トップページ代表の個人的なページ随筆【essey】


【死なない薬】



 時代は平成から令和へ移る最後の夜に差し掛かりました。あと数分で5月1日になろうとしています。平成も思い返すと色々ありましたが、やっぱり「今」が一番良いと思えます。そして生きてさえいれば、「一番良い」日々は更新されていくはずです。辛く苦しいことがあっても、前に進むしかありません。二度と立ち上がれないくらい打ちのめされても、時とともに人には乗り越えていく力があるはずです。

 その日は子どもらを風呂に入れ、川の字に敷いた布団で皆でゴロゴロしていました。
「ねぇお父ちゃん、今が平成で、次が令和でしょ? その次はどうなるの?」
 ふと、隣で同じようにゴロゴロしていた5歳が聞いてきました。
「さぁ、どうなるかな。その時になってみないと分からないよ。でもお父さんは、もういないかもしれないな。」
「え~、そんなの嫌だよ。」
 そう言って5歳はちょっと涙ぐんでいました。
「お父ちゃん死むの?」
「まだ死なないから大丈夫だよ。」
 5歳は不安そうな顔になっていました。
「早く死なない薬つくらなきゃ。」
 5歳が続けて言いました。このところ、この幼稚園児は事あるごとに”死なない薬”の話をします。
「そうだね。頑張って研究して作ってよ。きっとみんな喜ぶよ。」
「うん。でもお父ちゃんが死む前に間に合うかな?」
 7歳の小学2年は隣で黙って電車の図鑑を読んでいました。2歳は向うの方で仰向けになって、自分のつま先をもってゆっくり左右に揺れています。
「どうだろう。一生懸命勉強すればできるかもよ。待ってるからさ。」
 そう言ってドライヤーで乾かしたばかりの頭をなでると、5歳は少し安心したように、そしてちょっと照れくさそうにしていました。

 もうすぐ、時計の針も12時を回ります。新しい時代が始まります。これからを担っていく子どもらに、良い時代となりますように。その為にも、まだまだ親の世代が頑張らなければなりませんね。





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