ガスケットの再使用によるクラッチカバーからのミッションオイル漏れについて |
【整備車両】
RG250EW (GJ21A) RG250Γ(ガンマ) Ⅰ型 推定年式:1983年 参考走行距離:18,600km |
【不具合の状態】
エンジンのクラッチカバー下廻りにオイルが漏れていました. |
【点検結果】
この車両はメガスピードに持ち込まれる1週間程度前に他店にてクラッチカバーの脱着が行われたものですが,
シーリングが不十分でつなぎめからオイル漏れが発生していました.
図1はクラッチカバー下部の様子です.
全体的に漏れたオイルにほこりやゴミが混ざり汚れているのが分かります.
他店で修理された時に汚れを拭き取らなかったのか,その後にお客様が乗られた時に付着したものかは分かりませんが,
クラッチカバーとエンジンの繋ぎ目から漏れが発生していることは間違いありませんでした.
図2はクラッチカバーを取り外した様子です.
黄色い四角Aで囲んだ部分に白い物質が付着していました.
図3 亀裂の入ったガスケットと修正剤と推測される白い物質 |
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図3は図2の黄色い四角Aで囲んだ部分を拡大した様子です.
ガスケットの赤い四角Bで囲んだ部分に亀裂が入っていました.
1週間前に他店でクラッチカバーの脱着が行われていた為,クラッチカバーにエンジンとの貼り付きや固着等は見られず,
取り外しはスムーズにほとんど外力を必要としないで行えたことから,
今回取り外した時に生じた亀裂ではないと判断できます.
結果的に他店で脱着が行われた時にはすでに亀裂があったことになりますが,
その場合,亀裂が入っているガスケットをそのまま使用したことになります.
すなわちガスケットを再使用したという経緯が結論付けられ,
なるほど白い物質は亀裂を補う為の液体ガスケットであると仮定すればつじつまが合います.
図4は取り付けられていたガスケットの様子ですが,圧着部に筋が刻まれていることや,
材質,接触面と非接触面の色の差異等から,長年使用されていたガスケットであることを疑う余地はありません.
これらのことから総じて他店でガスケットが再使用されたと断定できます.
図5はガスケットを剥がした様子です.
金属部と一体化した部分のガスケットがなかなか剥がれず,剥がしたとしてもちぎれながら何とか除去できる状態であり,
この状態こそまさに長年使用されたガスケットの形態であるといえます.
少なくとも1週間前に新品に交換されたガスケットであれば,何の力も加えずにノックピンを取り外せば重力で落下します.
以上より,クラッチカバー下部からのオイルにじみは,
ガスケットの再使用により生じたすき間から発生したものであると結論づけられます. |
【整備内容】
オイル漏れに対応する為エンジンとクラッチカバーの合わせ面を研磨することから整備を行いました.
図6 合わせ面を研磨したエンジン側のクラッチカバー合わせ面 |
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図6は合わせ面を修正研磨したエンジン側のクラッチカバーとの接触面の様子です.
車両の発売からかなりの歳月を経ていますが,金属の状態は良好でした.
図7は新品のクラッチカバーガスケットの様子です.
新品に当たり面が発生していないのは当然ですが,色も全体が均一であり,使用により変化していくことから,
今回の事例のように経年や使用状況を読み取る為の判断材料になる場合があります.
図8はボロボロに剥がれていたウォータポンプカバーを塗装し,
クラッチカバーを全体的に洗浄したクリーンな状態でエンジンに組み付けた様子です.
やはりオイル漏れを修理するのであれば,エンジン外観はボロボロのみすぼらしい状態よりは,
塗装により美しく装いも新たに,見た目も楽しめるようにしておくことが,
車両を所有する喜びの増大につながるといえます.
図9はオイル漏れの解消したエンジンクラッチカバー下廻りの様子です.
40km程試運転を行い,オイル漏れが発生していないことを確認し整備を完了しました. |
【考察】
ガスケットの中でも特に紙をベースとした部品で構成されているものは,長期間使用されたエンジンであれば,
接触面に貼りついて固着した状態になっており,分解時にちぎれてしまうことが少なくありません.
破損させてしまったガスケットを再使用するのは論外ですが,
破損していなくても使用による潰れや熱による変質等でガスケットのシール性能は必ず低下しています.
一度取り外したものであれば,組み立てる時には新品を使用する必要があるといえます.
今回の事例ではクラッチカバーのオイル漏れを修理するのと同時にクラッチ廻りやウォータポンプ廻りも分解整備しました.
発売から数十年経過している車両は必ずウォータポンプインペラの軸やメカニカルシール,
そのオイルシール等が摩耗・損傷・劣化しています.
2サイクルエンジンのクラッチカバーにはウォータポンプ等が取り付けられている設計のものが少なくありません.
やはりクラッチカバーを取り外す必要のある修理を行う際は,
一歩踏み込んでウォータポンプ廻りやクラッチ内部も整備しておくことが望ましいといえます. |
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