トップページ故障や不具合の修理事例【二輪自動車】 エンジン関係の故障、不具合、修理、整備の事例 (事例:81~90)



Oリングの衰損と接触面の荒れによるロータリーバルブカバーからの液漏れについて


【整備車両】

RG400EW-2W (HK31A) RG400Γ(ガンマ) Ⅱ型  年式:1986年  参考走行距離:約18,600km


【不具合の状態】

2番シリンダロータリーバルブ下部から液体が漏れていました.


【点検結果】

この車両はお客様が車検切れ後数年保管されている間に不動になったものであり,

メガスピードにて再生すべく,修復を承ったものです.

法定定期点検を実施していると,エンジン外観,2番シリンダロータリーバルブ下部から液体が漏れているのを発見しました.



図1.1 液漏れの発生している2番シリンダロータリーバルブカバー

図1.1は2番シリンダロータリーバルブカバーから液体が漏れ出している様子です.

オイルチェックバルブが衰損していた為
※1,漏れ出しているのは内部に流入した2サイクルエンジンオイルと,

シリンダから吹き返した混合気であると推測することができます.



図1.2 吹き返した混合気とオイルの混在しているカバー内部

図1.2は液体の漏れ出していたロータリーバルブカバーを外した様子です.

吹き返した混合気がわずかに溜まるのは構造上のものであり,

問題は2サイクルエンジンオイルが混入していたり,それらがカバー外部に漏れ出していることです.



図1.3 新品のOリング(左)と潰れている古いOリング

図1.3は新品のロータリーバルブカバーOリング(左)と取り外した古いOリングを比較した様子です.

古い方は接触部が潰れて面になっている為,断面が長方形になっています.



図1.4 接触面の荒れているOリング

図1.4は取り外したOリングの接触面を拡大した様子です.

潰れて角ができているだけでなく,ゴミをそのまま潰してしまった形跡が見られます.

ゴムの弾性により接触面のゴミは埋没している為,

このことが直接液漏れに関連していると考えるのは早計であるといえますが,

面が荒れていることには変わりなく,荒れていればすき間が発生しやすくなり,

それが漏れにつながることは否定できません.

またOリングの断面は新品であれば円形ですが,このOリングは四角形になっていて,硬化により弾力も失われ,

液体の密封性能は著しく低下していたと判断できます.



図1.5 Oリングとの接触面の荒れているロータリーバルブカバー

図1.5はロータリーバルブカバーのOリングとの合わせ面の様子です.

全体的に荒れていて,オイルの劣化したカスのようなものが付着していることが分かります.

これらのゴミ等がOリングに転写されていたものであるといえ,

発生したわずかなすき間から液体が漏れ出したものであると考えられます.


【整備内容】

今回の液漏れの原因は大きく分けてOリングの衰損と,その接触面の状態によるものであると判断した為,

それらの改善を図ることから整備を進めました.



図2.1 接触面の研磨されたロータリーバルブカバー

図2.1はOリングとの接触面を平滑に研磨したロータリーバルブカバーの様子です.

これによりOリングとの接触状態を良好にし,密封性能を向上させました.



図2.2 洗浄されたロータリーバルブ側のOリングハウジング

図2.2はロータリーバルブ側のOリングの収まるハウジングを清掃,洗浄した様子です.

カバー側と同様にOリングの設置される場所の状態を最善にすることにより,

Oリングの接触向上を図りました.



図2.3 ロータリーバルブに取り付けられた新品のOリング

図2.3は点検洗浄の完了したロータリーバルブのハウジングに新品のOリングを取り付けた様子です.

取り外したOリングが潰れていた為,ハウジング溝と面一になっていましたが,

新品は締め代すなわち潰れ代がはっきりと確認でき,密封性能の回復が見込まれます.



図2.4 規定トルクで取り付けられているロータリーバルブカバー

図2.4は新品のねじを使用して規定トルクでエンジンに取り付けられているロータリーバルブカバーの様子です.

エンジンに関する部品の取り付けを規定トルクを参考に正確な必要トルクで締め付けるのは当然ですが,

やはり何かをシールする機能を有する箇所は,正確に組み付けられなければならず,

メガスピードではキャブレータの組み立てを含め,

特にねじ(この事例ではM6×P1,0のプラスねじ)を組み付ける際のトルク管理には細心の注意を払っています.

なぜなら手で適当に締められたねじ,特にM6以上のボルト径のものは,実際にトルク検査すると,

そのほとんどが規定トルクにすら届いておらず,そのような箇所が漏れを発生させていることが少なくない為です.



図2.5 液漏れの修理が完了した2番シリンダロータリーバルブカバー

図2.5は液漏れ修理の完了した2番シリンダロータリーバルブカバーの様子です.

今回の修理では同じように液漏れの発生していた他シリンダのカバーも含めてすべてのカバーを点検整備しました.

試運転を行い,状態が良好であることを確認して整備を完了しました.


【考察】

RG400Γの発売が1985年頃であることを考えれば,ロータリーバルブカバーからオイルが漏れ出しても驚くことはなく,

むしろ部品の寿命を考えれば必然であるといえます.

メガスピードで修理を承る車両のほとんどがこの部分から液漏れを発生しているだけでなく,

重複してオイルチェックバルブが衰損してキャブレータやクランクケース側に2サイクルエンジンオイルが流れ込んでいます.

その場合はオイルチェックバルブの修理を含めた包括的な整備が求められるといえます.

この事例のように,Oリングで密封しているカバーを4つのねじで締結している場合,

錆によりねじが固着しているケースが多々ありますが,

逆に締め付けトルク不足であると判断せざるを得ない場合が少なくありません.

これは過去にボルトを手で適当に勘で締め付けたような素人整備が行われた結果であると考えざるを得ず,

特に構造的容易さや趣味性の強さから2サイクルエンジン搭載モデルはそのようないい加減な組み立てがされている,

いわばぐちゃぐちゃになったエンジンやキャブレータが頻繁に見受けられます.

今回の事例の直接の原因は,Oリングの衰損であるといえ,生じたすき間から液漏れが発生したと判断できます.

しかしねじの締め付け不良による液漏れも,部品の衰損に対して少なくない比率で存在することは無視できず,

メガスピードでは特にエンジンに関しては尚一層ねじのひとつまで正確なトルク管理で組み立てることにより,

その性能が最大限発揮されるように修理・整備を進めております.





※1 オイルチェックバルブの修理事例

   “オイルチェックバルブの衰損によるエンジン始動不可について”


   





Copyright © MEGA-speed. All rights reserved.