事例:E‐42
ガスケットの再使用によるドレンボルトからのミッションオイル漏れについて |
【整備車両】
RG250EW (GJ21A) RG250Γ(ガンマ) Ⅰ型 推定年式:1983年 参考走行距離:18,600km |
【不具合の状態】
ミッションオイルのドレンボルトからオイルが漏れ出し、エンジン下廻りが全体的に汚れていました。 |
【点検結果】
一週間前にミッションオイルが他店で交換されたものの、別の箇所の不具合でメガスピードに入庫されました。
下廻りを点検すると、ドレンボルトにオイルがしずくになっていて、その周辺が油とほこりの混ぜ物で汚れていました。
オイル漏れは修理しなければ自然治癒しないので、まずはオイル漏れの修理から始めました。
図1、オイル漏れの発生しているミッションオイルドレンボルト周辺 |
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図1はエンジン下廻りの様子です。
全体的に油に付着したほこり等が堆積していて、
その発生源は黄色の四角Aで囲んだドレンボルトからのオイル漏れであると判断できます。
図2は取り外したオイル漏れを起こしていたドレンボルトの様子です。
黄色の四角Aで囲んだ部分はナット部がなめていて、その方向から緩める時に破損させたものであるといえます。
また黄色の四角Bで囲んだ部分は液体ガスケットの使用済み廃棄物の様なものが付着していました。
図3は新品のドレンボルト及びガスケットと、取り外した古いボルト及びガスケットを比較した様子です。
図3、新品のドレンボルト(左)と取り外した古いドレンボルト |
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新品のガスケットの厚みが約2,20mmで古い取り外した潰れたガスケットの厚みが約1,20mmなので、
古いガスケットは新品の約55%まで圧縮されています。
ガスケットの色から判断すると、古いボルトと共に何年も前に取り付けられたものであると推測できます。
その場合、一週間前に別の他店で作業が行われた際に
このボルトとガスケットは再使用されたと判断できます。
もしガスケットが交換されていれば、一週間という短い期間なので、
潰れているとはいえ、ほぼ新品の色と同等であるはずです。
また液体ガスケットの様なものが使用された形跡があるのは、
おそらくガスケットを再使用する際に漏れ止めとして塗布されたものではないかと推測できます。
締め付け時に潰れたガスケットはねじ溝にかしめられる為、基本的に破壊しないと取り外しができません。
取り外したとしても、潰れたガスケットは再使用不可能です。
そこまでしてガスケットを取り外してボルトを再使用する必要はなく、
その時間と手間を考えればボルトを新品に交換した方がはるかに経済的であるといえます。
そしてガスケットとドレンボルトフランジ部間からのオイル漏れに対しても、
ボルトを再使用するよりはるかに新品に交換した方が信頼性が高まるといえます。
つまり、ボルトが新品でない場合は、ガスケットも新品でない可能性が非常に高いと判断できます。
図4はドレンボルトとクランクケースの合わせ面の様子です。
内側の色の変化している部分にガスケットが当たりますが、全体的に面が荒れているのが分かります。 |
【整備内容】
オイル漏れの修理にあたり、まず当たり面の均一化を図る為、洗浄研磨作業を行い、
その周辺の油汚れも洗浄しました。
図5はドレンボルトのガスケット座面を平滑に研磨した様子です。
これにより、ガスケットとドレンボルト取り付け座面間のオイル漏れを極力回避することを可能にしました。
図6、エンジンに取り付けられた新品のドレンボルト及びガスケット |
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図6は規定トルクで締め付けられた新品のボルト及びガスケットの様子です。
ガスケットが均一に圧縮されていることが分かります。
ミッションオイルを規定量注入し漏れがないことを確認して整備を完了しました。 |
【考察】
草刈り機等の小さいエンジン等では本体を丸ごと逆さまにしてオイルを注入口から排出させるケースもありますが、
特に上から抜き取る設計以外のものであれば、
オイルを使用しているものはその排出溝(ドレーン)が設けられているのが通常です。
エンジンオイルやミッションオイルは定期的に交換される必要があり、頻繁にドレーン機構からオイルが排出されます。
オイル交換は一見最も基礎的で単純な整備入門の様に受け止められがちですが、
例えばボルトの脱着のみでも以下の様な手順が確実に行われなければなりません。
①ねじ溝を損傷させないと同時にボルトが折れ込まないようにドレンボルトを取り外す
②オイルパンのガスケットとの接触座面の状態を点検し、必要に応じて修正研磨を行う
③ボルトとガスケットの当たり面を点検し、必要に応じて修正研磨、交換を行う
④新品のガスケットを使用し規定トルクで確実にオイルパンにドレンボルトを締め付ける
以上の工程で一つでも判断を誤ったり、手を抜いたり不備があればオイルはわずかなすき間から漏れ出します。
この事例は他店でガスケットの再使用、ボルトの再使用、荒れた座面のままの締め付け、
といったオイル漏れの発生する条件を何重にも重ねて行われた結果、
起こるべくしてオイル漏れが発生していたと断定できます。
この様な状態なので、ボルトが規定トルクで締め付けられていたのかすら疑問が生じます。
締め過ぎによるねじ溝の破損や締め足りずにオイル漏れを発生させるといった不具合を回避する為にも、
ドレンボルトはトルクレンチを使用し正確なトルクで締め付けることが必要です。
万が一締め過ぎてねじ山を崩したり、ボルトが折れ込んだりすれば、
オイルパンの修理といった余計な心配をしなければなりません。
オイル交換という整備は容易に誰でもできる様ですが、そうではありません。
確かに結果を無視して単純にボルトを緩めて取り外し、
何も見ずに勘で締めるといった作業のみを指すのであれば非常に簡単です。
しかし何も考えない人間が適当に作業するとこの事例の様に不具合を発生させます。
それはプロであれユーザーであれ、同じことです。
オイルをシールするということはどういうことなのか、
接触面、すなわちオイルパンとガスケット、ガスケットとドレンボルト、の2か所の接触面がどのようになれば良いのか、
そしてその為にはどのくらいの力でボルトが締め付けられ、どのくらいの幅でガスケットが圧縮されれば良いのか等、
すべてを考えなければなりません。
“オイル交換くらいは自分でやる”、という言葉をよく耳にしますが、
“オイル交換【くらい】”といったとらえ方そのものにすでに誤りがあるのではないかと思います。
特に“軽整備”と“重整備”といった用語で整備内容が分類されること自体に違和感を覚えますし、
そもそも違ったベクトルで誤ってとらえられているのではないかと感じます。
作業手順や工程数の差はあれど、機械の整備に対する考えは、
エンジン分解整備もオイル交換も同等であるといっても過言ではありません。
オイル交換の作業一つを誤ってもオイル漏れ等の不具合を発生させます。
エンジンの分解整備はその積み重ね、種別の積み重ねの総合であるととらえることができます。
つまり、何をやるにもひとつひとつが重要であり、それぞれが意味を持っているということです。
安心して乗りたい、それはお客様から常日頃お聞きする言葉であり、それに尽きると思います。
メガスピードはその様なご要望にお応えさせていただけるよう、
常に技術の向上を目指し日々精進してまいります。 |
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