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事例:S-81

クラッチレバー先端の曲がりと軸受けの偏摩耗について


【整備車両】

 RG400EW-2W (HK31A) RG400Γ(ガンマ) 2型  年式:1988年  走行距離:約56,000km


【不具合の状態】

 クラッチレバーの曲がりによりクラッチ操作がしづらい状態でした.またレバーにガタが発生していました.


【点検結果】

 この車両はエンジン始動不能に陥っていたため,お客様のご依頼によりメガスピードにて点検解整備を実施したものです.

今回の事例ではクラッチレバーの不具合について記載します.



図1.1 先端が曲がり軸受けの偏摩耗したクラッチレバー

 図1.1は先端が曲がっているクラッチレバーの様子です.

この曲がりにより握りが広がり操作しづらい状態に陥っていました.

また軸受けが偏摩耗しておりガタが発生していました.



図1.2 支点側の摩耗した軸受け

 図1.2は偏摩耗した軸受けの様子です.

銅ブッシュの軸受けは支点側が極端に摩耗していて,真上から見ると楕円に近い状態になっていました.

一番摩耗している部分は真鍮がなくなりレバー本体の壁面が露わになっていました.

この摩耗した分がすき間になりガタを発生させていたと考えられます.


 この車両はワンオーナーであり,走行距離が実走50,000kmを超えることを考慮すれば,

おびただしいクラッチ操作回数により軸が摩耗しても何ら不思議ではありません.




図1.3 ほとんど摩耗していない軸

 図1.3は取り外したクラッチレバーの可動軸にあたるボルトの様子です.

塗装は剥がれているものの,硬い鋼鉄製であることから軸はほとんど摩耗せず,

より軟らかいレバー側の真鍮製の軸受けが摩耗したと判断することができます.



【整備内容】

 レバーが曲がっていることや摩耗した軸受けの修正が困難であることから,レバーASSYを新品に交換するとともに,

軸のボルトおよびナットも新品に交換しました.



図2.1 新品のクラッチレバー

 図2.1は新品のクラッチレバーASSYの様子です.

レバーが真っすぐであることから適切なクラッチ操作をすることが可能になります.



図2.2 真円の軸受け

 図2.2は新品の軸受けの様子です.

塗装されているため境目が分かりづらいといえますが,一段低くなっている部分が軸受けになります.

新品は真円であり,軸との正確なクリアランスが保たれます.



図2.3 新品のクラッチレバーボルト

 図2.3は新品の軸すなわちクラッチレバー取り付けボルトの様子です.

レバー側より材質が硬いため,取り外した古いボルトもわずかに摩耗している程度でしたが,

レバー側の軸受けが新品に交換されたことにあわせて軸も新品にしました.

これにより偏摩耗でガタつきが発生していたクリアランスが適正に戻されることになり,

操作フィーリングを取り戻すことができました.



【考察】

 クラッチレバーにしてもブレーキレバーにしても,構造は単純で外観も多少の色あせはあるものの,

かなり古い車両でもそのまま機能しているととらえられがちです.

しかしそれが大きな間違いであることは,この事例の軸受けの摩耗を見れば明らかです.

バイクを構成する部品に関して負荷のかかる部位については必ず消耗していると考えなければなりません.

ましてやライダーの操作部位については尚一層走行距離や使用状況において定期的な交換が必要です.

操作部の摩耗は徐々に進行することから毎日乗っていれば中々気づくことができないかもしれません.

しかしひとたびその部位が整備されれば,“うっそぉ今までこんな状態で乗ってたの?”,

と驚くほどフィーリングが良好になるケースが少なくないのも,この部位の特徴であるといえます.


 この車両は走行距離が50,000kmオーバーと2輪にしては多いといえ,

当然クラッチレバーの軸受けの摩耗も予想しなければなりません.

しかし例えその半分の25,000kmだとしても,市街地でストップ&ゴーを繰り返すような用途のバイクであれば,

同様に各部が消耗しているでしょう.

大切なのは,各部を定期的にみてあげることです.

機械は自分では症状をいえないのだから,

やはりそれを必要かつ十分に汲み取ってあげるのが優れた整備技術者ではないかと思うのです.





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