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ディマスイッチ内部の端子圧着スプリングの固着によるヘッドライトの不具合について


【整備車両】

NSR250R
J (MC18) (推定)1988年式  〈推定〉走行距離:約10,000km


【不具合の症状】

ヘッドライトのロービームが点灯しない状態でした。

【点検結果】

まずヘッドライトバルブカプラを点検したところ、ディマスイッチがLoの状態で、電圧がかかっていないことを確認しました。

バルブそのものもは点検した結果問題なかったので、

すれ違い用前照灯(以下ロービーム)が点灯しないのは単なるバルブ切れではないと判断しました。

また走行用前照灯(以下ハイビーム)は点灯する状態だったので、

電源電圧はハンドルスイッチまで来ていると判断しました。



図1はハンドルスイッチ内部のディマスイッチの様子です。

通常電源電圧はB及びBと導体でつながったB'にかかっています。


図1、ディマスイッチ外観

テスターで点検した結果、ディマスイッチがHiの位置で、

図1の黄色い四角で囲んだBのバッテリ電源とHiのハイビームには導通があり、

更にB及びB'とアース間には電源電圧があることを確認しました。

しかしLoのロービームとバッテリ電源のB'との間には、ディマスイッチをロービームの状態にしても導通はありませんでした。

このことからヘッドライトロービームが点灯しないのは、ディマスイッチのLoに不具合があると判断しました。




図2、ディマスイッチカバー内側

図2はディマスイッチのハウジングの上に位置するカバーの内側の様子です。

画像上の右側がLo、上の左側のB'と下の右側のBが電源(裏でつながっています)、

下の左側がHiの端子になっています。

仕組みとしてはディマスイッチをプッシュすると移動端子がHiとBをつなぎハイビームに、

プッシュをキャンセルすると移動端子がB'とLoをつなぎロービームになります。

端子そのものに腐食や導通不良等の不具合はありませんでした。




図3、スプリングの固着していたディマスイッチ内部

図3はディマスイッチの内部の様子です。上側がLo、下側がHiの移動端子になります。

Lo側は端子をディマスイッチカバーの端子に押し付けるスプリングが古く固形化したグリスで固着し、

スプリングが常に縮んでいて端子が上に押し出されない状態になっていました。

また端子の接触面も腐食していました。Hi側の端子の黄色の矢印で示した部分が端子間の接触部分です。

摩擦により金属が磨かれ光沢のある状態が正常ですが、

すでに腐食等により光沢がまばらになっているHi側に比べてLo側はほとんど光沢のないことが分かります。

このことはLo側の端子間の接触圧力が徐々に減衰していき、接触面積が減っていったことを表しています。

最終的に接点がふさがらずにロービームにスイッチが切りかわっても、移動端子とプレート側の端子が接触せず、

電流が流れない為に点灯しない原因になったものと判断しました。


【整備内容】

図4はディマスイッチを分解整備している様子です。


図4、ディマスイッチ内部の分解整備

特にグリス汚れの著しかったスプリングを中心に点検清掃しました。

端子を押し付けるスプリングや、ディマスイッチのリターンスプリング、ハウジング、

ストップキャンセルをガイドする金属等に目立つ損傷はありませんでした。



図5はディマスイッチのHiとLoの切り替えのガイドを点検している様子です。


図5、点検整備の完了したディマスイッチ内部

逆行防止の段差等に目立つ摩耗はなく、機能に問題ないと判断しました。

図の矢印は参考までにHiとLoの切り替えルートを示したものです。

設けられた段差によりすべてワンウェイになっていて、金属のガイドピン(図5右上のC)が逆行しないようになっています。

画像上側の①の矢印LoからHiに切り替える動きです。

ディマスイッチが押されると、ケースに固定されている金属ガイドピンがAにぶつかります。

この状態がスイッチをいっぱいに押している状態です。スイッチを離すと、リターンスプリングの力でHiの位置まで戻り、

そこで止まります。画像下側の②の矢印がHiからLoに切り替える動きです。再びスイッチを押すと、Bにぶつかり、

そこでスイッチを離すとそのままLoの位置までリターンスプリングの力でスイッチが押し戻されます。

