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2サイクルエンジンのオイルポンプ吐出量の測定について(原動機の型式:J201)


【整備車両】

RG250EW (GJ21A) RG250Γ(ガンマ) Ⅰ型  推定年式:1983年  参考走行距離:約18,600km


【不具合の状態】

エンジン回転が5,000rpm付近で引っかかり,スムーズに吹け上がらない状態でした.


【点検結果】

この事例の車両はお客様が個人売買で購入され,メガスピードにて各所総合的に分解整備を承ったものです.

オイル廻りの整備一式を承ったなかで,オイルポンプの吐出量測定を行いました.

目的は,焼き付きを回避する為現在オイルポンプの吐出性能がどのくらいあるかを把握しておくことと,

それによるオイルの吐出量に合わせたオイルワイヤの引き具合,

すなわちオイルポンプのレバー開度調整の目安を見極めること,

そして同時に行ったキャブレータのオーバーホール【overhaul】(分解整備・精密検査)と合わせて,

エンジンの回転不良を解消することです.

図1 オイルポンプ吐出量の測定

図1はオイルポンプの吐出量を規定の回転数で測定している様子です。

オイルポンプの吐出量は,原動機型式:J201に使用されているオイルポンプに対して,

“クランクシャフト2,000rpmにおいてオイルポンプレバー全開で2分間に1,80~3,40mlのオイルを消費する”

という参考規定値のみが整備書に示されています.

したがって,その他の状況はすべて整備技術者が割り出して判断する必要があり,

メガスピードでは独自に計算し,その結果を測定値と照らし合わせて状態を判断しています.



今回は以下の2つのパターンに分けてオイルの吐出量を測定しました.

  ①フルスロットルすなわちオイルポンプレバー全開におけるオイル吐出量

  ②アイドリングにおけるスロットルOFFすなわちオイルポンプレバー全閉におけるオイル吐出量

測定は旋盤で規定の回転数でオイルポンプを直接回転させる為,

これらを測定する上で必要なオイルポンプのクランク軸に対する回転数の算出を行いました.



図2 クランク軸からオイルポンプまでの動力伝達経路

図2はクランク軸からオイルポンプまでの動力伝達経路を示した様子です.

これは当社在庫のエンジンを事例の説明の為に分解したものであり,

今回の事例の車両から取り外したものではありませんが,エンジン型式は同じJ201です.

クランク軸からオイルポンプまでの動力伝達の流れは図のA~Eであり,それぞれ,

      A:クランク軸プライマリドライブギヤ(20T)
               ↓
         B:プライマリドリブンギヤ(62T)
               ↓
          C:サードドライブギヤ(19T)
               ↓
          D:サードドリブンギヤ(23T)
               ↓
          E:オイルポンプギヤ(29T)

となります
(※1),クランク軸に対するオイルポンプのギヤ比は4,7315概算で4,73となり,

クランク軸2,000rpmではオイルポンプは約423rpmとなります.

規定アイドリング回転数はクランク軸1,300rpmであり,これに換算するとオイルポンプの回転数は約275rmpとなります.


  (※1) エンジン型式:J201においてGJ21AⅡ型はギヤ歯数はそれぞれクランク軸が24T,

       プライマリドリブンが72Tであり,GJ21AⅠ型と異なります。



図3 各気筒のオイル量の測定

図3は実際のオイル吐出量をそれぞれ1番シリンダ,2番シリンダで測定している様子です.

測定結果を表1にまとめました.

a ①オイルポンプ約423rpm(クランク軸2,000rpm) ②オイルポンプ約275rpm(クランク軸1,3,00rpm)
2分間 レバー全開 10分間 レバー全閉
1番 1,60ml 1,60ml
2番 1,65ml 1,60ml
合計 3,25ml 3,20ml
3,25ml 3,10ml
誤差 0 0,10ml
表1 オイルポンプのオイル吐出量の測定

測定は①と②の二通りの条件で行いました.

