事例:D‐26
ストップランプのバルブ切れとソケットの脱落,劣化したパッキンについて |
【整備車両】
GSX1300RY (GW71A) "HAYABUSA" 隼 (ハヤブサ) 年式:2000年 参考走行距離:約22,400km |
【不具合の状態】
右側のストップランプが点灯しない状態でした. |
【点検結果】
この車両は走行距離が20,000kmを超えていた為,
メガスピードにてエンジンオーバーホールを含めて各所整備したものです.
今回の事例ではストップランプバルブ切れについて記載します.
図1.1 点灯せずに座面から脱落しているソケットとバルブ(右) |
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図1.1は点灯していないストップランプバルブの様子です.
左右で大きさが異なり,更に点灯していない右側のソケットが座面から脱落していることが分かります.
大きさの違うバルブが取り付けられている違和感のみならず,
片側のソケットが脱落し,尚且つ点灯していない様子は異様であるといえます.
振動等で緩みの生じる部位ではない為,
過去に整備した者が取り付け時に作業ミスをした結果であると判断することができます.
図1.2は取り外したバルブの様子です.
左側のバルブ (G-18,5) は尾灯と制動灯ともに断線していないものの,ガラスが黒ずんでいたので,
残りの寿命はそれ程長くはないことが分かります.
左側のバルブ (S-25) は制動側が断線していました.
取り外したバルブG-18,5とS-25の大きさの違いはおそらく前回どちらかが断線した為に,
手持ちのバルブで対処した為,形が統一できなかったと推測されます.
図1.3はストップランプレンズと本体のすき間を異物や水分から防ぐ為のパッキンです.
長年使用されたことにより接触面が潰れていただけでなく,材質そのものが劣化していました.
この状態では雨水や異物の侵入を完全に防ぎきれないといえます.
実際に内部にはかなりの量の埃が堆積していました. |
【整備内容】
バルブを左右新品に交換し,レンズの合わせ面のパッキンを新品にするとともに,
その取り付けビスも合わせて新品に交換することにより,見た目をより美しいものにしました.
図2.1 取り付けられた新品のパッキン及び左右のバルブ |
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図2.1はランプ本体に新品のバルブ,新品のパッキンを取り付けた様子です.
パッキンが交換されたことにより,レンズ内部への異物の侵入を防ぐ性能がかなり高くなったといえます.
またバルブに関しては両側とも新品のS-25に形を統一しました.
これは,左側も近い将来断線する可能性がある為,予防的に交換しておく方が得策でり,
大きさは同一が好ましいと判断したことによります.
図2.2 新品に交換されたストップランプレンズ取り付けビス |
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図2.2はストップランプレンズを本体に固定するビスを新品に交換した様子です.
この部品は非常に高い確率で錆びていますが,今回の事例では変色のみでした.
これは車両の保管状態が極めて良好であったことを示しています.
しかし,今回は他の部位が新品に交換されることに合わせて交換しました.
図2.2から理解できるように,銀の光沢を放つ新品のビスを使用することにより非常に美しくなっています.
この部品は外部から見える表面積はごくわずかですが,これが錆びて赤くなっていると,
かなり見苦しく,いかにも放置された車両というイメージを持たれ兼ねません.
したがって,確かに小さな部品ではありますが,可能であれば新品に交換されることが望ましいといえます.
図2.3は正常に点灯している制動灯の様子です.
各部に不具合がないことを確認して整備を完了しました. |
【考察】
リヤストップランプが点灯しない原因の中で最も多いものとして,
バルブ内部のフィラメントが断線していることが挙げられます.
この事例では右側のバルブのフィラメントが断線していたことが不点灯の原因でしたが,
すでに左側のガラスが黒ずんでいた為,左右同時に新品に交換することで対応しました.
またランプと本体をシールするガスケットに劣化が見られたことから,
パッキンを新品に交換して防塵防水対策を強化するとともに,
変色していた取り付けビスも合わせて新品に交換することにより,
美しい外観を取り戻しながら性能を回復させることができました.
この車両は大手量販店で長年メンテナンスされていたとされるものです.
私が過去に整備して内部を確認した車両であれば,
単なるバルブ切れの場合はフェンダー側からソケットを取り外してバルブを交換して整備を行うこともできます.
しかしこの車両に関しては量販店で整備されていた車両とはいえ,オイル漏れ等数多くの不具合を内在していたことから,
量販店での整備記録などまったく信用するに値しない為,
自分の目で確認すべく,リヤストップランプレンズ側からの整備を行いました.
結果としては,案の定バルブソケットが脱落していたり,左右でサイズの違うバルブが使用されていたり,
合わせ面のパッキンが劣化していたりという懸念すべき状態でした.
前オーナーはおそらくこの状態でツーリング等に意気揚々として出かけていたことでしょう.
しかし,300km/hの運航が可能な世界最高峰といっても過言ではない車両に乗っていたとして,
もしリヤのストップランプの中身がこの事例の様な状態であったらどうでしょうか.
私だったら絶対に嫌です.
嫌だからこそここまで細かく手を入れて,実際に“見てみる”必要があるのです.
そして自分が嫌だと思うことを他人にできるわけがありません.
ましてや整備料金をいただいているお客様に対してなら尚更です.
この事例で取り上げた内容は大きく見れば,ただのバルブ切れということですが,
“ただのバルブ切れ”という見方でとらえること自体がすでに誤りであることが理解していただけたはずです.
メガスピードでは事細かに症状を分析して,今後どのようにすればより良いバイクライフが送れるかを常に研究しています.
一方で,切れたバルブを交換すればそれで良い,という人が存在するのも確かです.
最低限の費用しかかけたくないのであれば,それでも良いでしょう.
しかし,その様な考え方は,所詮それまでであると私は考えます.
なぜなら,片側が切れていれば,もう一方も同じ状態に近いのではないか,という推測する能力が必要であり,
実際にこの事例でも点灯していた方のバルブの寿命は終わりに近かったといえます.
そしてそれを踏まえて両方とも新品に交換しておくという先行投資になる選択肢を選ぶという決断力,
さらに年式を考えてレンズのパッキンの状態も合わせてみておくという状況からの判断力等が不可欠です.
この様にバルブ切れひとつとっても,修理や整備に対して真っ向から取り組めば,実に奥深いものなのです.
それを理解し,実際に取り組める能力が,整備技術者として最低限必要な水準であり,
更に+αとして,何ができるかを真剣に考えなければなりません.
メガスピードでは300km/hの車両に対して,それにふさわしく,オーナーに恥をかかせることのない整備を施します.
何もそれはエンジン内部だけの話ではありません.
この事例の様に,保安部品に関する身近なところからも,正確に整備された車両はすでに差が出ているのです. |
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