トップページ故障や不具合の修理事例【二輪自動車】 エンジン関係の故障、不具合、修理、整備の事例 (事例41~50)



ドレンボルトの固着による燃料の抜き取り不能について


【整備車両】

RG250EW (GJ21A) RG250Γ(ガンマ) Ⅰ型  推定年式:1983年  参考走行距離:18,600km


【不具合の症状】

キャブレータフロートチャンバのドレンボルトが固着しているうえ,ねじの頭がなめていて燃料を抜く作業が不可能でした。


【点検結果】

この車両はお客様が個人売買で購入されてからメガスピードにて整備を承ったものです。

エンジンの回転上昇が5,000rpm程度から上がりにくいといった症状等により,

キャブレータオーバーホール【overhaul】(分解整備・精密検査)を行うことになりました。

その際にフロートチャンバのドレンボルトが固着していてねじが取り外せない状態に陥っていることを確認しました。



図1はフロートチャンバ内部に固着したドレンボルトの様子です。

図1 固着したうえにねじ頭のなめているドレンボルト

ねじの頭がなめていて,単純には取り外しができない状態になっていました。

これはかなり以前から固着して,お客様が個人売買で入手される前に,ドレンボルトの取り外しを試みたものの,

ねじの頭をなめてしまい,そこで断念したものであると考えられます。

プラス側は完全になめているものの,マイナス側はひっかかりしろが多少残っていました。

しかしそれでもとても残り溝を利用してドライバーで取り外せるような固着ではないことが確認できたので,

今回はエキストラクタで抜き取ることにしました。



図2 エキストラクタで引き抜かれたドレンボルト

図2はねじ頭のセンターにドリルで穴をあけ,

エキストラクタでフロートチャンバ内部で固着していたドレンボルトを抜き取った様子です。

かなり強固に張り付いていた為,少なくとも過去に取り付けられた時に作業者が締め過ぎた可能性があります。



図3 ねじ溝の潰れたドレンボルト

図3は取り外したドレンボルトの様子です。

フロートチャンバにねじ込まれるねじ溝は全体の7割が損傷を受けていて,

その中でも特に中間部が著しく潰れていました。

損傷したドレンボルトを無理やりドレンプラグに入れた為にねじ山がかじって固着したのか,

ドレンボルト取り付け時に締め過ぎてねじ溝を損傷させたのか,

それともエキストラクタで固着していたボルトを引き抜いた時に損傷したのか,

原因を特定することはできませんが,

ねじ溝を再生してもねじの頭がなめている為に再使用は避けるべきであり,

フロートチャンバとの接触面も荒れていたので新品に交換しました。


【整備内容】

ドレンボルトは新品に交換することができますが,

フロートチャンバはすでに絶版である為,可能な限り再使用する必要があります。

その為にまずねじ溝の状態を点検し,ドレンボルトによって攻撃されたねじ溝はタップによる再生で使用可能と判断ました。



図4 タップによるフロートチャンバドレンボルト雌ねじ溝の再生

図4はタップでフロートチャンバドレンボルトの取り付け部雌ねじ溝を修正している様子です。

フロートチャンバはアルミニウム合金なので,

鋼鉄のドレンボルトとの力関係では素材的に負けて破損している可能性があります。



図5 ねじ溝修正時に切削されたアルミニウム合金

図5はタップに付着したフロートチャンバドレンボルト雌ねじ溝のアルミニウム合金の一部です。

素材が外部から充填されない以上,切削をすれば肉が減るだけですが,

今回仕上げにおける総切削量は許容範囲を十分に余裕を持って下まわるレベルに抑えることができました。



図6 修正の完了したフロートチャンバドレンボルト取り付け部雌ねじ

図6はタップにより切削,修正されたねじ溝を洗浄し切り粉を除去したドレンボルト雌ねじ溝の様子です。

新品の状態とほとんど変わらないレベルに仕上げることができました。



図7 新品のフロートチャンバドレンボルト

図7は新品のフロートチャンバドレンボルトの様子です。

フロートとの接触面が均一化されており燃料漏れの恐れがなくなると同時に,

ねじ頭が正常な形状であることから確実に適正なトルクで締め付けることができます。



図8 ねじ溝の修正されたフロートチャンバに取り付けられた新品のドレンボルト

図8はタップによりねじ山の修正されたフロートチャンバに新品のドレンボルトを取り付けた様子です。

修正されたねじ溝と新品のねじ溝同士の摩擦なので非常にスムーズに滑り込みました。

規定トルクを参考に締め付け,キャブレータ組み立て組み付け,

試運転後にガソリン漏れが発生していないことを確認して整備を完了しました。


【考察】

キャブレータをオーバーホール【overhaul】(分解整備・精密検査)する際に,

ドレンボルトがフロートチャンバに固着している事例は少なくありません。

そしてそのねじの頭がなめている場合も同様に少なくありません。

つまり,ドレンボルトが固着していてそのボルトの頭がなめているというケースが多々あるということです。

その原因のひとつにこの部分がガソリンを密封する場所であることが考えられます。

長期間放置された車両のキャブレータはガム質化したガソリンが各すき間に侵入し,

部品同士が固着している場合がほとんどといっても過言ではありません。

その中で,フロートチャンバのドレンボルトも同様に固着していて,

無理に取り外されようとした結果,ねじ山がなめてしまいどうにもならない状態に陥っているものもあります。

もともとドレンボルトは強大なトルクをかけるようには作られておらず,ねじの頭の溝も深くありません。



今回の事例では頭のなめているボルトを抜き取る様々な手段の中から,

エキストラクタを使用する手法で整備を行いました。

しかし,できることならば加工しなくても済むような保管のされ方,整備のされ方がなされていなくてはなりません。

というのも,今回は新品のドレンボルトの部品供給があると確認してから加工しましたが,整備個所によっては,

もし絶版である場合は,コストの面から現在付いている部品を再使用しなければならないケースが少なからずある為です。

その場合は加工することができず,整備の進行工程を見直したり,

本来やらなくても済むような余計な見積もりが増えてしまいます。

部品単体ならまだしも,加工対象と傷つけてはならないものが密着している様な状態のもの,

すなわちこの事例でいえばフロートチャンバに固着しているボルトの頭の中心にドリルで穴を開ける必要があり,

フロートチャンバは傷つけてはならない,というような状況はやはりリスクが伴います。

それと同時に絶版部品であるフロートチャンバのねじ溝をタップで修正することも同様にリスクが伴います。



今回の事例のドレンボルトが固着していた直接の原因はいくつか考えられ,

一概にガソリンによる固着や締め過ぎによる雌ねじ,雄ねじのカジリ等とは断定できません。

しかし車両の保管がしっかりしていれば,やらなくても済んだかもしれない修理であるといえます。

やはり,可能な限り車両は放置せず,

万が一長期間乗らない場合はキャブレータ内部のガソリンを抜き取っておくべきであるといえます。

そして明らかに固着していそうな部分のねじは無理に回そうとせず,

なめてしまう前に専門家に相談することが望ましいといえます。

メガスピードではその様なご要望にお応えできるよう,日々研鑚を積んでまいります。





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