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事例:117

シフトシャフトカバーに堆積した油汚れとシールチェーンから脱落したOリングについて


【整備車両】

 GSX1300RY (GW71A) "HAYABUSA" 隼 (ハヤブサ)  年式:2000年  参考走行距離:約22,400km


【不具合の状態】

 走行時に若干チェーンの機械的な回転音が大きくなっていました.


【点検結果】

 この車両は走行距離が20,000kmを超えた為,各所消耗品や不具合発生箇所等を精査する為,

メガスピードにてエンジンオーバーホール【overhaul】(分解整備・精密検査)を実施したものです.

ここではその中でシフトシャフトカバーに脱落したシールチェーンのOリングについて記載します.



図1.1 油汚れに塗れ,Oリングの脱落しているシフトシャフトカバー

 図1.1はシフトシャフトカバー上部に脱落しているチェーンのOリングと泥と油の混合物の様子です.

Oリングはシールチェーンから脱落したものであり,黄色の四角で囲んだものです.

少なくとも5つ以上確認できた為,チェーンの状態はかなり悪化していることが推測されます.

また周囲にオイル漏れがないことや粘度から,堆積している油の塊は走行によりチェーンから落ちたものであり,

走行距離22,400km分の汚れがそのまま発売当時から積み重なったものであると推測できます.




図1.2 Oリングの脱落したチェーンリンク部

 図1.2はシールリングが脱落しているチェーンの様子です.

赤い矢印で示した部位がOリングの脱落している箇所ですが,

全体で112リンクすなわちOリングの総数224のうち,18か所でOリングの脱落が発生していました.

これは全体の約8%ものリンクでシール機能が低下していたことを示しています.

チェーンの繋ぎ目がエンドレスであることや,その他の不具合の状況を勘案すると,

チェーンは2000年の発売当時のものであると判断することができます.



図1.3 錆の発生しているOリング脱落部

 図1.3はOリングの脱落しているリンク部を拡大した様子です.

潤滑不良を起こした結果,すべての箇所で錆が発生していました.

これではOリングの脱落によるフリクションロスだけでなく,錆による摩擦の増大で,

チェーンの動きが非常に悪化していたといえます.


【整備内容】

 今回の整備ではエンジンを一式分解整備することからシフトシャフトカバーも取り外した為,

オイルシールやベアリング等の交換も含め,カバーそのものも可能な限り清潔に洗浄しました.



図2.1 点検洗浄されたシフトシャフトカバー

 図2.1は点検洗浄したシフトシャフトカバーの様子です.

アルミ合金特有の腐食が見られた為,同時にブラッシングも施しました.

ベアリングやオイルシールを取り外し各部点検したところ,状態は非常に良好であることが確認できました.



図2.2 ハウジングに圧入された新品のシフトシャフトベアリング外側

 図2.2は点検洗浄したハウジングに新品のシフトシャフトベアリング(外側)を圧入した様子です.

シフトシャフトは内側も含めて2つのベアリングで保持されていますが,今回は両方とも新品に交換しました.



図2.3 整備の完了したシフトシャフトカバー

 図2.3は分解整備したシフトシャフト廻りを取り付け,整備の完了したシフトシャフトカバーの様子です.

オイルシールも同時に交換することにより,シフトシャフトからのオイル漏れに対する不安を事前に取り除くことができました.



図2.4 新品のシールチェーン

 図2.4はRKのSTD530XWシールチェーンの様子です.

新品なので各部に錆がないことは当然ですが,シールリングのゴムの状態も柔らかく,

長年性能を発揮することが期待できます.

新品時にメーカーで塗布されているグリスは粘度が高い為,装着後300km程度まではドライブスプロケットをはじめ,

リヤホイールやチェーンカバー等に飛散させます.

したがって,チェーン交換後はしばらく走行後は飛散したグリスを拭き取る手入れが必要になります.




図2.5 車体に取り付けられた新品のシールチェーン

 図2.5は新品のチェーンをエンジンに取り付けた様子です.

実際に走行すると加速・減速・ニュートラルの状態で後輪の動きがスムーズになったことが感じられ,

増大していた機械的なチェーンの回転音も静粛性が保たれていました.


考察】

 この車両は大手量販店でワンオーナー極上美車両ということで購入されたものですが,

走行距離が20,000kmを超えた為,各所点検整備を実施したものです.

販売元の量販店で長年メンテナンスされていたということですが,

走行時における症状としては顕在化されていないものの,

実際の部品の状態は極めて悪化している箇所が多くありました.


 この事例ではチェーンから脱落したOリングについて記載しましたが,

中古車の場合,驚く程の割合で10年以上経過した車両において,

発売当時のチェーンが取り付けられているケースが見られます.

またフロントドライブスプロケットによりチェーンの回転方向が進行側から後退側に変換される部分は,

遠心力によりチェーンの油脂類が飛び散ることが多く,新車当時から全く洗浄されていない車両では,

この事例の様に,油の塊になって周囲に堆積している場合が少なくありません.

そしてその様な場合,油の表面あるいは内部を掘り起こせば,高い割合でチェーンから脱落したOリングが埋もれています.

Oリングの脱落は,潤滑不良を引き起こすだけでなく,脱落した部位が錆びることによる摩擦力の増加,

すなわちフリクションロスに直接結び付き,著しく運動性能を低下させる恐れがあります.

また錆が発生したり,Oリングの脱落あるいはチェーンの伸びが見られるものは,フリクションロスの他に,

回転時の機械的な騒音の増大というライダーにも周囲にも悪影響を及ぼす症状が発生してきます.

これらの不具合を回避する為にも,

やはり正常なライディングを楽しむには,それらを定期的に整備する必要があるということを理解しなければなりません.





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