トップページ故障や不具合の修理事例【二輪自動車】 エンジン関係の故障、不具合、修理、整備の事例 (事例:281~290)


事例:E-282

亀裂の入ったインシュレータからのガソリンの噴出について

【整備車両】 
 FZS1000 (RN061) FAZER(フェーザー)年式:2003年  参考走行距離:約26,000 km
【不具合の状態】 
 インシュレータの亀裂からガソリンが噴出してくる状態でした。
【点検結果】 
 この車両はお客様より走行中にインシュレータの亀裂からガソリンが噴出してくるということで、メガスピードにて修理を承ったものです。1番シリンダは特にひどかったと言うことでコーキングにより暫定的な補修がされていましたが、それでも噴き出すということでした。

図1.1 亀裂の補修された1番シリンダインシュレータ
 図1.1 は1番シリンダヘッドに接続されているインシュレータの様子です。コーキングで亀裂が補修されていましたが、これでもまだガソリンが噴出してくるということでした。

図1.2 亀裂の発生している2番インシュレータ
 図1.2 は亀裂の発生している2番シリンダのインシュレータの様子です。1番よりも程度は浅いものの、かなりのひび割れが見られます。

図1.3 亀裂の発生している4番シリンダのインシュレータ
 図1.3 は亀裂の発生している4番シリンダヘッドに接続されているインシュレータの様子です。やはり他の部位と同様に亀裂が発生していました。


【整備内容】
 コーキング程度ではガソリンの吹き出しを抑えられないことから、破損しているインシュレータを4気筒分すべて新品に交換することにしました。

図2.1 インシュレータの外されたインレットマニホールド
 図2.1 はインシュレータを取り外したインレットマニホールドの様子です。ライトで照らし見える範囲でバルブの状態を確認しました。

図2.2 新品のインシュレータとエアクリーナパイプ
 図2.2 は新品のインシュレータ(下)とエアクリーナ、キャブレター間のゴムの様子です。FZS1000のキャブレターの配置は非常に狭い部位にあり、脱着するのもかなりの困難な作業であると言えます。特に古くなったエアクリーナパイプは変形していることが少なくない為、これを新品にしておかないと、歪んでいる為にキャブレターを元に戻せない事態に陥る可能性があります。したがって、インシュレータとセットで交換しておくべき部品であり、新品が出る場合は迷うことなく取り寄せたい部品です。

図2.3 エンジンに取り付けられた新品のインシュレータ
 図2.3 は新品のインシュレータをエンジンに取り付けた様子です。新品は弾力があり混合気の密封性能も長期間期待できます。またエアクリーナパイプの方も新品なので十分に柔らかく、適切なキャブレター保持が期待できます。

図2.4 新品のインシュレータに取り付けられたキャブレター
 図2.4 は新品のインシュレータにキャブレターを取り付けた様子です。これにより混合気が外部に漏れることなく正常な燃焼を取り戻すことができました。また図からも分かる様に取り付けがしっかりしたことから、納車後にお客様より「キャブレターの振動が減った」との感想をいただきました。つまり、逆に言えば古いインシュレータはしっかりとキャブレターを保持することができず振動させてしまい、その結果さらにインシュレータに亀裂が入るという悪循環に陥っていたと考えられます。

図2.5 整備の完了したFZS1000
 図2.5 は整備の完了したFZS1000の様子です。最終的に試運転を実施し、問題ないことを確認して納車となりました。


【考察】
 バイクの消耗品のひとつにインシュレータが挙げられます。材質がゴムですから必ず経年劣化し、亀裂の発生などの不具合が発生します。

 インシュレータの役割は大きく2点あり、ひとつはキャブレターからの混合気を外部に漏らさず確実にエンジンに送ること、そしてもうひとつはキャブレターの保持です。どちらも共に重要な役目を果たしていて、インシュレータが劣化すればその両方の性能が低下します。したがって、10年以上経過した車両であれば、部品が絶版になる前に交換しておくことを強く推奨します。なぜなら劣化して交換したい頃にはすでに絶版になっていて、どうにもし難い状況に陥る可能性が非常に高いからです。

 今回の事例から言えることは、インシュレータに亀裂が発生し、外部と内部がつながった場合、二次エアの吸い込みによるアイドリングの上昇ではなく、混合気が外部に噴き出すことがあるということです。概してアイドリングの上昇のみ取り上げられるトピックスではありますが、実際には吹き返しも発生しているため、アイドリングの上昇ではなく、混合気すなわちガソリンの噴出が発生するということです。ガソリンが噴出すればそこに引火して車両火災に至る可能性が出てきます。それとは別にアイドリングが上がってしまう症状もあり得ますが、キャブレターよりエンジン側の不具合なので、エアの吸い込む割合が多くなれば空燃比が崩れてエンジン停止にいたる可能性も考えられます。

 いづれにしろ、インシュレータは外部とインテークマニホールドを隔てて内部を密封しなければならない部品であることから、少しでも亀裂が発生しているのを発見した場合は早急に対処しておきたい部位です。





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