HiとLoの切り替えはこの繰り返しにより行われます。




図6、点検整備の完了したディマスイッチ内部

図6は点検整備を完了し、組み立てたディマスイッチ内部の様子です。

Hi側も、Lo側もスプリングがきちんと端子を上面に押し出しているのが確認できます。

これらの端子が画像右側のディマスイッチカバーに接触し電流を流します。

端子はカバー側も含めて接触面をすべて研磨し薄くグリスを塗布しました。




図7、点検整備の完了した左ハンドルスイッチ

図7はHiとLoの切り替え、保持、点灯がきちんとできるか確認し、

ディマスイッチをハンドルスイッチに組み付けた様子です。




図8、点灯したヘッドライトロービーム

図8は組み立てたハンドルスイッチを車体に組み付け、ロービームの点灯を行っている様子です。


【考察】

NSR250R
Jの発売が1988年ということを考えると、各部分が経年により劣化、固着していてもおかしくはありません。

ハンドルスイッチのディマスイッチ内部は発売されてから一度も分解整備されていない可能性があります。

ハンドルスイッチを開けた時点でカマキリの卵の様な形をした小さい卵が2個出てきたことから、

スイッチそのものが長期間開けられていなかった可能性があります。

この車両は通勤で使用されているものなので、メガスピードに入庫する直前までロービームは稼働していました。

つまり、ロービームが点灯しなくなったという不具合がいきなり発生したということです。

しかし不具合の発生はいきなりでも、分解結果からすると、内部でスプリングの動きの鈍化は徐々に発生していて、

ある日端子を接触させることができないレベルに性能が落ちてしまったものだと考えることができます。

言い換えれば、電装系は端的にいえば導通の有無でON、OFFが切りかわります。

ですから機械的なものから比較すると電装系の不具合は突然起こるのです。

例えばウインカーでいえば点灯する、点灯しないの2通りしか結果がないのです。

もちろん端子の接触が悪くなれば、セルモータに見られる出力不足による唸りや、

照明の光量不足等、目に見えて症状が分かる場合もあります。

ですが保安部品等の構造の簡単なものはON、OFFの2通りと考えた方がより分かりやすいといえます。

このことは、普段問題なく稼働している電装部品も、

場合によっては中身はぎりぎりの状態で動いている可能性があることを示しています。



この事例の場合、症状からハンドルスイッチが不具合を起こしている可能性があると推測できるので、

例えばまず始めにハンドルスイッチをカプラからそっくり新品あるいは動作を確認している中古部品に

交換する点検方法も考えられます。そこでヘッドライトのロービームが点灯すれば、

ハンドルスイッチ内部のどこかが不具合を起こしていた要因のひとつであると推測できます。

しかしすでに絶版で新品部品の供給がない車両では中古部品を使用するか、

部品供給のある他の車両の新品のハンドルスイッチの配線を加工して取り付ける必要があります。

例え中古部品を使用してその時は不具合が改善されたとしても、

使用したものが中古である限りいつ同じような不具合が起こるか分かりません。

ひとまず症状が改善されれば良いというのであれば、

そこで線引きをしていったん修理を完了し、あとは様子を見ましょうということになります。

ですが、根本的には原因が何であったか突き止めないと、将来同じような症状が発生する可能性は排除できません。

やはりそれを防ぐには原因と推測される対象物を絞り、分解点検して不具合を引き起こしていた箇所を突き止め、

何が原因かを解明し、対策する必要があります。そしてその上でもし中古部品を使う場合は、

中古部品が本当に問題なく使用できるのか分解点検して確認しておく必要があります。

つまり場合によっては例えその場で症状が改善されたとしても、

賭けになるような単純な部品交換では正確な整備をしたといえないということです。



ロービームが点灯しなくなる原因は単純なバルブ切れであることが少なくありません。

ですが故障車両の年式が古いものになると、そう単純な話ではなくなる場合があります。

やはり不具合のもとを突き止め、正確な整備を行うことが求められます。





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