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事例:E‐113

ウォータポンプインペラシャフトの摩耗とメカニカルシールハウジングの腐食について


【整備車両】

GSX1300RY (GW71A) "HAYABUSA" 隼 (ハヤブサ)  年式:2000年  参考走行距離:約22,400km


【不具合の状態】

走行時には症状として露見していないものの,分解するとシャフトの摩耗やインペラの腐食等の不具合が発見されました.


【点検結果】

 この車両は走行距離が20,000kmを超えたことから各所消耗品や不具合発生箇所等を精査する為,

メガスピードにてエンジンオーバーホール【overhaul】(分解整備・精密検査)を実施したものです.

ここではその中でウォータポンプをオーバーホールした際の不具合を記載します.



図1 ウォータポンプカバーに堆積している油汚れ

 図1.1は専用のエンジン台にエンジンを設置し,ウォータポンプ上部から撮影した様子です.

フロントドライブスプロケットが近くにある為,

チェーンから脱落したOリングや泥と油脂類の混合物がカバーに堆積していることが分かります.

この状態は車両発売から現在まで一切清掃洗浄が行われず,20,000km分の汚れを示しています.



図1.2 ウォータポンプメカニカルシールの点検

 図1.2はウォータポンプインペラを取り外し,メカニカルシールの状態を点検している様子です.

インペラ側のシール接触面が灰色に変色していましたが,

ポンプボデー側の接触面も含めて大きな衰損や腐食等はありませんでした.



図1.3 冷却水が固着しているインペラ側メカニカルシールハウジング

 図1.3はインペラからメカニカルシールを取り外した様子です.

冷却水がハウジングとメカニカルシールのすき間から侵入し,固着していました.

蒸発した冷却水が白,湿っているものが緑,何らかの腐食等で赤系統に変色していることが分かります.



図1.4 腐食により肉のえぐれたハウジング

 図1.4は冷却水が侵入し固着していた部分を除去したインペラ側のメカニカルシールハウジングの様子です.

側面が腐食して凹んでいることがわかります.

すなわちわずかなすき間から冷却水が侵入し,それにより更に側面の腐食を進行させ,

すき間が多くなった結果更に多くの冷却水が侵入するといった悪循環が起きていた可能性が極めて高いといえます.



図1.5 摩耗しているインペラシャフト

 図1.5はウォータポンプインペラから取り外したシャフトの様子です.

シャフト中央に摩耗して光っている部分があります.

これはオイルシールリップ部が接触していた部分であり,わずかな段付きになっていることから,

エンジンオイルの密封力が低下していると判断することができます.



図1.6 オイルシールの点検

 図1.6はメカニカルシールの奥に位置するオイルシールの様子です.

リップ部に大きな損傷はないものの,発売が2000年ということを考えれば,

ある程度衰損していると判断する必要があり,シャフトの摩耗によりリップの圧着が弱くなり,

やがてエンジンオイル漏れにつながります.

更にその奥側のブッシュの状態に大きな損傷等は見られませんでした.


【整備内容】

 消耗している部品を中心に新品に交換するという段取りで整備を実施しました.



図2.1 ウォータポンプ構成部品

 図2.1はウォータポンプを構成する部品の様子です.

衰損していたオイルシール(B)や摩耗したシャフト(A),腐食により肉の削れたインペラ(G),

ベアリング(C),ワッシャ(I)及び潰れていたシール(H),そしてインペラ取り付けボルト(J),

メカニカルシール(E.F)を始め不具合の発生している部品をすべて新品に交換しました.

ウォータポンプボデー(D)は目立つ損傷等がないことから,確実に洗浄し再使用しました.



図2.2 新品のインペラ側メカニカルシールハウジング

 図2.2は新品のインペラ裏側のメカニカルシールが取り付けられるハウジングの様子です.

均一な側面がメカニカルシールインペラ側との接触部を密封することが期待できます.

腐食した側面を肉盛修正することも可能ですが,今回は新品がメーカーから供給されていた為,

新品に交換する方針で進めました.



図2.3 インペラに取り付けられたメカニカルシール

 図2.3はメカニカルシールインペラ側をハウジングに取り付けた様子です.

インペラもシールも新品であることから高い密封性能が長期間にわたり継続されることが見込まれます.



図2.4 組み立てられたウォータポンプ

 図2.4はウォータポンプを組み立て動作を確認した様子です.

インペラ,軸,メカニカルシール,オイルシール,ベアリングといった主要な部品が新品に交換されたことにより,

本来の性能を引き出すことが期待されます.



図2.5 エンジンに取り付けられたウォータポンプ

 図2.5はオーバーホール (overhaul) の完了したウォータポンプをエンジンに取り付けた様子です.

試運転を行い,水漏れやオーバーヒート等の不具合がなく,状態が良好であることを確認して整備を完了しました.


考察】

 ウォータポンプの不具合の発生部位及び発生原因は,メカニカルシールの衰損による冷却水漏れ及び,

シールの衰損やシャフトの摩耗といったオイル漏れの2つに大別することができます.

特に発売から20年以上経過した車両であれば,

走行距離にかかわらずシールの衰損が発生していると考えてもおかしくはなく,

また実際にその様な車両からは冷却水やオイルが漏れ出しているケースは多々見受けられます.


 メガスピードにて整備・修理を承る中でも特にウォータポンプインジケータからの漏れが多く,

潜在的には製造後20年程度経過している車両に関してはそのほとんどが,

メカニカルシールやオイルシール,シャフトに何らかの不具合を内在しているといっても過言ではありません.


 この事例では特に水漏れオイル漏れは見受けられなかったものの,走行距離が20,000kmを超えた為,

エンジン各所オーバーホールするという流れの中で,ウォータポンプのオーバーホールも実施されました.

やはり症状としては顕在化されていなくても,20,000km以上走行すれば軸とシールの接触部は当然摩耗しており,

2輪に関しては20,000km走行する頃には大概発売後10年以上経過している為,

経年のみならず,走行距離からしても,20,000kmを超えていたら各所見直す必要がある格好の事例であるといえます.


 この事例でもウォータポンプ廻りはチェーンからの汚れで汚染されている為,

インスペクションホール周囲も洗浄しなければ,漏れを発見することができません.

4サイクルエンジンのウォータポンプの設置場所はドライブスプロケット周囲であることが少なくない為,

その様な車両に乗られているユーザーは実際には水漏れオイル漏れが始まっているにもかかわらず,

気がつかない,あるいは点検していない場合が非常に多いといえます.

やはり発売後少なくとも10年,走行距離にして20,000kmを超えているようであれば,

一度ウォータポンプに関してはオーバーホール【overhaul】(分解整備・精密検査)しておくことが求められるといえます.





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