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事例:D‐24

スクリーンに直付けされたETC受信機による整備性の悪化について


【整備車両】

GSX250RCH (GJ72A) GSX-R250  推定年式:1987年  (参考)走行距離:約18,100km


【不具合の状態】

ETCの受信機が直接アッパーカウルスクリーンに取り付けられていて,カウルが脱着しづらい状態でした.

またメーター中心部に設置されていることにより,タコメータの読み取り範囲に影響が出ていました.


【点検結果】

 この車両は各所点検整備のご依頼を承りメガスピードにて整備を実施したものです.

今回の事例では,整備性を低下させていたスクリーンに直付けされたETC受信機について記載します.



図1.1 アッパーカウル内側中央に場所をとっているETC受信機

 図1.1はETC受信機がスクリーンに直接両面テープで張り付けられている様子です.

ホルダ本体が大きく張り出し,タコメータ上部の一部が隠れている状態でした.

インジケータが横に張り出している為,圧迫感が強くなっている印象を受けます.

またアッパーカウルを取り外す際にはETC受信機のホルダを取り外す必要があり,非常に整備効率の悪い状況でした.



図1.2 スクリーンに張り付けられた両面テープ

 図1.2はホルダの吸盤部に両面テープが使用され,それがスクリーンに張り付けられている様子です.

内側から貼られている為,透明のスクリーンを通して張り付け面が丸見えになっていました.

またホルダと受信機が中央に位置している為,スクリーン内部が煩雑になっていることが分かります.



図1.3 横側から見たETCホルダと受信機

 図1.3は車体右側からETCホルダ及び受信機を見た様子です.

スクリーンに両面テープで取り付けられている為,

アッパーカウルを取り外す為には毎回狭いスペースに手を入れて,

更に小さなねじを付け外ししてホルダを脱着しなければなりません.

一度だけならまだしも,整備の度にホルダを脱着しなければならないのは,

非常に効率が悪く,決してスマートではありません.


【整備内容】

 アッパーカウルの脱着に影響しないETC受信機の設置が必要であり,

現在スクリーンに直付けされているホルダを取り外し,

受信機の位置をアッパーカウルの側端部に移設することから検討しました.

その為には専用のホルダが必要であることから,ETC受信機を移設する為のホルダを新規に設計製作しました.




図2.1 GJ72A用に製作されたETC受信機ホルダ

 図2.
1はGJ72A用に製作したETC受信機を設置する為のホルダの様子です.

母材を曲げ加工により製作し,左ミラーと共締めにする形で取り付けられる様にしました.

これは右側に設置した場合,左にハンドルを切った際にフロントブレーキマスターシリンダが接触する為です.

材質はアルミニウム合金を,厚みは強度的に十分かつ必要最小限のものを選定しました.

色はアッパーカウル内側の雰囲気に合わせて艶消し黒で塗装しました.

これによりアッパーカウルの取り外しの際に発生するミラーの脱着工程に受信機を含めることができ,

余分な工程がなくなると同時に,両面テープではなくカウルステーに対する金属同士のボルト締めになることから,

確実に受信機のホルダを設置することができるようになりました.





図2.2 ホルダの重量比較

 図2.2はもともと取り付けられていたホルダ(上)とメガスピードにて製作されたホルダの重量や大きさを比較したものです.

取り付けられていたホルダは約46gと重く,寸法も大きい為,狭い2輪のアッパーカウル内部ではかなり場所をとります.

それに対し,専用に製作されたホルダは約22gと,取り付けられていたものの半分であり,

形状も薄く必要最小限の面積にとどめている為,非常にコンパクトであることが分かります.

重さは加速や減速,旋回,その他すべての運動に関して影響してくる為,

例え小さなものでも,ある部品の重量が半減するということは運動性の向上に非常に効果があります.



図2.3 車体左側に移設されたETC受信機及び専用ホルダ

 図2.3は製作されたホルダを使用してETC受信機及びインジケータを設置した様子を,

実際に車両にまたがった状態で撮影したもの,つまりライダーの走行中の視点になります.

もともとついていたものは受信機の横に飛び出す形でインジケータが設置されていた為,

余計な空間を占領していましたが,今回のホルダでは下側を利用し,非常に美しく且つシンプルに設置しました.

軽量化はもとより,設置空間がコンパクトになったことによりメータ類が見やすくなると同時に,

ライダーの実際に運転する視線において,

ホルダや受信機,インジケータがスクリーンに入らない位置に設置されたことにより,

メーター廻りがスッキリする様な演出を行いました.

図1.1と比較すれば,いかにメータ廻りが見やすくなったか理解することができます.

ETCゲートも問題なく通過し,非常に良好な結果を得ることができました.



図2.4 美しい外観を取り戻したスクリーン

 図2.4は
アッパーカウルスクリーン部を外側から見た様子です.

図1.2の様に大きく両面テープが面積をとっていましたが,

専用ホルダを使用することによりスクリーン部に影響を及ぼすことがなくなり,

非常に美しい外観を取り戻すことができました.

やはりスクリーンはアッパーカウルの命といえるほど,

重要な外観的要素を含んでいるという理論を否定することはできません.


【考察】

 この車両はお客様が大手量販店でETC設置を行ったものです.

そこでは受信機がアッパーカウルに市販のホルダを利用して両面テープで固定されていました.

確かに何も考えずに市販している部品を使って両面テープで固定すれば,非常に楽に設置することができます.

しかし,その場合,アッパーカウルを取り外す為には毎回手の入りにくい部位のねじを回して外さねばならず,

当然外したものは取り付けなければなりません.

特にカウルの付いた車両の場合,カウルを取り外さなければ点検できない為,

後々のことを考えれば,アッパーカウルにETC受信機を設置するという安易な発想は愚かと言わざるを得ません.

ましてやスクリーンに両面テープで張り付けるといった行為は,本当にバイクを大切にしていれば,できるはずがありません.

スクリーンは傷つけば徐々に曇る為,極力丁寧に扱うべきであり,

例えば私の場合でいうならば,自分のバイクのスクリーンに素手で触れることは愚か塵の付着も許しません.

許されるのは手入れの時に柔らかいウエスで拭き取る程度であり,常に透明でなければ穏やかではないのです.

そしてそれはお客様のスクリーンに対する接し方,考え方も同様です.


 今回メガスピードにて整備の際にアッパーカウルの取り外しに余計な工程が生じた為,

お客様にETC受信機の移設をお勧めしました.

大きくスクリーンに張り付けられた2つの両面テープが外側から丸見えである姿が可哀想なこと,

ホルダを専用に設計製作すれば,もっとコンパクトになること,そしてメーター中央でなく,

端に設置すればアッパーカウル内部がスッキリすること等のメリットをお伝えし,快諾いただいた次第です.

予想以上に軽量化できた点も見逃せないでしょう.

実際には今回の整備ではアッパーカウルの脱着を何の影響も受けずに,

容易に遂行できるようにすることが第一の目的でしたが,その他の付随的なメリットも十分に生かせました.

ワンオフで一から設計製作する部品は必然的にコストがかかりますが,それだけの価値は十分にあるといえます.





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