まず①について,整備書の規定値との比較を直接行うものであり,測定結果を注視する必要があります.

1番2番各シリンダの吐出量はそれぞれ1,60ml,1,65mlとほぼ同じと考えて良い数値であり,

均一にオイルがポンプから吐出されていることが確認できました.

またオイルタンクに見立てた親の測定ゲージからのオイル消費量と実際に吐出されたオイルの量の誤差が0であることから,

オイルポンプレバー全開においてもロスすることなく,かつオイル漏れも発生していないと判断できます.

次に②について,これは規定アイドリング値のクランク軸1,300rpmにおける,

スロットル全閉のオイルレバーを引いていない状態でのオイル吐出量を測定したものです.

回転数が低いことやレバーが全閉であることからオイルの吐出量そのものが少ない為,測定時間を10分とし,

メスシリンダの目盛の正確性を確保しました.

その結果,オイルの吐出量が1番2番とも1,60mlであり,

偏りがなく,均一にポンプからオイルが吐出されていることが分かります.

また親との誤差が0,1mlとほとんど測定誤差の範囲であることから,

ロスすることなく正確にポンプからオイルが圧送されていると判断できます.

以上の測定結果により,

アイドリングからフルスロットルまで問題なくオイルポンプがオイルを吐出していることが確認できたと同時に,

規定値に対するこの車両のオイルポンプの位置づけが把握できました.

すなわち規定値が1,80~3,40ml/2secであるのに対し,測定したオイルポンプの吐出量が3,25ml/2secであり,

規定値内に入るとともに,最大値の3,40mlに近い吐出量を保持していることが分かりました.

その結果,この測定結果を念頭に,

オイルレバー開度の調整におけるオイルの吐出量のセッティングを厳密に行うことができます.



図5 オイルタンクのオイル自然落下量の測定

整備書の規定値では,

“クランクシャフト2,000rpmにおけるオイルポンプレバー全開で2分間に1,80~3,40mlのオイルを消費する”

とされています.

これをレッドゾーン9,000rpmに換算すると,

スロットル全開すなわちオイルポンプレバー全開で2分間に8,10~15,3mlのオイルが必要であり,

最大消費量の15,3mlを満たしていれば,オイルタンクからのオイル供給が十分であると判断できます.



図5はオイルタンクからオイルホースを通って供給される自然落下するオイルの量を測定した様子です.

タンクを洗浄,オイルホースを新品に交換した状態の良いものを使用し,

オイルの自然落下量すなわち最大供給量を測定しました.

メスシリンダは左から1回目,2回目と続き,合計4回の測定を行いました.

表2は測定結果をまとめたものです.

a オイルタンクからのオイルの自然落下量(5秒間)
1回目 3,70ml
2回目 3,30ml
3回目 3,55ml
4回目 3,50ml
平均 3,51ml
表2 オイルタンクからのオイル供給量の測定

1回から4回までの測定結果を平均すると,5秒間に3,51ml,

すなわち0,70ml/secであるという結果が得られました.

これは先のオイル必須最大消費量を換算した0,13ml/secと比較すれば,約5,4倍の安全率が確保されていることになり,

レッドゾーンにおいてもオイルタンクからオイルポンプまでのオイルの供給は十分であると判断できます.

また逆にオイルポンプの状態が良くても,

オイルタンクが詰まり0,13ml/secの自然落下量を確保できない状態になってしまえば,

オイル不足からエンジン焼き付きに至ると考えられます.

もちろんそれらをつなぐオイルホースは亀裂や損傷,劣化があってはならず,

ホースの脱落や亀裂等により0,13ml/secのオイルをエンジンに供給できなければ,やはりエンジン焼き付きに至ります.

これらのことから,オイル廻りは一式含めてすべてが重要であり,確実に点検整備されていなければならないといえます.


