トップページ故障や不具合の修理事例【二輪自動車】 エンジン関係の故障、不具合、修理、整備の事例 (事例11~20)



ボルトの緩みによるトランスミッションカバーからのオイル漏れについて


【整備車両】

5CG1 (SG01J) マジェスティSV YP250S  1997年式  走行距離:24,000km


【不具合の症状】

エンジン後方下部からオイルが漏れていました。


【点検結果】

図1はエンジン下部から漏れ出しているオイルの様子です。



図1 、エンジン後方下部からしたたり落ちているオイル

エンジンのシリンダやシリンダヘッド、ヘッドカバー、クランクケースカバー等からオイル漏れがないことや、

オイルレベルチェックでエンジンオイルの量が減っていないこと、

オイルの漏れている位置、オイルのにおい、色から漏れているものはトランスミッションオイルと判断しました。



図2はカバーを取り外し、駆動系の内部を点検した様子です。


図2 、トランスミッションカバーから漏れているオイル

トランスミッションカバー下側から内部のオイルが流れ出していました。

カバーはボルト6箇所でエンジンに取り付けられていますが、

すべて緩んでいて、このうち図のAとBのボルトはそれぞれ合わせ面から数ミリ飛び出していました。




図3 、緩んで抜け出しているボルト

図3は図2のAのボルトを拡大した様子です。

約5mm外側に飛び出していました。

これらのボルトの緩みがカバーをシールし切れずにミッションオイル漏れを引き起こしたものだと判断できます。




図4 、トランスミッション内部の様子

図4はトランスミッション内部の様子です。

ガスケットの状態に特に異常はありませんでした。

ギヤを取り出して点検したところ、歯の欠けや摩耗、損傷はありませんでした。




図5、緩んでいるクランクシャフト廻りのボルト

図5はクランクシャフト廻りの様子です。

黄色い四角で囲んだクランクケースの合わせボルトが緩んでいました。

また、エンジン右側のクランクケースカバーのボルトも規定トルクの約10Nで増し締めしたところ、

ほとんどの箇所で規定トルクに対して緩みが生じていました。


図6、なめた六角ねじ穴

図6は図5の赤い四角で囲んだボルトを拡大した様子です。

エンジンカバーを開けた状態ですでにボルトの穴がこの様な状態になっていたので、

過去にこの部分まで人が分解しようとした、あるいは分解した可能性があります。

なめている方向が締め付け方向にえぐれているので、いったん取り外したボルトを締め付けた時になめたのか、

あるいは増し締めしようとしてなめたのではないかと考えれられます。


【整備内容】

図7は取り外したトランスミッションカバーのドライブシャフト及びオイルシール、ベアリングを取り外し、

ハウジングを点検清掃、研磨した様子です。


図7、トランスミッションカバーの点検整備

今回のオイル漏れの発生原因はカバーの合わせ面にありましたが、

トランスミッションカバーを取り外す必要があったので、

同時にドライブシャフトのオイルシール、ベアリングを新品に交換しておきました。

やはりここまで分解した場合、古いものであれば同時に交換しておくことが望ましいといえます。




図8、オイルシールやベアリングを新品に交換し、整備の完了したトランスミッションカバー

図8はトランスミッションカバーの合わせ面を平面研磨し、ドライブシャフトのオイルシールを新品に交換した様子です。

トランスミッションオイルを入れ、単体でオイル漏れがないのを確認しました。




図9、試運転後に再度確認したトランスミッション廻り

図9は20km程試運転し、もう一度駆動系のカバーを開け、

トランスミッションカバーからオイル漏れがないか確認した様子です。

オイル漏れが発生していないことを確認して整備を完了しました。


【考察】

ボルトは振動によって緩むことがあります。

この事例ではトランスミッションカバーのボルトがすべて緩んでオイル漏れが発生していました。

お客様からお電話でのご相談に対してには、"出所は分からないけれどもオイル漏れの量が多い"ということから、

メガスピードでお預かりするまではエンジンをかけない方が良いとお伝えし、

その様にしていただいたので大事には至りませんでした。

しかしもしオイル漏れに気づかない、あるいは気づいてもそのまま乗り続けていれば、

トランスミッションカバーのボルトが脱落してクラッチ内部に巻き込み機関損傷の原因になったかもしれません。

またクラッチプーリーがあるのでカバーが外れたとしてもミッション内部が一式脱落する可能性は低いといえますが、

ギヤのかみ合わせやシャフトがずれたりすれば、回転中にかじったり巻き込んだりして瞬時に破損するおそれもあります。

もしミッション内部がバラバラにならなくても、

オイルがすべて抜けている状態ではギヤが潤滑不良で焼き付く可能性もあります。

やはりオイル漏れが発生した場合は、漏れている量が多ければそれ以上エンジンをかけないことが大切です。



この事例ではトランスミッションカバーの他、

クランクケースを組み立てるボルトやエンジンカバーのボルトもすべて緩んでいて、

ボルトの一部になめた跡があったので、過去に分解された、あるいは分解しようとした形跡がありました。

このことから、ひとつには過去に整備を行った人がボルトを規定トルク以下で締め付けていた可能性が考えられます。

しかし、クランクシャフト廻りのボルトやエンジンカバーのボルト等がすべて緩んでいることを考えると、

振動によって全体的に緩んだ可能性も否定できません。

このエンジンは単気筒250cc4サイクルなので、トルク変動からくる振動は大きい方だといえます。

トランスミッションカバーは明らかにボルトが締まっていなかったので、この部分は人為的、

他のエンジン部分は振動による緩みとも考えられます。

やはり年式や走行距離から必ず定期的にボルトの締め付け具合を点検しておく必要があるといえます。





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