラグを取り付けなければ,アルミニウム合金のヘッドねじ溝なぞ容易に破損してしまうのです.



図2.3 整備の完了したエンジン右側

 図2.3は整備の完了したエンジン外観右側の様子です.

図の様にカウルを装着した状態では4番プラグすら交換は難しく,整備性の著しく低い車両であることは否めません.

しかし250ccの排気量で並列4気筒しかも19,000rpmまで回転するエンジンが,

市販車レベルで作られたことは称賛すべきであり,それを享受するのであれば多少の整備性の悪さは相殺されるといえ,

同排気量では2気筒や単気筒の馬力が低下したモデルしか新車ラインナップにない21世紀になった今,

それを差し引いてもお釣りがくる位貴重なモデルであるということに異論はありません.



考察】

 エンジン型式MC14Eを搭載したモデルはいくつか存在しますが,その中でもCBR250シリーズのプラグ交換は大変であり,

特にCBR250RR (MC22) に関しては燃料タンクを取り外してもプラグの上に樹脂製の部品が大きく被さっている為,

非常に整備性に問題があるといえます.

2輪は4輪に比べれば概して手が入りやすい構造が多いといえますが,

MC22に関してはすき間が狭い為,特に一番奥の3番シリンダプラグの交換において,

トルクレンチを使用するのが極めて難しいといえます.

したがって,素人整備されてしまった車両のヘッドはプラグホールが破損している,

あるいは破損しかけている状態のものが少なくありません.

ただでさえ締め付けるのが大変ですが,やはり整備技術者であれば,

きちんとトルクレンチを使用して規定トルクにてプラグを締め付ける必要があり,

それができなければ例え業者であっても素人とやっていることは何ら変わりません.


 なぜこの様に繰り返して言わなければならないのか.

それはひとえに,現存する貴重なエンジンの保存性に対する姿勢ではなく,否,

むしろ普遍的な意味においてエンジンを壊さない様な高度な整備技術の必要性や,

業界の整備技術水準に対する底上げを目的とした,

“声にならない声”の響きをひとりでも多くの方に受け取っていただきたいという思いがあることを,私は否定しません.


 再び具体的にこの事例に話を戻すならば,

今後250ccの排気量で並列4気筒モデルが発売されることは,現在の石油事情や経済事情,そして社会情勢を鑑みれば,

可能性はほとんどないと判断して差し支えないといっても語弊はないはずです.

この様なことからも,現存するエンジンMC14Eは大切に扱われるべきであり,

その為にも優れた整備技術者により確実にプラグ交換されることが,

CBR250RRという超高回転を代表する貴重な車両を維持する上で,

確実にクリアしなければならない整備事項の1つであるといえます.





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