【整備内容】

図6  吐出量に応じたオイルレバー開度のセッティング

図6はオイルポンプレバー開度を調整している様子です.

整備書の参考規定値は1,80~3,40mlと幅がありますが,

この車両は測定結果から,全開時の吐出量3,25mということを考慮して,

その数値に対して最適なオイルレバーの開度にセッティングしました.

この車両はエンジン回転が途中で引っかかり,吹け上がりが悪い症状が発生していた為,

キャブレータのオーバーホール【overhaul】(分解整備・精密検査)を同時に行い


オイル廻りの整備一式も合わせて行いました.

エンジン回転不良は燃料のみならず,オイルレバー開度が不適切であったことも原因の一つでした.

逆にいえば,2サイクルエンジンは燃料とオイルが密接に関連しており,

燃料系統のみ整備しても不十分であることが少なくありません.

今回はすべての整備を完了し,40km程試運転を行い,

レッドゾーンを超える勢いのストレスのない吹け上がりを実現させて納車しました.


【考察】

中古車であれば,店から購入するにしろ,個人売買で入手するにしろ,

購入した時点で点検していない箇所の状態は分からない為そのまま乗るには不安が残ります.

古い車両かつ2サイクルエンジンであればオイル系統の不具合は即エンジン焼き付きに結び付く可能性があります.

やはり安心して楽しく乗る為にはオイルポンプの吐出量を含めたオイル廻りの総合的な点検整備は必須であるといえます.

特にGJ21Aのオイルポンプは整備書の規定値が1,80ml~3,40mlと許容範囲が倍近くあり,

個体差による差異がオイルポンプのレバー開度時における吐出量の調整に影響します.

すなわち同じように調整しても,オイルポンプの個体差で吐出量が倍近く異なりオイル不足やオイル過多を引き起こす為,

当該車両のオイルポンプの吐出量を把握していないと正確なセッティングができません.

やはり安全安心の為,正確なオイルポンプのセッティングの為にも,

オイルポンプの吐出量を測定しておくことが求められるといえます.



整備書では“クランクシャフト2,000rpmにおいてオイルポンプレバー全開で2分間に1,80~3,40mlのオイルを消費する”

という記述しかなく,ここから判断できるのは,2,000rpmにおけるオイルタンクから供給されるオイルの消費量のみです.

しかし,実際には2,000rpmに保ちながらでスロットルを全開にしているという運転状況はないので,

実際に基づいた低回転を一定に保ちレバー開度を全閉の状態における測定データが重要になります.

またオイルポンプの吐出先は1番2番と2つのシリンダがありますが,

それらに偏りがないことも把握しなければなりません.

当然オイル消費量に対するオイルタンクからの最低限必要なオイル供給量を割り出し,

それを満たしているかどうかも確認しておかなければなりません.

そしてそれらはすべて必須です.

煎じつめれば整備書レベルの点検内容では概して不十分であり,

各シリンダヘのオイル供給量や総合的なオイル消費量等の正確な状況が把握できず,良否の判断が難しいといえます.

メガスピードでは可能な限り数値に基づいた点検整備を行い,それに必要な測定を行います.

その目的はただひとつ,お客様に安心して車両に乗っていただきたい,それに尽きます.



GJ21Aは馬力でいえば規制の45PSに達しているモデルであり,

排気バルブ等のデバイスがない,いかにも2ストらしい出力特性を有した最後のモデルです.

それゆえその味わいを楽しむ価値は現在でも十分にあるといえます.

むしろ新車の大部分がインジェクション化された現在だからこそ,

キャブレータ仕様の2サイクルエンジン搭載車両を堪能する楽しみがあるといえます.

発売から数十年を経ている為,全体が腐食してボロボロになってしまっている車両も見受けられますが,

要をおさえた整備を施せば,今もなお私たちを魅せてくれます.


その為にもメガスピードでは今後も可能な限りサポートさせていただけるよう精進してまいります。





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